一騎打ち
ヒデカツは真一文字に駆けて行くアキヨリを呆然と見ていた
味方ながら好敵手として同年代のアキヨリを捉えていた
何かにつけアキヨリを意識して彼が武功を挙げれば自分は更に上の手柄を挙げ
負けまい負けまいと必死に対等に渡り合って来たつもりだった
だか完全に敗北した
ヒデカツの足は鉛のように重く無機質に地面と同化していた
さらにシジマの陣に目をやると
十数名の猛者達が地団駄を踏んだり自らの頭を拳で叩いたりしている
中でもイエナガは目を見開き無言で握り潰してしまって拳の両端からうむり出た握り飯をひたすら食っていた
食事中だったのであろう
だかどの面々も今更遅過ぎた
アキヨリはもう川を渡り中州に辿り着こうとしていた
何の躊躇も無く水飛沫を上げて駆けて来る若武者にアカイ タネフサの心は踊りに踊った
「シジマの総大将は弟君をよこしてきたぞ!
皆の者見よ!なんと美々しい武者ぶりじゃ!
太鼓じゃ!太鼓をもって迎えろ!」
カガ家の太鼓を叩いていた兵もこの一騎打ちに興奮したのか
もはや軍を統率する合図の為の太鼓では無く
目に映る二人の荒武者をそのまま太鼓の音とした
暴れ太鼓であった
その太鼓の音を耳にして中州に辿り着いたアキヨリは勢いそのままに斬りつけるのかと思いきや
アクヤ共々タネフサの周りを廻るように踊り出した
「なんと見事な太鼓で御座ろうか!
槍より先にまずは笛にてつかまつる!」
アキヨリは懐から笛を取り出し太鼓に合わせ激しく肺腑に溜まった気体を吐き出した
ダンダドダンダダダ
ピィーヤラピィーリャ
「うおおお!見事!見事!見事!
そうりゃ!よぅいやさ!」
タネフサは太鼓と笛に合いの手を入れた
「皆の者若様につづけぇい!
ハァーア!そぅりゃそうりゃ!」
シジマの将兵達も合いの手でアキヨリに加勢した
それは両陣営に広がり一帯は異常な興奮状態に陥った
ピィーリャピィーリャ
ドンダドダンダ
そぅりゃそうりゃ!
ダドダンダ ダン!
狂乱の宴が幕を下ろすとアキヨリは静かに笛から口を離し
抱えていた槍を握り締め今度は笛を介さず肺腑の気体を音とした
「いざ!いざいざいざいざ!」
「おう!一合目は受けてやる
来い!アキヨリよ!」
「うおおおおおおお!」
槍の間合いにしては近すぎたがアキヨリもタネフサもお構い無しに振り下ろした
ギャイイイインギィィン!
お互いの槍の柄の部分がぶつかり合い大音響の金属音が鳴り響いた
「見事!」
「お見事!」
二人はお互いを称え合い一歩飛び退き今度は槍の間合いで打ち合った
チョイィィィン
お互いの槍は火花を散らしぶつかり合い
お互いの軌道は空を斬った
「ならばこれならどうだ!」
タネフサはアキヨリの後方に馬を進めつつアキヨリの馬上の死角より下から突き上げた
それは同時にアキヨリに自分の背中を晒す事になるが
タネフサの素早い槍さばきにアキヨリは防戦一方となった
「なんの!なんの!なんの!」
アキヨリは二十合目を見切りタネフサの槍をかち上げた
両者はその勢いを殺しきれず二本の槍は天空を突き静止した
後ろを取られ続けたアクヤはこの一瞬を好機とし後ろ足でタネフサの馬の横腹を蹴り上げた
グルヒャイイイイン!
タネフサの馬は横倒しに倒れタネフサは槍を振り上げた格好で落馬し受け身を取れず肩を強打した
「迂闊!人馬一体とはまさにこのこと!」
「アクヤ!余計な真似をするな!
タネフサ殿!騎乗なされい!」
「なんと!情けをかけられるのは気に入らんが
この一騎打ちを今少し楽しめるならそれもよし
アキヨリ殿後悔いたすな!」
タネフサが騎乗する間アキヨリはさ七間程距離を置いた
その為両者が再び対峙すると今度はお互いに駆け抜けざまの打ち合いになった
「とうりゃ!」
「せいや!」
ギャイイン
駿馬の脚力にお互いの並外れた膂力アキヨリの手の感触は皆無であった
「どうしたアキヨリ殿!
しきりに槍を持ち直して手が痺れたか!」
「何を根拠に!爪楊枝などと打ち合って手が痺れるものか!」
「よい!よい!よい!その意気やよし!
ならば参るぞ!
せゃ!」
「おう!」
両者は愛馬の腹を蹴った
「若様ぁぁ!」
「アカイ殿!」
「アキヨリ何をもたもたしておるかぁぁ!」
「アキヨリ様ぁぁ!」
「タネフサ!ぶち倒せ!」
ギャイイイイイィィン!
両陣営の声援怒号が飛び交う中アキヨリの槍は激しく回転して宙を舞った
「やんぬるかな!」
アキヨリは太刀を抜こうと腰に手をやったがどこをどう触っているのかさっぱり分からない
「最早これまでか!」
しかし黙ってやられるつもりはさらさら無い
蹴りなり頭突きなり眉間に食らわせてやろうと馬首を返すと
「アキヨリ殿!
槍を拾われよ!これで貸し借り無しぞ!」
そう言ったタネフサの手から槍がぼとりと落ちた
「ふあっはっはっはっはっは!」
「あーはっはっはっはっはっは!」
ヒデカツの頭の中に三年前の二人の笑い声が残響していた
背骨はいまだ曲線を取り戻せないままだった




