精神への直撃
ヒデカツの背骨は一直線に伸び天満宮の本尊を背に胡座をかいた上半身は仰け反っていた
人間の背骨は緩やかな曲線を描きしなやかに体にかかる力を吸収する
しかしヒデカツの精神に強力な負荷がかり
堪えきれなくなった精神が身体でその苦しみを表現して己が崩壊するのをすんでのところで堪えていた
アキヨリと対峙する覚悟はできていた
しかしそれはもっと後の事で
いざその時には自らの精神は硬く硬く石のような状態でなければならない
だが人間の精神は緊張ばかりしていたら崩壊する
幾度も戦に臨んだ経験から自らの精神を操作する手段は心得ていた
その手段とは精神を石のようにするには
まずこれ以上ない位に弛緩させるということだ
もちろんそれは無防備と言える状態だ
その状態でアキヨリの声を聞いてしまった
社の入り口の戸から碁盤の目のように差し込む陽光のすぐ向こうにアキヨリがいる
しかもこちらに気付いている
だが恐らくアキヨリは一人だろう
こちらは鉄砲で武装した十五名
好機である筈だった
だがヒデカツの脳裏を巡るのは三年前のアキヨリの姿であった
ナリカワ家とシジマ家は
都の北を拠点に主君オアイに徹底抵抗していたカガ家と川を隔て対陣していた
戦は膠着状態で二日の間双方手出し出来ずにいた
二日目の昼カガ家の陣から一騎の将が進み出て川を渡ってきた
川の水位は浅く馬の膝上程で難なく渡る事が出来た
まさか一騎で攻め入る気ではあるまいかと
ナリカワ家シジマ家陣営はざわめき立ったが
その将は中州まで来ると大喝咆哮した
「やあ!やあ!我こそはアカイ越前守!
戦と聞いて馳せ参じたが拙者にとってこれはにらめっこ
真の戦を両陣に見せてやりたく一騎打ちを所望いたす!
シジマ家ナリカワ家にもあくびの止まらん者がおろう!
お相手願う!」
アカイ タネフサは長さ九尺の槍を小枝のように振り回し
芦毛の巨馬を煽り己の武を誇示した
遠目からも分かる六尺をはるかに超える巨躯に
一時はカガ家本城まで押し寄せたナリカワ シジマ連合軍を十里も押し返し渡川させた桁違いの武勇
カガ家一の武辺者の登場に戦場の空気は一変した
たった一騎が対峙する将兵の殆どを恐怖に陥れた
だが中には最高潮にいきり立つ者もいた
その中の一人が赤い甲冑をまといやはり巨馬に跨り弾き出されるように飛び出して行った
その後を引き止めようとしたのか飛び付こうとした両の手を空振りさせ前のめりに倒れる緑の甲冑の若武者が見て取れた
「シジマ サブロウ アキヨリで御座る!
尻の青い若僧と侮れば肩から上が涼しくなるぞ!」




