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連日投稿失礼します。悠子







「お、お待たせ致しました。セシル様。」

「ああ、いえ。私も今着いた所です。では、行きましょう。」


あれから数日。定期的に会う私達のお茶会の日が来た。朝食を食べ終われば急いで支度をし、セシル様を待っていた。あの日にお約束頂いたように今回は王宮に訪問と言うこともありいつもより服装などを事細かに、そして慎重に吟味した。いつもより少し奔る胸を押さえ待つこと数刻。メイドからセシル様の到着を伝えられた。少し早歩きで玄関ホールに向かうとそこにはセシル様が待っておられた。

玄関ホールで待っていれば良かったと少し後悔しつつもセシル様の元へ近づけば、この間とは違ったある意味知っているセシル様がおられた。戸惑いもあるけれど手を引かれギルジーク家の馬車に乗り込む。


斜め対面に座られたセシル様の顔を見れず視線を落としていれば、はぁ、とため息が向かい側から聞こえ咄嗟に顔を上げた。


「・・・どうか、なさいましたか?」

「いや・・・、なんでもない。」


あ、口調が戻られてる・・・。あの日見たフランク?に変わったセシル様に少し驚くも、さっきは我が屋敷内だったからかも、と思う。でも、どうして私にはそういう態度で接して頂けているのかはまだ分からない。とりあえず今は王宮に連れて行ってくださるのだから、お礼を言わないと。膝の上に置いていた両の手に少し力を込めてセシル様を見る。


「あの、本日はありがとうございます。」

「気にしないでくれ。そもそも提案したのは私なのだからお礼を言わなくてもいい。」

「で、ですが、迎えにも来てくださいましたし・・・。お礼を言わせてください。」

「・・・受け取ろう。しかし、貴女は意外に頑固なところがあるようだな。」

「え、・・・申し訳ございません・・・!けしてそのようなつもりでは・・・!」

「いや、別に責めてはいない。そのように主張してくれた方が私にとって楽というだけだ。」

「・・・そ、そうですか。」


そう言ったセシル様は顔こそ変わらないけれど、何処か声が柔らかくなった気がする。私がお礼を言わせてくださいと頼むと、少し目を張られてそして少し頷かれて了承してくれた。楽だ、とおっしゃられた時も初めて会ったような温度のない声ではない。


そのことにあっけにとられた私は上手く切り返すことが出来なかったけれど、その違いに少し胸が温かくなる。


それから数刻王宮に着くまでの道のりは初めてお茶会をしたときのような気まずさは無く、会話こそ時々途切れはするものの、そこに流れる空気は冷たいものではなかった。それが嬉しくて、少し目の奥が熱くなる。それに抗って、いつもはセシル様からお話ししてくださるところを私から話しかけてみようかな。


そんな少し前では考えつかないような思考がアリシアの中に浮かんだ。二人の間に流れる雰囲気は決して険悪ではなく、穏やかな柔らかいもので。そして二人の表情も少し柔らかくなっているような気がする・・・――――。









「セシル・フォレスト=ギルジーク様、アリシア・レイル=セントフォーズ様。お待たせ致しました。どうぞお通りください。」

「ああ。」

「あ、ありがとうございます。」


王宮の城門の前で警備する騎士に促され歩を進める。ここからは馬車の通行を王族以外は禁止されており、私はセシル様の後ろを着いていく。セシル様には慣れたことのようで、私の手を引きつつ迷い無く進まれる。後ろからはソレルとセシル様の従者が着いてくる。

このように厳重な守りの王宮に入るのが初めてな私は小さく視線を動かしつつ辺りを見渡す。


さすが王宮、一つ一つがキラキラな宝石のように輝いて見える。あ、あの奥は噴水かな。涼やかな水の音が微かに聞こえてくる。どんな風に彫刻された噴水なんだろう・・・。やっぱり国印が施されているのかな・・・、なんて思考をあっちこっち巡らせていると不意にセシル様と繋がっていた方の手に少しだけ力が加えられたように感じて慌ててセシル様の方を向く。


そこには私の顔をじっと見つめるセシル様がおられて、即座に手で顔を覆ってしまいたくなった。

常日頃からマナーの先生に表情を感情のままに出すな、と教えられていたのに、もしかしたらあちらこちらに視線を動かす私は表情も動かしていたのかも・・・、いや多分確実に動かしていたに違いない・・・!


「あ、あの・・・セシル様・・・、」

「・・・・・・珍しいのは分かるが今日は書庫に行く。次の機会に王宮の庭園を案内しよう。だからもう少し

堂々と歩いてくれ。」

「っ!////」


ぼわっ!と頬が赤くなったのは確認しなくても分かる。申し訳なさ以上に恥ずかしさが上回って咄嗟に顔を俯かせる。やってしまった・・・!と後悔しても、もう遅いのは分かっているけど・・・!


早く顔の赤みを引かせなくちゃ、と小さく深呼吸を繰り返していると頭の上からふ、と空気の音がした気がしたけれど、その音には焦っているアリシアの耳に届くことは無かった。








「こ、ここが王宮の書庫・・・!」


豪奢な扉の前には数名の騎士が立たれておりセシル様の従者がすっと見せたカードのようなものを見ると騎士の礼をとられたのち、その重そうな扉を開けた。セシル様に促されるように足を踏み入れるとそこには終わりが見えないくらいに続く本棚と、そこに何万冊いや何億冊以上も納められた本の世界が広がっていた。

書庫の中には閲覧用の席が受付横の階段を上った二階に設けられており、そこには数名ほどの研究員のような方や私達のように貴族の方がいらっしゃった。


我がセントフォーズ家の書庫もなかなか広く大量の本が置かれていると思っていたけど、やっぱり王宮の書庫にはかなわない。数え切れないほどの本が置かれているであろうこの書庫はほどよく香る本の匂いが広がっている。

どこを向いても広がる本の世界にきょろきょろと目を動かせてしまう。でも、これはしかたない・・・!


「倭国の書籍が置かれているのはあちらだ。」

「・・・え、あ、はい・・・!」


そんな私の様子に少しの呆れを乗せられたセシル様はスタスタと進まれていく。おいて行かれたら絶対どこか分からなくなる・・・!慌ててセシル様の後を追う。


一歩一歩進む度に様々な本が仕舞われていて時々目を奪われそうになるけど、なんとかそれを振り切って後を着いていく。そして着いた場所でまた、今度は別の意味で驚くことになった。



「え、これ全て倭国の本ですか・・・?」

「ああ、書物だけはあるな。しかし、解明されていない資料はここより奥にまだこの倍以上は置かれている。ここにあるのはほんの一部だ。」

「こ、これでもまだ一部なんですか・・・」


示された本棚は何メートルも続いていてこの一面全てが倭国のものと言うだけでも驚きなのにまだまだ一部と言うことに開いた口がふさがらない。


「これなんかはまだ読みやすいだろう。」

「あ、ありがとうございます・・・、え・・・?」


渡された本の表紙にはこの国の文字が使われていたけど、開いた途端に広がるのは異国語。そして解明されたものが《ひらがな》だったのだから前世の記憶がある私にとっても読みやすいのかな、なんて見てみるとそこには細い糸のような線で書かれてその全てが繋がった文字が書かれていた。



え、これ・・・ひらがな・・・なの?私の知ってるひらがなじゃ・・・!!顔を近づけてみてもその文字を読むことすら出来ない。ひらがなならあの世界で数年しか生きてなかった私でも読めると思ってたのに・・・、これはどういうこと・・・?



「これはこの国で言う貴族階級に属する女性が書かれたものらしい。すべてひらがなで書かれているから読みやすいとされている。」

「・・・な、なんか・・・全ての文字が繋がってますね・・・?」

「倭国ではそう書くのが主流らしい。たしか、つなげ字というんだったか。・・・まあそれを持って行こうか。」


そういったセシル様はさっきこの本をとられた場所とは別の本棚から一冊本をとられ、そして角にある本棚の一番下にある他の本たちとは異質な分厚い本の中から一冊選ばれて、先ほどのホールへと戻られていく。


ぽかん、と本を見ていた私は慌てて着いていく。少し先で私が追いつくのを待ってくださっていたセシル様の横へつくとそのまま促されるように二階の閲覧スペースへと案内された。


「これを。」

「へ、・・・あのこれは・・・?」


エスコートして頂き丸い円卓の周りにある四席の椅子のうちひとつに腰掛けるとその向かい側に腰掛けられたセシル様は先ほど最後にとられた分厚い本を私の目の前に置かれる。


「その文字を調べなければ読めないだろう。ひらがなの辞書だ。」

「え、あ、ありがとうございます・・・!」


その本を開くと今の私に見慣れた文字があの細く繋がった文字の解説を写していた。

私が本を開いたのを横目で確認されたセシル様はもう一つの本を開き読まれている。この辞書の引き方を聞きたかったけれど、なんとなく聞いてはいけない気がして、おそるおそる読み進めていこうと手を進める。


すっと現れた給仕のメイドは机の上に紅茶とお菓子を置いていく。その作業が終わったのを見計らって紙と筆ペンを頼む。本当はソレルに頼みたかったけれどこの閲覧スペースに従者は入れないらしく少し離れた場所でセシル様の従者と共に立っていたので仕方の無いことだけれど。

数分も経たないうちに用意された紙と筆ペンをもち最初のページから解読をしていこう。ひらがなでさえ難しいことだったことに少し気落ちしたけれど、新しいことを知るのだと考えたらわくわくしてくる。

よし、と気合いをいれて私は読みを進めていった。





数刻経ったとき、ふとセシルは顔を上げてアリシアの顔を見る。そこには難しい文字にあたったのかその幼くも美しい顔を困り顔にして辞書を捲るアリシアがいた。その姿はこの前まで会っていた人形のようなアリシアとは違いいろいろな表情をみせる。わかった!と言うように目を輝かせたアリシアのその素直にでる表情にふ、と笑みをこぼしたセシルはそれに驚き手で口元を隠した。数秒その姿で珍しく焦ったように視線を巡らせたのち、ふうと息をはいてまた本を読み進めた。

その表情はいつもの感情の読めない顔ではなく、親しいものには分かる程度の小さな微笑みを乗せていた。












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