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あの日から数日経ち、学園の休みの日が来た。シルヴィアは講義終了そうそう馬車に乗り屋敷へと帰っていった。学園の正門ではレイハルクとセシルが見送りに来ていた。

王太子や公爵家嫡男の彼らにはやるべき事が、学園が休みになったとしても書斎の机に山積みになって存在している。

セシルは去っていく馬車を見えなくなるまでジッと視線で追い続けた。表情こそいつものように変わりはないがその視線からは様々な感情が読み取れる。隣に立っていたレイハルクはそんなセシルを横目で見たあと、去り際に彼の肩に手を置いてから静かに寮へと戻っていく。


それから暫くした後、セシルも門に背中を向けて去っていく。身体の横に置かれた手は強く握り込まれていて、肌の色が赤へと変色している。今のセシルにできることは、アリシアが早く長い夢から覚めることを祈る事のみだった。




屋敷に到着したシルヴィアは早速というように自室へは向かわずにアリシアの部屋へと足を進めた。その表情はいつも以上に読む事が出来ない。背中には言いようのない緊張感を背負っている。

ランドはそんな主人にいつもの様に声をかける事なく、ただ静かに後を追った。


ソレルに出迎えられて入った寝室の奥にあるベッドの上には、静かに寝むり続けるアリシアの姿があった。ただただ穏やかに眠り続け、一ミリも動かない姿は月の光に照らされて儚く感じさせられた。

前世で読んだかぐや姫のように、いつかアリシアは月に帰っていってしまうんじゃないかというくらい、月と一体化している。


シルヴィアは足音を極力立てないように歩いてアリシアに近づいた。そして布団から覗く手のひらを優しく包み込む。どうか、はやくその美しい瞳を見る事が出来ますように。

握った手のひらから伝わってくる体温にホッと息を吐き、その白く細い手を親指でそっと撫でた。



もし、夢の番人が貴女をその世界に留めているのなら、私はどんなに困難だったとしても愛おしい貴女を抱きしめて此方へ連れ戻して見せるわ。



シルヴィアは心の中でポツリと呟いて、ずっとアリシアのそばを離れようとしなかった。

シルヴィアがベッドの隣に置いた椅子に腰掛けたのを確認して、ランドとソレルはそっと寝室から出ていった。








シルヴィアは夢を見た。

水の中でスイスイと遊んでいる小さな美穂は楽しそうにくるくる回る。その姿に懐かしさを感じて魅入ってしまっていた。


美希にとっての妹は美穂ただ一人。年の離れた可愛い妹。我儘で甘えん坊な妹。しかし、シルヴィアにとっての妹は、引っ込み思案でいつも不安そうで、でも少しだけ頑固で。一歳下のアリシアこそが自分の妹だった。

いや、違う。美穂としての自分をもっているアリシアが、私の妹。

しかし、今目の前にいるのは美穂。そう分かっているけれど、自分の口から溢れる名前は、昔甘えさせてあげられなくて泣かすこともあったあの子の名前だった。美穂としてしか、今目の前にいる子は存在していない。けれど、あの子が後に私の妹となっていくのだと思うと、名前を呼ぶのを、止められない。


ねえ、アリシア。貴女の中にいるアナタは、幸せだったかな?いつも素っ気ない態度しかとれなくて、自分のことばかりであんまり遊んでくれなかった姉の妹で、幸せだった?


だんだんアリシアの名前を呼ぶ声に力が入っていく。距離が空いているからか、叫ぶように、どんどん声を大きくする。


やっと私の声に反応して振り返ったあの子は首を傾げている。そうだろうな、だってあの子にとっての姉は美希であってシルヴィアではない。髪だって薄紅色なんてしてないし、瞳の色も金色ではないはず。


でも、貴女も、美穂であるあなたも、私の妹だから。



もう一度名前を呼ぼうと口を開こうとすると、突然あの子の立っていた場所が崩れ始めた。あの子は泣きそうに顔を歪めて助けて、と叫んでいる。


またあの子が泣いている。今度こそ、あの子を守れるように。絶対に、守るんだ。今度こそ…!!


「おねえちゃあん!!!」

「っつ!!アリシア!!」


掴み取ったあの子の腕を引き上げようと手に力を込めれば、やっとあの子と目があった。困惑の色を宿しているあの子に苦笑を溢す。

美穂が助けを求めたのは、私ではなくて美希だから。ごめんね、美希じゃないけど、貴女を守らせて?


「……おねえちゃん?」

「、え?」



それなのに、あの子は私を姉と呼んでくれた。うん、お姉ちゃんだよ、姿はちょっと変わっちゃったけど、貴女のことを、不器用にしか愛する事ができなかった、私だよ。


「アリシア、帰ろう?貴女の話を聞かせて?昔の話もしましょう。ねえ?アリシア、一緒に帰ろう。」

ほんとは、あの頃貴女の話を聞いてあげたかった。笑いあって貴女を甘やかしてあげたかった。抱きしめてあげたかった。

いまするなんて卑怯かもしれないけど、ごめん。こんな私はこの場じゃなければ貴女のことを素直に愛せないの。


そっと抱きしめたあの子の体はとても小さくて頼りなかった。これからどんどん大きくなって、成長していくあの子を、私たちと一緒に終わらせてしまった。ごめんね、もっと大きくなりたかったよね、もっと知りたかったよね。


もう貴女と生きていくことはできないけど、今度こそ大切に愛してみせるから。今度こそ貴女の姉として頑張るから。だから。


アリシア、私の妹としてもう一回一緒に生きていこう。








手の中がピクリと動いた気がして意識が浮上する。いつの間にか私はそのままベッドに顔を伏せて寝てしまっていたらしい。私の方には毛布がかかっているのは、多分いつもなら嫌味をいって起こしてくるあの従者gしてくれたのだろう。

口からふあーっと欠伸が出てくる。口に手を当てて体を起こした私の視界に入ったのは上半身を起こしたまま窓の外をみているアリシアの姿だった。


「…ア、リシア…?」


私の寝起きで掠れている声に反応して此方を振り向いたアリシアの瞳には小さな雫を溜めていた。私と視線が合って、あの子は小さくて言葉を紡ぐ。


「…お姉様、守ってくれて…ありがとうございます。」

「っえ、」

「あの時も、今も。…私はお姉様の妹で、幸せです。」


ポロリととうとう溢れてしまった雫はシーツに小さなシミを作った。いまだ離せないでいたアリシアの手を

包んだままだった私の手の上に、重ねるようにもう一方の手を置いたアリシア。

その温度が、その柔らかな声が、…その言葉が私の胸を締め付ける。


心の中で美希が涙を流して嬉しそうに笑っている。私こそありがとう。貴女の姉でよかった、と言っている。



「わたしもよ、私も…貴女の姉で幸せだわ。…姉にしてくれて、ありがとう、アリシア。」


アリシアは顔中を真っ赤に染めて、幸せそうに嬉しそうに切なそうに、目から大粒の涙を流しながら目一杯笑った。初めてみたアリシアの笑顔に嬉しかったのか、それとも心の中にいる美希と共鳴したのか、私の目からも流れた涙。

私がもう一度言った言葉にアリシアはキョトンとしてから小さく笑みをこぼしてから、はいもちろん、と楽しそうに微笑んだ。




シルヴィアとアリシアが初めて気持ちを通わせ合った。不器用にしか愛せない姉と、不器用にしか言葉を紡げない妹、そんな似た者同士な不器用姉妹が、今やっと…――――。


「ねえ、昔の話も、今の話も。色んな話を、話が尽きるまでずっと、一杯しましょう?」

「はい、もちろん。…でも尽きることがないかもしれませんよ?」

「ふふ、そうね。望むところよ。」

「私もです。」
















山を乗り越えた先には美しい花の都。この二人が今やっと通じ合ったのは、幸せを手に入れて『自分』を見つけれたからなんじゃないでしょうか。


これで第2章内の本編終了です。

これからは第3章突入前に幸せな婚約者たちや姉妹たちの幸せな様子を投稿して行きますね。第3章でやっと本題に入っていくのですが、少しばかり彼女たちの幸せを感じていただけたら嬉しいです。

まあ簡単に言えば本編の皆が幸せを満喫させてくれとうるさいので、それなら満喫させてやろうとの親心みたいな感じなんですけど。

コメント欄や活動報告等で彼らの幸せなお話のリクエスト等御座いましたらおっしゃっていたっだけたら…。全てではないですが書かせていただけたら嬉しいです。


これからもアリシアたちを宜しくお願いします。悠子

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