グレイシーとメラニー
グレイシーとメラニーの話。
グレイシーはメラニーと一日の終わりに向けてゆっくりとテーブルを囲んでいた。
新しく出来たカフェは最近ではお気に入りだった。
そこは老舗レストランのオーナーの子どもがはじめたカフェで、そのオーナー夫妻のことは昔から好きではなかった。
学生時代、それも中学生ごろから家族でそこに行くとなるとうげえとメラニーと顔だけでメッセージを伝えあったものだった。
その子どもがカフェを開業させたときは、付き合いでの初回利用に留めようと思った。
だけれどある日、時間がなくて手早く腹を満たせて会話もしなければならないことがあった。そのときに何も気にせず居られるとお互いに感じた。それからはちょくちょくと利用していた。
お互いに学生時代のように戻った気分にもなった。
立場だとか、誰かの視線が財閥の人間なんだと言っていない。
メラニーの家にいたっては財閥ではないけれど、世界の技術や芸術関連のスポンサーになってÐ国の力を盤石にさせることに成功させている。
それがスペランツァ一族のみならず財閥にも微々たる影響を及ぼしていた。ビジネスの世界で一種の横取り行為として扱われていることだったり、そこが紹介しているのだからと言った安心の声だったりと様々だった。
現在ではメラニーがかじ取りしているようなもので、グレイシーは幾度も喜怒哀楽を突きつけてきた。
「ハルはいつお戻りになるのかしら?」
メラニーはからかいの声色だった。
グレイシーはメラニーの変わり身の早さに感心しつつもそれを表情にも声にも出さないように努めた。
「もうすぐよ。今ごろ空の上に居るわ」
「あたしにお土産ってあるのかしらねえ」
「あるわけないじゃない。言ってしまえば、あなたのご実家関連で迷惑をこうむったようなもんなのよ? どうしてラッピングされたものを渡されると思うのかしら」
「あのね、これはあたしには関係ないことだった。それに実家と言ってもバックアップをしているのは大叔父の子どもの子どもよ? しかも資金繰りもヤバヤバの真っ赤か!」
「だとしてもよ。それを放置しているのは、一番の問題だわ」
「まあ、そうよね。父は嗅覚だけはあるのに、操縦手腕がないの。目を光らせるにはあたし一人ではきついし、社員も父の嗅覚に集まったもんだから小娘のあたしに頷いても手を貸している内に好奇心に突き動かされてしまって……」
「収集つかないんでしょ?」
メラニーは溜息という名の相槌を打った。
頭痛の種は毎日増えては、見えなくなりながら潜んでいる。
ビックリハウスの仕掛けのようにまた、顔を出すこともしばしあった。大叔父の子どもの子どもが引き起こした問題のように、どうして放置していたのかと気絶したくなる類のものばかりが。
「ねえ? ハルに謝罪するにはどうしたらいいのかしら?」
ニッポン人は誠意を見せるという行動が好きだと聞いている。
Ð国のみならず、誠意を見せるというのは立派な人間には持って然るべきものだと信じている。
でも、メラニーとハルはそこまで仲良くしたことがない。
どこか釈然としない──どうしてグレイシーはこのニッポン人に惹かれたのだろうか? グレイシーが選んできた、今までの恋人たちとはまったく違う。
そう思って、本当は対処できるような状況があったポイントをみすみす見逃してきた。
ひどい友だちだという自覚はあった。
メラニーのルーツは東欧が色濃い。
その中で数々の差別を繰り返し、生き残ってきた。
父親はそれを戒めと感じているが、母方としてはそういった感情すら見せない。
むしろ、メラニーを見て気絶や見捨てられた試練と慄いた。
ただ、先祖返り──母方だか父方だかに情熱的に愛を選んだ人が居た。国家、民族を超えた愛を──しただけのことだったのにも関わらず。
その経緯から、メラニーは罪悪感と信仰は紙一重なのだと感じて生きてきた。
グレイシーがふと漏らした、息抜きを必要としていると言ったときに一つの選択肢が見えた。
すでに学生時代は遠くになってしまった。これから先、目を凝らさないとならないほどの遠くに行くのだろう。
グレイシーはセレブ然としたところが見えないが、これまでもそういった付き合い方の人間ばかりだった。
切って捨てる程度の愛情なのか、それとも真の愛情を抱いているのか。抱いていても結局、様々な壁を言い訳にして諦めるのか。
諦めたとき、彼女は引きずる感情を胸に秘めるのだろうか?
あのニッポン人──ハルはどう生きるのだろうか?
生き方に迷っているようだったら、それこそ暴露本を囁けばいい。
ハルの文章力は良い線いっている。ゴーストライターを立てずに、いやむしろそのままの文体で出させた方が良い。彼女のファンはかなり居る。ブログの一部や番外編として電子雑誌に掲載されてもいる。
メラニーはそこまで考えた。
考えてなおも、その先の未来もいろいろと計画したりもした。Ð国の審査の面もあるが、あえてハルを国外のニッポンでもない国に移住させる。それがグレイシーには堪えるかもしれない。
「──ハルはそこまで考えないわよ」
グレイシーの言葉にはっとした。さんざん妄想した計画を知られたかもしれないと。
「え? なんて?」
「メラニー……聞いてなかったの?」
呆れた溜息がグレイシーの口からわざとらしく出た。
「ごめん。ちょっと疲れが一気に出てるかも」
濁して答えた自分に呆れたもの、グレイシーが言い訳を盾にすればこの計画を実行できるようにもっと練れるように、ハルへの挨拶はやっておこうと改めて刻んだ。
「ハルにもっとこの国の家族と過ごせるように手伝うわ。次の芸術祭のレポート記事の依頼も頼みたいし」
グレイシーは名案だと嬉しそうに頷いた。




