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友だちと喧嘩した日

 キミコとなぜ、連絡を取れなくなるほどになったのか。

 それをグレイシーにすらきちんと話せなかったのか。


 それを考え出すとぐるぐると同じ場所を何度も何度も通ってしまう迷路にいる気分になっていた。

 その日、ただいつものように月に一度、お互いの休みをなんとか工夫して合わせて待ち合わせていた。


 よくキミコが贔屓にしていたセレクトショップの店員には、

「なんだか恋人以上の親密さと家族のような気安さがありますね」


 と言われていた。

 私とキミコは顔を盛大に顰めて、同じ言葉を口にした。

 それすらも羨ましがられたものだから、首を傾げたものだった。

 今になって思うけれど、そんな友だちは一生に出会えることが少ないのだ。



 春を迎えたばかりだというのに、夏のような気温とそれに伴うかのように陽射しもきつく、起きているのも何をしているのも暑さを感じた日だった。

 晴れ渡った空の下に生まれたからと、名付けられたものの私は晴れの陽射しがきつい日が好きじゃなかった。

 眩しさと眼精疲労のような似たような症状から頭痛がするからが一番の理由だった。


 準夜勤という勤務から終えて、帰宅した時から頭痛の前兆があった。

 だけれど、誰かの大切なものや真綿で包んであるもの──痛みを伴って荒治療が必要であろうと当人の了解を得ずになどとはもっての外──をどこか馬鹿にしたかのように、言い訳に使ってはいけないのだ。




「おまたせ~。今日は暑いなあ、なんか蚊がうろついてんやけど気のせい?」


 心の無しかキミコも生気に乏しい顔色だった。

 キミコは当時、居酒屋と母親と祖母が営んでいた総菜屋を手伝っていたからか睡眠時間は短時間を合計してようやく推奨されているものになっていたであろう。

 私は他人よりも自分の感覚しか見ようとしていなかった。


「なんか体調悪いん? 今日は解散する?」


 キミコを気遣っている言葉だったけれど、そこに込められていた感情は苛立ちだった。

 私はその苛立ちを抑えるべきだと知っている。人間関係には多大なる努力が必要とする。

 自分が、自分がと言うのは簡単で、関係を瓦解させるのも一瞬でできる。

 でも、築き上げることは三分クッキングではない。壊れた関係も握手だけで修復できることは難しい。それどころか、根強く育った相手の猜疑心を前にどんな覚悟も決めて相対しなければならないとも知ってはいる。


「べつに。ふつうやで。今日、服見に行きたいから早よ移動しよう」


 些細なことを気にできる人ならこの瞬間に空気が変わったと思うべきだった。

 自分の態度をいま一度、見直しておこうとか、服を存分に吟味するに任せて自分ももっと楽しめるテンションに取り掛かろうとか考えておけばよかったのだ。



 何軒かのショップと駅ビルから一度、休憩を取ろうとカフェを探している時だった。信号無視をしてきた車がいて、それに気が付いたキミコが怒声を浴びせた。

 ひどく汚くて、それでいて勇敢な態度だった。だって、傍には小さな子どもも足許がおぼつかない歳をめしたカップルも居たのだ。

 でも、私がその時に感じてしまった感情は恥ずかしいだった。


「キミコ。そこまで言わんでもええやん。恥ずかしい」


 感情のままに伝えた。


 友だちだから、一緒に居る人間のことも考えてくれと。


 友だちだから、過去を割り切った態度で居てくれと。


 友だちだから、感情よりも理性を働かせておいての咎め方をしてくれと。


 無数の言い訳になっていく、友だちという言葉。


 自分のことを棚に上げておいての「友だち」。



「あ? なんやて? あんた、歩行者がおる路地から路地にかけて信号無視してくる方が悪いやんけ。なんもあたしは間違ってへんわ」


 売り言葉に買い言葉だ。今にして思えば、そこはそう思って抜いた刃を収めるべきだった。


「一緒やん! やってること。罵声上げても周りはびっくりするし、きっかけを窺ってる輩と同類やん!」


「そうか、恥ずかしいねんたら離れたら? これがあたしやねん。

あんたは自分だけちゃうって思うてるやろうけどな、今日一日のあんたも胸糞悪い! いっつも自分は冷めた立ち位置の我慢してるポジかもしれんけど、あたしかてそうやからな!」



 キミコの口からは日ごろ、私がしていた態度への気持ちがあふれ出ていた。濁流のように、ただひたすら流れを考えずに勢いだけしかなかった。

 キミコの目からは言葉にできなかった感情がそこにしか場所が見つからなったかのように涙が出ていた。

 遠巻きに眺める人ごみが私の羞恥心をあおった。


「やったら、離れるべきやな」


 なんでそんな言葉を吐ける? こんな自分でも楽しんでくれた友だちなのに。


 なんでこの場を離れようと足を動かす? 何も休日の予定がない私に、休日を待ち遠しくさせてくれた友だちなのに。


 なんで……どうして、振り返って戻って「ごめん」と言えない? 今なら、ぎくしゃくしてもまた、笑い合えるかもしれないのに……。





 駅のホーム、車内でずっとキミコとの思い出が過ぎ去っていく。

 居酒屋チェーンの会社を辞めた日のこと。そのきっかけになった父親との事業。日々蓄積される愚痴の多さ。



 ──自分はなんて自分しか、考えていなかったのか。



度々遅くなって申し訳ございません。

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次話投稿はもう少し早めに出来そうです。


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