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過去を見直すために

 目が覚める場所が違うと無性に会いたくなる。



 そんな相手と添い遂げることがしあわせなのだと語った雑誌を高校時代に読んだ気がする。

 今どうしているだろうか。よりも、ふと目にとめたモノを分かち合いたくなる相手。

 そんな友人、恋人と出会うことが仕合わせなのだと。それを読んだ時はあまりよくわからなかった。

 だけれど、日が経つにつれて月が捲られる度に、歳が増えるとともに期待を募らせていた。



 ──いつか、自分にもこうしてなんでもない一日を、それこそ何度も送ってもこの人だからこそなんだと思える相手に出会えるはずだ。




 今はその気持ちと同じなのかどうかはわからない。

 今日、目の前の席を埋めるはずの相手がここから先の抱く心を決めるかもしれないと、他者に委ねておく。

 流れに身を任せる人生が性に合わないとか思いつつ、誰かに決めてもらわないといけない自分。嫌になる。嫌になるけれど、無様に足掻くよりも「あ、こんな人生もありだな」と感じるように努力はしているつもりだ。




 完全に電子タバコオンリーになったニッポンで、喫煙席を探すのは容易ではなかった。

 医療法がそれを決めてしまい、ニッポンで生活しなくなった私には覚えきれない制限が数多ある。待ち人が今もタバコを吸うのかわからないから、喫煙席のある店を探しておいて指定した。


 よく待ち合わせに使った喫茶店はすでに完全禁煙になっていた。

 今はすでに禁煙になってしまったその喫茶店で待ち合わせすると、一時間は必ず滞在していた。軽食という名のカレーライスを平らげる私を見て笑っていた。

 私はその時、青春時代だった。



「ひさしぶり。ちょっと、感じ変わってるやん」


「ひさしぶりってほどでもないやん。ほんまキミコの時間感覚はアレやな」


「アレちゃいます~。キミコが世界を回してるんです」


 どや顔で言って、真っ先にタバコを手にして、店員には低姿勢で注文をする。好感度が目に見えるのであれば、キミコはおかしな数値を示しているだろう。


「ハルは今日もカレーライス、いっとく?」


 変顔をしながらこう言うもんだから、店員を巻き込んで笑いを引き出すのがうまいと思わせられた。


「いっとく、いっとく!」


 お腹を抱えながら、それを口にするのが精いっぱいでたぶん、迷惑な客リストに載っていたかもしれない。


「え? 今日はカツカレーですか? すいません、この子にはカツカレーをお願いします」


 勝手にカツカレーにされたり、カレードリアにされたこともあった。

 キミコは人の沸点を見抜くのがうまく、私以外にはこんなことはしないことの方が多かった。

 より空間を楽しめる努力を怠らないとでも言うのだろうか。その陰に、どうしても相いれない人たちへの小さな嘆息を語る姿を見てもいた。



「この前、カレシの元バンド仲間っていう人を含めた飲み会に参加してんけど──てか、強制参加させられたんやけど。ここ重要な、先に言うてくれやんのよ、いつも!

 ご飯行く言うから仕事終わって待ち合わせしたらさ、打ち上げとかに使う店に連れてかれて、あれ? ここって……て思う暇もなく、「おつかれ~」ってジョッキを上げる状況やねん。

 文句言おう思うて口開けたら、「はじめまして~キミコって言います」って言うてんよ。どう思う? あたし、自分の外面が信じられん」



 会話とはテンポだとキミコによって教えてもらった。愛想を振りまく人々の心境が様々だとも教えてもらった。



「なんかさ、最近さ。好きとかああ! こいつの隣落ち着くわあ! っていう感情が出てくるん遅いっていうか。うん、違う感情に押しのけられてしまってるんよね。座席取りのおばちゃんみたいに。何々さあ~ん! ここ、ここ! ここ空いてるよ! って」


 歯切れの悪いキミコをはじめてみた時だった。知り合って一年足らずはお互いに探り合いだった。それが首元を緩める仲にも、冬場のブーツを脱いだ時にニオイを揶揄い合える仲にもなれた。でも、弱さを笑いに変えるキミコが歯切れの悪い口調で言ってきたこと、それが後々に、瓦解してしまう関係の兆候だったのかもしれない。






「なんか頼んだん?」


 がやがやとしたオオサカらしい喧噪の中で、喫茶店の思い出に浸っていると声が降ってきた。そこには当時とは全く違った化粧とほんの少しだけ、キミコ色に戻った服に落ち着いた当人が居た。


「いや、コーヒーだけ。その色、似合ってる」


 何を口にすればいいのか、してはいけないのかわからなかった。とっさに出た言葉は今日の服装を褒めるものだった。

 極彩色と黒のパンツスタイル。それが一番落ち着くし、キミコ色なんだと言っていた。彼氏によって極彩色を封印し、ダメージジーンスやシックに見せる服装に変わってしまったのだと、進化してゆくのだと憂いを閉じ込めた輝く笑顔で言っていた。


「だってあたしやし。あんた、変わらずにホットなん? うわあ~ちょっと席変わろかな」


 変わらないやり取りを、ギクシャクしないでいられる状況を作ってくれたキミコに泣きたくなった。

 私は友のことを考えていなかった馬鹿なのに──。


「いやいやいやいや! 何、泣いてんの? あたしは許してませんからね。そこだけはきっぱりはっきりと宣言致します! あ、アイスティーひとつ。シロップ多めに頂いても……」


遅れました。

次回からは二日か三日に一回の更新になりそうです。

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