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その日はそのまま部屋で休むことになった。
トイレを借りる時に真冬は間取りを確認した、部屋には入らなかったが、見た限り全ての窓のカーテンは閉められていた。次にここがどこなのか確認するためにこっそり廊下の窓から外を見た。魔女というからにはグンマの森という可能性もあったが周りは真冬のよく知るトウキョウの住宅街だった。
この辺りは富裕層や一般家庭が住む一軒家が多い。この家も例に漏れず一軒家だ、それも三階建て。
心紅はこんな広い家に一人で住んでいるらしく家族とは会わなかった。もしかしたら出掛けているだけかもしれない。
(銀鏡の歳は知らないが(魔女というからには見た目で判断できない年上かもしれないが)このトウキョウで若い女性が一人暮らしか。もしかしたら銀鏡は金持ちなのかもしれない。懐事情は知らないがあんな薬があればいくらでも稼げるはずだ)
心紅の用意した夕食はこの豪邸にしては質素なものだった、しかし栄養面を考慮しているのがよくわかった。何より真冬の好きなものばかりだった。
「いただきます」
(鮭に味噌汁に納豆、それに漬物か。魔女なのにバリバリのニッポン食なのか。いやこれも偏見か……絶妙な塩加減だ。美味しい。ご飯が進む!)
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした。どうだった?」
「俺の好きなものばかりだった、味付けも最高だ、美味しかった」
「そう。それはよかったわ」
翌朝。
真冬は貸してもらった洗面用具一式を使い、洗面所で身なりを整える。
ほどなくして心紅が現れた。
「おはよう······早いのね。ふぁ」
心紅は口元を抑えて大あくびをする。目は開けてるのか閉じてるのかわからない線状態で、口もむにゃむにゃとしており、髪もしっちゃっかめっちゃかだ。
「朝弱すぎるだろ」
逆に真冬は寝起きがとてもいい、それは実戦の中で培われた技術だ。起きてすぐに戦うことが出来る。
「あのね、何時だと思ってるの? 5時よ、5時」
「早い方がいいと思ってな。というか構わずに寝てればよかったのに」
「いい、もう起きちゃったし。学校の準備でもしようかしら」
「学校といったか? 銀鏡さん学校に通っているのか?」
「なによ、花も恥じらう現役高校生よ」
(どうやら見た目通りの歳らしい)
「ほら、これ」
「これは?」
心紅が差し出したのは一枚の札だ。
「書いてあげたから持っていきなさいよ」
札を見る。見たことのない文字が書き込まれている。
「なんだこれ?」
「『認識札』よ。それを持っていれば外からでもこの家を認識できるようになるわ。これくらいなら手伝ってもいいでしょう?」
(なるほど、それで銀鏡さんはこの家に迷わずつけるのか。ふむ、見たところ複雑な文字だ。もしかしてこれを書いていたから寝不足になったんじゃないだろうか?)
「わかった受け取るよ、ありがとう。銀鏡さん」
「お礼は『下の名前で呼び捨てで呼ぶ』で、いいかしら。真冬」
「ああ。ありがとう。心紅」
ヒヒッと心紅が笑う。
(あ、今の笑いかた魔女っぽいな)
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい、生きていたらまた会いましょう」
______
伝法は狼狽していた。
真冬がいきなり道に現れたのだ。
心紅の家から出るまでは認識できてなかったので、伝法には突然そこに現れたように見えたのだ。
「な、なんだぁ? 何が起きた? 突然現れやがったぞ」
「ぶぅ、ほらいたじゃないですか!」
「うるせぇ! 黙ってろ! あいつに気づかれるだろうがッ!」
伝法はゴツンとピッグマンの頭を殴る。ピッグマンはブヒっと鳴いた。
「す、すいません。にしても崩紫のヤツ、ピンピンしてますよ?」
「治療した仲間がいるってことだろ、少しは考えてから物を言え。クソ、崩紫が生きているとはな」
(風間さんが致命傷を与えたって言うから油断してたぜ。仲間なんざ居ないと思っていたが、崩紫みたいなやつにも協力者がいるときたか。クソ、きな臭くなってきたぜ)
「あの」
「なんだ」
「このこと本部にも伝えた方が······」
「それはいい考えだな。お前を養豚場に送り届けるのが先になるがなぁ、ええ?おい」
「な、なんでもありません!」
「追うぞ。絶対に見失うな」
「へい」とピッグマンは返事をすると鼻をひくつかせ、真冬の追跡を開始した。




