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謙虚と誠意

(仕込みはともかく、一宿一飯のお礼をしようとするなんて、あいつも殊勝なものじゃないの)

(え?)

(え? 「え?」って何? 「え?」って?)


 ナーシュは親切な人に泊めて貰いながら、スローライフに適した場所を求め歩いていた。

 その道行きで絹を裂くような男の悲鳴。

「ひぃえぇぇっ! 助けてくれーっ!」

 比喩が明後日なのはおいといて、中年男が息も絶え絶えに魔物の集団から逃げ回り、ナーシュの方へと向かって来ていた。

『すわっ! MPKか!』

『違います』

 心の叫びにナビゲータースキルが即答した。


(ふうぅ)

(何を一仕事終わったような顔してるのよ?)

(ここで彼に気取られたら仕掛けが破綻するからね)

(んー、まー、そうなんでしょうけどー。ところでMPKって何?)

(ゲーム用語で、モンスターを使った人殺しのことさ)

(人殺し? ゲームで「膝に屋を受けてしまってな」とか言ってる人を殺すとか?)

(違う違う。それはコンシューマーゲームでしょ。これはMMORPGの用語さ)

(えむえむえ?)

(MMORPG。略語だよ)

(何の略?)

(マルチ何とかマルチ何とかオンラインロールパン何とかゲーム)

(『何とか』ってね……。あんただって知らないんじゃないの。どうせ略称だけ憶えたんでしょ?)

(ぐぬ……)

(しょうがないわね……。MMORPGでしょ? ちょちょいのちょいと……、マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム……。何よ、「何とか」で誤魔化さなかった部分も間違えてるんじゃないの!)

(ぐぬぬ……)

(ふっふっふ、してやったりだわね)


「お助けーっ!」

 中年男が駆け寄って来て、ナーシュの陰に隠れるように動く。

「おいっ!」

 ナーシュは中年男に文句を付けようとしたが、それよりも魔物が早い。

「しょうがないな、もう」

 \どーん/

 ナーシュは魔法で魔物を一蹴した。

「はあぁ、助かったー」

 中年男が安堵の息を漏らすが、ナーシュは魔物を擦り付けられたことにご不満だ。

「おい! 魔物を押し付けてくるとはどう言う了見だ!?」

「も、申し訳ございません! 動転していたもので……」

 中年男は平身低頭する。そして懐から金貨の詰まった袋を取り出す。

「このようなもので不躾ですが、お礼させてください」

 ナーシュはその金額に思わずにやけた。

 しかしここで考える。直ぐに受け取っては浅ましく見える。ここは謙虚に振る舞って、一度は断って見せよう。

「必死だったなら仕方がない。お礼も気持ちだけ受け取っておこう」

 中年男は目を輝かせた。

「おお! 何と慈悲深いお方だ! そんなお方にお礼を受け取るように無理強いもできません。本当にありがとうございました」

 中年男は金貨を懐に戻し、幾度か頭を下げると立ち去って行く。

 呆気に取られるのはナーシュだ。

「ちょっと待て!」

「はい? 何か?」

「今のはどうなんだ? 謙虚に見せたら『そんなことは言わずに』って誠意を見せるところじゃないのか?」

「これは異な。今思い出しましたが、貴方様の噂は聞いておりますよ。何でも民家に泊めて戴きながら謝礼も渡さなかったそうじゃございませんか」

「それは! 相手が断ったからだ!」

「はい。だから私めも貴方様がお断りになられたのでお取り下げいたしました。それが何か?」

「だから誠意をだな!」

「それでは問わせていただきますが、貴方様は民家の主の方々にその誠意とやらをお見せになられたのですかな?」

「ぐぬ……」

「ご理解いただけたようですので、これにて失礼いたします」

 中年男は去って行った。


(ずこーっ)

(いやあ、実に殊勝だったねぇ)

(呼び止めて、誠意を求めてごねたら台無しだけどね!)

(まあ、その後で強請りまではしなかったからいいんじゃない?)

(強請ってたら?)

(勿論、御用さ)


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