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(魔女? 魔女と言ったか)


 真冬はそれに近い能力者がいるということは聞いたことがあった。しかし目の前にいる心紅のその姿は真冬がイメージする魔女像からかけ離れていた。


「魔女にしては服装が普通だな。本当に魔女なのか?」

「あら、崩紫くんに格好のことでとやかく言われたくないわね」


 全裸。布団にくるまった全裸。全裸だるまなのだ。

 返す言葉が見つからない。


「そんなものよ。三角帽子をかぶって黒ずくめの格好をして箒にまたがるなんてフィクションなのよ。仮にそうだとしても仕事着を普段着にしている人がいるわけないじゃない。認識を改めなさい」


(俺、いつもスーツ着てるんだけど……ってそんなことはどうでもいい)


 真冬はここまでの疑問を全て魔女だからの一言で済ませることにした。


 魔女だから特別な薬を持っている。

 魔女だから結界を張ることができる。

 魔女だから俺を助けた、のだと。


 数多の疑問を真冬はそう割り切ることにした。違う部分に思考リソースを割くべきなのだ。


「ここが安全なのはわかったが、俺はいつまでここに居ていいんだ?」

「うーん、拾っちゃった責任もあるし。最後まで面倒見てあげるわ」

「だから捨て猫かよ」

「もしかしたら元の場所に戻してきなさいってお母さんに言われるかもね。私一人暮らしだけど」

「やっぱり捨て猫扱いじゃねーか!」


 そんなコントをやっていると心紅が改まった表情をした。


「大事なことだから繰り返すけど。崩紫くん、私は魔女なのよ?」

「もうそういうことで納得するよ」


(そもそも能力者の使う技は大体が荒唐無稽なものだ。俺の能力だって原理を説明できない)


 真冬が即答すると心紅が面食らった顔をした。そして僅かに俯いた。


「そう……気に、しないんだ」

「どうした?」


 心紅の表情はすぐに戻った。


「なんでもないわ。それで崩紫くん、貴方はどうしてあそこに倒れていたのかしら」


 真冬はこれまでの経緯を説明することにした。

 と、その前に。


「とりあえず服を着たい」


 いつまでも布団だるまのままでは格好がつかない。

 少なくとも話をする格好ではないだろう。


「わかったわ。持ってくる」


 心紅は部屋を出る。そしてすぐに帰ってきた。

 予め用意しておいたのだろう。


「はい、持ってきたわ」


 手渡されたスーツ一式を真冬は礼を言い受け取った。汚れどころか切り裂かれた部分も綺麗に縫われており新品のようにクリーニングされている。下着も洗濯してありいい匂いがする。


 10秒経過。

 真冬は無言で心紅を見つめる。心紅が小首を傾げた。


「ん? なにかしら?」

「······着替えるんだけど」

「知っているわ」

「一旦出てくれないか?」

「嫌よ」

「なんでだよ!?」


 何度か同じやり取りを繰り返し退室させた。


 真冬は着替え終わると体を軽く動かしてみた。小さくジャンプしてみたりシャドーをする。


(痛くない、むしろ万全のコンディションだ)


 少しして心紅が帰ってきた。紅茶を持ってきた。

 湯気が立つ、いい香りが部屋を包む。


「飲めるかしら?」

「ありがとう」


 座ると真冬はそれを一口飲む。食に無頓着な真冬でもこれが良いものだとわかる。それくらい美味い紅茶だった。


「別に浮世のことに興味はないけれど、暇つぶし程度に聞いてあげるわ」


 心紅は背の低いテーブルを挟んで真冬と向かい合うように座る。


 真冬はどこまで話そうか思案する。深く話せば心紅に被害が及ぶ可能性がある。慎重に言葉を選ばなければならない。


四宝組(しほうぐみ)って知ってるか?」

「知らないわ」


(有名な組織のはずなんだが)


 真冬は肩透かしを食らった。


(相手は魔女だ。常識が通用するほうがおかしい)と気を取り直す。


「四宝組ってのはだな。トウキョウで活動している能力者のみで構成された裏組織だ」

「へぇ。ヤクザってわけね」


 心底興味無さそうに、心紅は相槌を打つ。


「俺はその組織に所属していた」

「していたってことは、今は違うのかしら」

「裏切った」

「だから報復を受けてあそこでボロ雑巾になってたってわけね」

「ボロぞ……」

「実際そうじゃない。それで、どうして裏切ったのかしら?」

「一年前に四宝組の組長が亡くなったんだ。それから跡を継いだ息子が組織のやり方を一新して……汚い仕事も請け負うようになった」

「それが原因?」

「そうだ、決意したのは昨日。あいつら能力者の少女を拉致してきたんだ。一線を超えたんだ。それが許せなくて俺は少女を逃がした」


 へぇ。と、適当な相槌を打ってから心紅は続けた。


「いい考えがあるわ、このまま死んだふりをして、どこか異国の地で暮せばいいのよ」

「ダメだ。奴らは裏切り者を始末するまで絶対に諦めない」

「ふーん、それなら全面戦争ね。崩紫くんが死ぬか、四宝組が滅ぶか」

「簡単に言ってくれるな、無理だ」

「どうして?」

「確かに人数だけで見れば四宝組の構成員は数百人と少ない。だがその全員が能力者なんだ。下っ端でも一般人とは比べ物にならないパワーがある。それに一番厄介なのが幹部クラスの連中だ。十二人······いや、俺が抜けたから十一人の強者(つわもの)がいる」

「面倒ってことはわかったわ。すると崩紫くんも能力者なのね」

「ああ」

「みせてみせて」


(能力者が手の内を見せるのは御法度なんだけどな)


「何か要らない物あるか?」

「友達から貰った謎の像があるわ」


 そう言って心紅は蛙と蝙蝠が合体したような。こぶし大の像を取り出した。


(正しく謎の像だな。なんだこれ、きめぇな。というか友達から貰った物を要らない物として差し出すなよ)


「まぁいいや、ほら」


 真冬が右手で拳を作る、すると拳から暗緑色のオーラが溢れ出る。とても不気味なオーラだ。


 不気味オーラを纏った拳で像を小突く。オーラの一部が付着する。すると小突かれただけなのにも関わらず簡単にヒビが入った。そしてオーラはどんどん広がっていき。像をボロボロに崩壊させていく。


 一分も掛からずに像だったものは砂となった。


「俺の能力はこのオーラで崩壊させる能力でーー」


 真冬が説明し終わる前に心紅が叫び声をあげる。


「なんてことしてくれたのよ! 友達からもらったキモい像が! 粉微塵じゃない!」

「な、何言ってんだ! 俺は要らない物はって聞いたじゃないか!」

「なによ! やるっての! いいわ! 相手になってやるわ!」

「わ、悪かった! 説明する前にやっちゃったもんな! ごめん!」

「卑怯よ、謝るなんて、友達になんて言えばいいのよ」


 心紅にぽかぽかと殴られていると、真冬は違和感に気づいた。


 何かが真冬の横を通り抜けたのである。誰かとすれ違ったような感覚だ。真冬は素早く振り返る。しかしそこには誰もいなかった。


「なによ! 話すらしたくなくなったの! 上等よ!」

「なんか横切ったような?」


 心紅の手がピタリと止まる。そして態とらしい笑みを浮かべた。


「お、オバケかも、ゴーストバスター呼ばなきゃ、ヒヒ」


 しまいには口笛を吹き、そっぽを向く始末だ。


(凄くあやしい、絶対何か隠している)


 怪しいのは確実だが命の恩人相手に詮索もすまいと、思うに留めて話を戻すことにした。


「ま、そんなわけで俺は明日朝一番にここを出て行く」

「どんなわけよ。さっきの像のことなら気にしなくてもいいわよ? 実はそんなに怒ってないし」

「そういうことじゃないんだ。どっちにしろ、俺が大手を振って外を出歩くためには、四宝組とやりあわなきゃならない」


 『狂ったように走り回る。狂犬みてぇなガキだなコイツはよ』真冬は先代組長、伯龍はくりゅうの言葉を思い出す。


(どうしようもない俺を拾ってくれた。家族のように接してくれた)


 真冬が四宝組に属していたのは、先代がいたからであった。先代が居てこその四宝組だった。


(四宝組が間違った道を歩むと言うなら自分が引導を渡す)


「もしダメだったら。またここに転がり込むかもな」

「結界の効果で外からじゃここを見つけられないわ。だから、連絡先教えなさいよ」

「ダメだ。捕まったときアドレス帳に銀鏡さんの番号が残っていると被害が及ぶ」


 「はぁ」と心紅はため息をつく。

  そして不機嫌そうな態度で言った。


「あのね、私を侮らないで。私は魔女なのよ。いくら迷惑掛けたってスルリと抜けていくわ」

「それでもだ。これ以上命の恩人を危険に晒したくないんだ」

「貴方、絶対早死にするわ」

「実際、昨日死んでただろ」


 真冬は不器用にハニカミながら言う。


(素直に生きていけること。譲らず生きていけること。自由に生きていけること。こんな誇らしいことは無い。なんて幸せなんだろか。伯龍に拾われ、魔女に助けられた。もう十分この世界の正義(しろ)を見た)


「何を満足そうな顔してるんだか、はいはい、好きにすればいいわ。せっかく助けてやったのに、この私が助けてやったのに、わざわざ死にに行くやつのことなんて知るもんですか」

「俺はこれしか知らないからな」


 拳を突き出す。空間に少しヒビが入りすぐに消えた。




















______




















 時同じくして、銀鏡宅前。


 二人組の男がいた。

 サラリーマンを絵に描いたような細身の男がボヤいた。


「見つかんないなぁ、ちゃんと探してんのか?」


 見た目に反してガラの悪い話し方をするこの男の名は久乗伝法くのりでんぽう。四宝組十二幹部の内の一人だ。


 床を這いつくばって鼻を鳴らす大男がそれに答えた。


「へ、へい。臭いはここらからしてるんですが、何故か見つからなくて」


 このアロハ服を着た豚のような風貌をした大柄なチンピラは通称ピッグマン。伝法の部下だ。


「ピッグマンよぉ。俺ァおめぇのその『豚』の能力ってやつ信じてよぉ、崩紫の死体を見つけてポイント稼ぎしようとしてんだ。期待裏切るような真似すんじゃあねぇぞッ!」


 伝法の蹴りは四つん這いの姿勢のピッグマンの横っ腹に命中した。ホビーのような叫び声があがる。


「プぎぃっ! ほがっ、す、すいません。け、蹴らないでください!」

「蹴られたくなかったらしっかり探せぃ!」


 伝法は懐に手を入れタバコを取り出す。それにピッグマンが反応する。


「く、久乗さん、タバコは、ちょっと······匂いが混じって探しにくくなります」


 伝法はもう一度、ピッグマンを蹴り飛ばした。ブヒっと下から悲鳴がする。

 擦りむいたのかピッグマンの肘から血が滲んでいる。伝法はそれを見て微笑する。


「向こうで一服してくる。何かあったら連絡しろ!」

「へ、へい!」


 離れつつ胸ポケットを漁りライターを探すが無かったようだ。


「チッ『こいつ』ライター忘れてやがる」


 自分自身にそんなことを言い伝法は夜の街に消えた。



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