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真冬たちが去ったあと、廃ビルに2人組が現れた。
一人は十代前半くらいの少女だ。黒髪でショートボブ。服装は銀河を散りばめたような柄をしたミニ浴衣。左目には眼帯を付けている。右耳の後ろに骨で出来たお面をつけている。真っ赤な長靴がワンポイントだ。
四宝組十二幹部の一人、闇園一花である。
もう一人は、三十代後半くらいの鋭い目付きをした大柄な男だ。黒髪を後で一本にまとめている形は風車型だ。掛け布団のような白の着物には、まるで子供の落書きのような五つの花弁を持つ黄色い花がランダムに刺繍されている。履物は高下駄で、歩くとガラぁンと音がする。
四宝組十二幹部の一人、用心棒の風間清十郎である。
「清十郎!」
一花の呼ぶ声に清十郎は短く返事をした。
「なんだ」
「『彼』が、久乗さんは死んだって言ってます」
ここには二人以外に人間はいない。だが姿こそ見えないが廃ビルの中で巨大な何かが蠢いている。
「そうか」
清十郎は淡々とした口調で短く返す。
まるで朝食を食べながらニュースキャスターに相槌を打つような反応だ。
「悲しいですか?」
一花は清十郎の顔を覗き見る。清十郎は一瞥して視線を前に向ける。
「いや」
足元の砂を高下駄で踏みしめる。死んだ者に興味は無いと言わんばかりに。
「そうなんだ、あ!」
「今度はどうした?」
「また『彼』からです」
誰も何も言っていない。それでも一花はまるで誰かと話したかのように。『彼』が言ったことを伝えた。
「久乗さんを倒したのは崩紫さんだって言ってます」
「そうか」
「これも倒されるのは当たり前って感じですか?」
「勝つとは思っていなかった。久乗は弱いが善良には相性がよかった」
清十郎は落ちているバールのようなものを拾おうとする。ただの砂の塊だった。
真冬が証拠になりそうなものは全て『崩壊』させておいたのだ。
「そうなんだ、あ!」
「まとめて言え」
ガラぁン。
高下駄を鳴らし。一花のほうに戻る。
「『彼』が『魔女』がいたと言ってます」
「そうか」
「『崩壊』に『魔女』。このことは哭龍さんに報告しておきますね!」
一花は携帯電話を取り出す。
「丁度いい。俺からも哭龍に伝えることがある」
「はい?」
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真冬は個人タクシーの運転手に礼を言うと多めに金を起く、大急ぎで心紅の家の玄関に駆け込んだ。
ドアノブを捻る。開かなかったら壊すつもりだ。
幸いにも鍵が掛かっていなかった。勢いよく入る。
「な!?」
そこには見知らぬ少年がいた。
背丈の小さい少年だ。だが油断出来ない危険な雰囲気を漂わせている。明確に人とは違う箇所があった。黒曜石の鱗に覆われた尻尾が生えているのだ。大きな目はルビーのように赤い。
新手と思い構えたが、少年のほうから喋りかけてきた。
「さっさと中に入れ、坊主」
少年は真冬たちを招き入れる。警戒しながらも家に入る。
「寄越しな。あとは俺が治療する」
真冬が渋る。少年は苛立った声で言った。
「一刻を争う、そうやって背負ったまま殺すつもりか」
少年の気迫に背負っていた心紅を渡した。少年は心紅を抱き抱える。細身だがぐらつくことも無くしっかりと支えている。
早足で階段を上る。真冬は黙ってついて行く。心紅の部屋に入っていく、真冬もあとに続く。少年が振り向く。鋭い目付きだ。
「お前はダメだ。後で治してやるから、あの部屋にいろ」
少年は器用にも尻尾で真冬が使っていた部屋を差す。
何が何だかわからない真冬は少年の言う通りにした。
部屋に戻る。ボスンとベッドに腰掛ける。膝に肘を立てて手を顔の前で組んで額を乗せる。
床をじっと見つめる。
自分の肉体のダメージよりも心紅のことが気になって仕方が無い。
(心紅は大丈夫なのだろうか。あの尻尾の生えた少年は誰なんだ。治療と言っていたが俺の傷を治したという薬を使うのだろうか?そもそも本当に任せきっていいのか)
ぐるぐると思考が回る。




