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塀の向こう
斉藤史人は今日も今日とて散歩をしようと家を出た。
毎朝の散歩はすっかり、隣近所のひと達に認知されているらしい。史人が玄関前でスニーカーの具合をたしかめていると、左にある塀越しに声をかけられた。
「おはようございます、毎朝、頑張ってますね」
「あ、はい。おはようございます」
史人は立ち上がり、お隣さんの顔を思い出そうとした。塀から覗いているのは皺の目立つ顔のおばあさんだ。お隣は、若い夫婦じゃなかったかな? おばあさんが同居しているんだろうか。
おばあさんはにっこり笑っていた。塀の向こうに踏み台でも置いているのか、と史人は考えた。それなりの高さの塀だからだ。そこからおばあさんの頭の上半分だけが覗いている。なんの為に踏み台まで置いてこちらを見るのか、ということは、史人は考えていない。
「うちの子達も、もっと運動してくれたらいいんだけど。ずっと家のなかでお仕事でね」
「ああ、そうなんですか」
おばあさんはにこにこして、行ってらっしゃい、と云ってくれた。
史人はいつもの散歩コースをひとまわりして家へ戻る直前、ふとお隣の前で足を停めた。
あのおばあさんが立っていた辺りには踏み台はなく、かわりに水をなみなみたたえ、大きな錦鯉が泳ぐ池があった。




