23
「―――…様、…アリシア様!」
「きゃっ!…え、なに…?」
「何度もお呼びしましたよ…?」
「ご、ごめんなさい…。」
「まだ思い出されているのですか?」
「っつ!!」
そう、先日アリシアはやっとセシルと想いがが通じあったのだ。あの日から数日経った今でも、時折当時のことを思い出しては赤面し、思い出しては赤面しを繰り返している。
そんな主人の様子にソレルもミリアリアも呆れはするものの、幸せそうな様子をみて嬉しく思っている。まあ多少セシルに対して嫉妬をしてはいるが。
「そ、それで、何かあったの?」
「お手紙が届いてますよ。」
「!だ、誰から?」
「ご予想通り、セシル様からです。」
「そ、そう…!」
受け取った途端にペーパーナイフで開封し手紙を読み進めていくアリシア。あの日から数日、セシルが学園に戻ってしまったため行われるようになった手紙のやり取りを、アリシアは毎日楽しみにしつつ待っている。
内容はほとんどがお互いの近状報告ではあるがアリシアはいつも幸せそうに何度も読み返している。
「今度のおやすみに王宮書庫へ行こうって…。」
「良かったですねえ、アリシア様!」
「うん…!」
ミリアリアはそんな主人を見て次の言葉を予想した。多分まだあと二日先の休日なのに今からドレスを決めようと言われるのだろう、と。
「ミリィ、あの…ドレスを選ぼうと思うんだけど…。」
「ふふ、はい!勿論ご一緒しますね!」
その様子にソレルは苦笑しつつもパパッと頭の中に立てていた今日のアリシアの予定を調整していく。アリシアは公爵令嬢であるため基本的に習い事ややるべき事が詰まっているといっても過言ではない。そんなアリシアをフォローするために習い事の間には必ず今の様に休憩を入れていたのだが、この様子では次の習い事の時間まで衣装室に居られるのであろう。
「アリシア様、次のご予定迄ですのでお忘れにならないようお願いしますね。」
「もちろんよ。ありがとう、ソレル。」
ウキウキと顔を緩めながらミリィと部屋を出ていくアリシアは本当に幸せそうだ。最近では滅多なことでは体調を崩すことがなくなり、表情が柔らかくなってきている。
そんなアリシアの様子に本当によかったと思いつつ、ソレルは一人部屋に残り次の予定に向けて準備を始めた。
アリシアにとって待ちに待った休日。セシルと想いが通じあって初めての日という事もあり、いつもよりそわそわとしている。こんな光景は最近よく見るな、とソレルたちは穏やかにアリシアをみる。
そして屋敷のものがセシルが到着したとの知らせを持ってきたとき、アリシアは普段では考えられないくらい素早くドアへと進んでいった。ソレルは急いでアリシアを追いかけ、ミリアリアはニッコリと微笑みアリシアに声をかけた。
「いってらっしゃいませ、アリシア様。」
「ええ、いってくるわ、ミリィ!」
正面玄関へ向かえば、セシルがドアの側で立っていた。少し駆け足でセシルのもとへと駆け寄ったアリシアに気づいたセシルは、少し前までは考えられないような穏やかな顔でアリシアを迎えた。
「お、おはようございます、セシル様!」
「おはよう、アリシア。体調はどうだ?」
「もう大丈夫ですよ、ありがとうございます。」
ニコニコと笑うアリシアの様子にセシルの顔が緩む。二人とも全身で幸せだと語っている。二人の従者は予想していたというように目を反らし、セントフォーズ家に仕える者達はその様子に驚いたように目を見張った。しかしそれは一瞬で普段の顔に戻ったのは、彼らが優秀な証だ。
セシルはアリシアに向けて手を伸ばした。アリシアはそれを照れ臭そうに見てからその手を掴む。そのままセシルにエスコートされながら、ギルジーク家所有の馬車へと乗り込む。
そして屋敷の者達はそれを見送り、ドアが閉まったあと一斉に顔を緩めた。あんなに幸せそうなアリシアを見るのは初めてといっていい。屋敷ではいつも息を潜めるようにオドオドと過ごされていたアリシアだったが、あんなに幸せそうな様子を見ることができて屋敷に使える者達は嬉々乱舞したのだ。けっして表情以外には出していないが全員が全員、心の中は踊っている。
そんな中、ある空間が暗くなっているのを微かに感じとった使用人たちは壊れたブリキ人形のようにギギギっと首を後ろに向けた。その先にいたのは、誰もが予想していた人物だった。
その発信源はもちろん、セントフォーズ家の長女、シルヴィア・ラルク=セントフォーズお嬢様。彼女もまた、学園の休日を利用して屋敷に戻っていた。戻ったのは休日前最後の講義が終わり、すぐさま馬車に乗り込み、その日の夜に到着していた。そんな彼女にアリシアは驚きと嬉しさで迎えたが、いつものようにツンデレを発揮したシルヴィアに落ち込まされているのはもはや学園が始まってから毎回行われていることだ。そんな彼女は今、見るからに暗い顔をして先ほど閉まったドアを睨みつけている。そしてゆっくり開いていく口に誰もがひくり、と顔を固めた。シルヴィアの後ろに仕えていたランドだけ、いつもの表情のまま両耳を塞いでいた。これから起こるであろう出来事を予想して。
「……セシル、許さない…!!!私のアリシアをたぶらかしてんじゃないわよーーー!!!!」
「貴方のものではありませんけどね。」
そんなランドの声は興奮したシルヴィアには届いていない。
そして屋敷の者達は突然の大声に体を竦めたものの、次の瞬間にはいつものことだというように持ち場に戻っていく。
「シルヴィア様、そろそろお時間ですが?」
「…っもう!!わかったわよ!行くわよ、ランド!」
「はいはい。」
「「「いってらっしゃいませ、シルヴィアお嬢様。」」」
そう、タイミング悪くシルヴィアが正面玄関にいたのは、今日も今日とてレイハルクに当日の呼び出しを受けたからだ。優秀な従者ランドによってアリシアと時間をずらしていたつもりが、運悪くも現場を見てしまったのだ。
シルヴィアは未だブツブツ言いつつも屋敷を出て行く。そんなシルヴィアに呆れを隠しもしない態度でランドはついて行く。そんな二人を見送った屋敷の者達はドアが閉まったと同時に顔をあげて今度は苦笑を溢す。
いつになったらシルヴィアとアリシアが二人笑いあって過ごすことが出来るのであろうか。その様子を早く見たいと思いつつ、今度こそ持ち場に戻って行く使用人たち。
今言えることは、そう。相変わらず自分たちのお嬢様たちは愛おしいということだけだ。
所変わってここは王宮の広い庭園にあるお茶をするために設けられたテラス。そこには笑いを隠しもしないレイハルクとその様子を見て憤慨するシルヴィアのいつもの光景があった。
「あははっ!」
「いつまで笑ってんのよ、レイ!」
「ふふ、ごめんごめん…ぶはっ!」
「止まってないじゃない!」
「ははっ!…はー、笑わせないでよ、ヴィー。」
「笑わせるつもりなんか一切ないわよ、このバカ王子!」
「ふふ、ごめんって。ねえそんなに気になるなら呼んだら?」
「…は?」
突然何をいうのか、と怒りを忘れて呆気にとられたシルヴィアの表情を見て、悪戯を思いついたと言うように顔を緩めたレイハルク。
そうして後ろに立つ王宮のメイドに向かって何やらを指示する。それを受けたメイドは一瞬で目を見開いたが、お辞儀をしてその場を去って行く。
「…なによ?」
「セシルたちは書庫にいるんだよね?」
「そうみたいだけど…、…ちょっと待って、貴方…。」
「うん、ここに呼んじゃった?」
「何してんのよ、バカ王子―――!!!!!」
近くの木にとまっていた小鳥たちは突然の大声に驚き一斉に飛び立った。そんな木の下でレイハルクはまた爆笑し、シルヴィアはこれから起こるだろう出来事に焦りを前面に出している。
一人その様子の見ていたランドはこれから起こるであろう出来事に苦笑を溢した。この出来事が吉と出るか凶と出るか。その場にいるものには誰も予想ができなかった。
一方その頃優雅に書物を楽しんでいたセシルは嫌な悪寒を感じで身震いをする。その様子にアリシアが心配して声をかける。それに笑って大丈夫だと返したが、心の中では何か自分にとって都合の悪いことが起こるであろう未来に、盛大に溜息をはいた。
さて、これから起こるのは天国か、地獄か…。
何も知らないアリシアは、突然のセシルの異変に首を傾げたのであった。
とうとう…!?




