表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/37

木場/平成:牙

 近未来の日本。

 巷には超能力者としか言えないような者達、超能力者と似た力を持つバケモノが出現してきた。

 ENDSという組織が超能力者たちを一人の男「羽白太白」の意思の元に拉致し、隔離した。

 彼ら能力者の存在を秘匿するために。

 組織は海上に空母をいくつも買い、その空母をくっつけて一つの都市を起こした。

 能力者たちを拉致して作られた海上の日本国内の自治区。

 名づけて「戦艦都市リュウキュウLUX」


 技術水準はきわめて高く、LUXルクスの外と比べて数十年先に行っている。

 そう歌ってはいるが、それが恥も遠慮もない人体実験と、

 実質上の治外法権によるものだという事を知る者は意外に少ない。


 いや、目をそらしているだけだ。

 このLUXルクスの一番の売りはやはり「超能力」

 素敵なお薬と、楽しいお勉強で君も明日からスーパーマン。

 ヒーローとなって化け物と戦おう、正義の戦いだ。


 実際は素質のあるやつを片っ端からスカウトという名の拉致をしているだけだ。

 そうして、バケモノや他の能力者組織と戦わせている。


 実際に生み出されるのは、生まれ持った体質だけで選別されるエリートと、

 残り6割の被差別階級だ。


 俺の見たところ、強い能力が出るかは本人の努力ではなく、単に運なんだが。

 挙句、薬を売っても洗脳しても超能力が使えない連中は、手から火が出る奴等だの、電撃を出す奴等だのが優等生扱いされる場所に丸腰で放り出される。

 おまけに、教師は露骨に劣等性扱いし、出来もしない超能力を使って見せろと笑顔で言う。

 それでもまだ彼らは幸福だ。


 このLUXルクス、技術もトップレベルならば、犯罪もトップレベル。

 そして落ちこぼれには事欠かない。

 世界最先端の先進を謳歌するきらびやかな表側を少し外れた路地裏では、

 極貧国と同等の犯罪生存競争が行われている。

 そのえげつなさは、もはや人類がどれだけくだらない事に命を張れるか競っているかのようだ。


 逆に強すぎる能力(アタリ)を引いてしまっても悲惨だ。

 だいたいがハメられて、人質をとられるか弱みを握られ、

 権力者連中の奴隷にさせられる。

 なにしろ、犯罪者が掃いて捨てるほどいる街だ。

 優等生やたまたま上手く行った実験素材をハメる人員には事欠かない。


 表向きには?

 「行方不明」の四文字か、昼は学生夜はアサシンの生活だ。


 たとえ裏の世界に引きずり込まれなくとも、バケモノとの戦争の最前線に借り出されることとなる。


  誰も彼もがきらびやかな技術に目を奪われ盲目にされている。

 手から火球を放ち、雷を操り、空を飛び、その力は百人力。

 そんなファンタジーの代物が悪夢そのものの行為から作られる。


 モルモットを欲しがる研究員クズ共は、

 好きなだけ捨て子を捨てられるように、制度を作り変えてしまった。

 おかげで今やここは日本中の子供廃棄所となっている。

 捨てられた子供はどうなったかって?

 ここは人体実験大好き野郎と、犯罪者の街だ。

 わけのわからん薬を打たれて、顔が良けりゃ慰み者。

 顔が悪かったら?瓶詰め(ピクルス)にされるだろう。

 たまたま使える奴だったら?一生奴隷奉公だ。


 親父は死ぬ間際に言った。


 「俺達はこんな街を作る為に働いたんじゃない」


 血反吐を吐きながら。


 「これが俺がお前に託す、俺の全てだ。同志の未練だ」


 それは親父と同じように、まともに研究が出来ると思ってここに来て、

 そして殺されていった異端の学者達の研究成果。


 「頼む、こんな悪夢、もう壊してくれ」


 いいぜ、その妄執げんそうで、現実あくむを破壊しつくしてやる。

 目に物見せてやる、ほえ面かかせてやる。


 この街に牙を突きたててやるよ。



                 ◆


 まっ昼間の漫画喫茶にあえぎ声が響き渡る。

 誰かがAVでも見ているのだろうか?

 夜勤あけで漫画喫茶に眠りに来た、

 賢極院栄けんきょくいん・えいは不快そうに眉をしかめつつ、自分の席に向かう。


 そこには彼の席で緑色のスーツを着た青年が大音量でAVを見ている光景があった。


「おい、君。ここは俺の席だ」


 緑色のスーツを着た青年はくるりと振り向き、表情を変えずに淡々と言う。


 「そうだよ、ここで合ってる」

 「そうじゃない、ここは俺の席だからどいてくれ。

 それからそんなものをここで流すのはやめろ」


 青年は、トランプ柄のネクタイを締め、

 全身チェスやトランプの柄のアクセサリーでまとめている。

 まるで奇術師だ。


 「奥さん、奈良がご実家なんスってね。いい家スね。

 汚職塗れ(モラルハザード)じゃない医者の家系。

 犯罪履歴は真っ白。あんたも今のところは真っ白だな」


 青年は淡々と続ける。


 「娘さん、美人スね。岩倉代付属なんスよね。

 花柄のヘアピン、あんたのプレゼントなんでスよね?

 いいセンスだ」


 全ては事実だ。賢極院の警戒度が上がる。


 「たとえば、そんな可愛い将来有望な女の子が、

 地図上に存在しない部屋に連れて行かれて、

 笑顔がなくなるなんて、本当に哀しい事だ。

 たとえば、父親の見たくない面を見たりして。

 そうスよね?」


 ここまで来て、賢極院は思い至った。

 目の前の自分の席で写っているのはAVじゃない。

 盗撮画像だ。

 それも自分が「被験体」を相手に「負荷をかける作業」をしている時の。

 青年は足置き台を片手で持ち上げ、賢極院の目の前に置く。


 「まあ座れよ。長い話になるかもしれんから」


 賢極院はごくり、とつばを飲んでそこに座る。


 「何が望みだ。金か」


 「ちょっとしたアルバイトをしませんか?

 あんたは、週一でここに来て「たまたま」自分のUSBファイルと、

 「偶然」ここにあったUSBを間違えて持って帰る。

 それを「ちょっとしたミス」で職場の更衣室で落としちまう。

 それだけで10万円もらえる。

 悪くない話でしょ?」


 青年の眼がぎらり、と光りスーツの柄がその動きと混ざって賢極院に酩酊感を覚えさせる。

 AVのあえぎ声とすすり泣き、奇妙なBGMが混乱を増幅させる。

 徹夜明けの疲労と、混乱による判断力の低下が、その酩酊感で極限に達する。

 そして彼は言ってしまう。その言葉を。


 「わかった」

 「じゃ、ここにサインして」


 言われるがままに彼はサインしてしまう。

 それはその「アルバイト」とは全く関係の無い「連帯保証人」となる書類だった。


 「あんたが話の解る男でよかった。それじゃ、俺はあんたの前から消える。

 あんたは、毎週金曜日か月曜日、水曜日のどれかにここに来る。

 そして、いつもUSBを間違えて持って買える。

 さあ、あんたは俺のことを記憶しない」


 青年は流れ続けるわいせつ画像を回収し、呆然とする賢極院の横を通り過ぎる。




 すべては最初からこの、木場亮キバタスクの仕込みだ。

 賢極院の仕事のシフトから、彼の生活習慣まで調べた上で彼をハメた。

 漫画喫茶でAVがながれている、自分の席に知らない男が座っている、

 ありえない状況を演出する事で冷静な判断力を奪う。

 そして夜勤明けという疲労が極限に達した状況で、家族を人質に重大な選択を選ばせる。

 それらの状況を合わせた上で、彼はLUXルクスの生み出した洗脳技術を使った。


 外に出た木場はケイタイを取り出し、電話をかける。


「あ、お疲れさんス。木場でス。

奴隷君一人ゲットできましたよ。あー、はい、新生塾の。そうそう研究員。

保証人になってもらいましたから、そうスね、三ヶ月後には仕上がりそうでス。

こっちの用事が終わったら保証書渡しますんで、あ、はい50万。

ありがとうございます。ゴチになります。

じゃ、好きに使ってやってくださいよ。はい、どもっス。ウス、はい、お疲れさんです」


 こうして彼は犯罪者を犯罪者に売って50万円を稼ぎ出した。

 電話を切ってメールを打つ。簡潔な文章だ。


 <経過報告:KIBAより ジェニー製薬様N様へ

S塾の件、情報ルート確保できました。

一月以内には情報送れると思います>


 つまりそれは、賢極院のほかにも同様に脅迫された研究員が彼の仕事場にいて、

 彼らの研究成果は木場に筒抜けであり、

 その情報は「外」の企業に売られているということだ。


 これら全て、木場がLUXルクスを破壊するためのテロリズムの下準備にすぎない。

 今は「外」のスポンサーと連携をとり活動資金を集めているのだ。



 そんな彼が今なにをしているのかというと、銀行強盗にあっている。

 活動資金の確認に来たところをATMを使う前にまきこまれたのだ。

 銀行強盗は彼自身ではなく、窓口を狙って銃を突きつけている。


 「早くしろ、金をよこせ!こっちには発火能力者カグツチがいるんだ!」


 三人組の強盗のうち、一人がにやつきながら手から炎を発する。

 店員は怯えながらのたのたと金を袋に入れている。

 客は全員伏せている。


 「おい早くしろ!」


 覆面をした三人組はにやつきながらも怯え焦りつつ強盗をする。

 彼らが目を離した一瞬の隙に店員は防犯ブザーを押した。

 あっというまに窓口にシャッターが締まり、箱型の警備ロボットが出てくる。


 「手ヲ挙ゲ、地面ニ伏セナサイ。10秒以内ニ従ワナイ場合、発砲スル」

 「舐めた真似しやがって!」

 「おいファイア!なんとかしろよ!」


 銃を持った男が窓口のシャッターに発砲する。


「今やってる!とりあえずこいつら倒してずらかるぞ!」


 炎がロボットに迫るが、まるでこたえた様子がない。


「シャバゾウが」


 ぼそりと、しかしはっきりと聞こえる声で木場が呟いた。


「ああ!なんだとテメエ!もっぺん言ってみろや!」


 わざとらしく、ポケットから徽章を出して腕につけ、

 すでに通報しました、というかのようにケイタイをポケットにしまう。

 その動作は全く同時で、優雅ささえ感じさせた。


 「全く、風紀委員は休日だってのによ、

 シャバい強盗やってんじゃねえぞサンピン共が。

 おらかかって来いよ。逃げんのか?じゃなきゃ俺から行くぞ」


 木場はポケットからライターを取り出し、拳銃を持った男に投げる。

 顔めがけて投げつけられたライターは投擲の威力により爆発し、

 男は思わず顔を庇ってしまう。手に持った銃を握ったまま。

 机を蹴り飛ばし、発火能力者に飛ばす。

 机は一瞬で燃やされてしまうが、飛び散った文鎮を掴み、

 三人目のナイフを持った男の手に投げる。

 文鎮は手首にヒットし、男はナイフを落としてしまう。

 木場は走りながらナイフを掴み、銃を持った男の首に当て、

 もう片方の手で銃を男の手の上から握って、発火能力者に向けている。


 「チェックメイトだ、投降しろ。それとも早撃ち対決といくか?ああ!?」


 その間にも、木場は銃を持った男の膝を蹴りで落とし伏せさせ、

 手首に仕込んだ注射でもうろうとさせている。


 「ここでイモひけるわけねえだろうが!」

 「上等だコラァ!」


 発火能力者の手に炎が集まったのを見るや、

 木場は奇妙な節回しと高低で数字と記号を羅列させる。


 「S等号0128乗算4637減算72648AND39274等号632ⅰf86除算……」


 炎はあっというまに勢いを失い、ばらけて散る。

 発火能力者は頭を押えてうずくまる。

 木場が受け継いだ、能力を妨害する特殊な「歌」だ。

 そのリズムや高低、数字を繰り返す歌詞によって、不快感を増大させ、相手をダウンさせる。


 「んっだこりゃあ・・・・・・?」

 「手の内明かすと思うのかサンピンが」


 木場はポケットから出した指錠をすでに銃を持っていた男にかけていた。

 先ほどまで戦いに手を出せず見守っていた警備ロボットがゆっくりと進んでくる。


 <ゴ協力アリガトウゴザイマシ>

 「今まで何突っ立ってやがったポンコツ」


 木場はロボットを掴むと、発火能力者に投げつけ、拾って背中に何度も打ち付ける。

 さらに的確に間接部を狙って銃弾を浴びせ、ロボットを破壊する。


 「悪いな、こうやって使ったほうが使いやすかった。

 まだまだ遊べるものはあるな?痛いだろうが、我慢するんだ」


 ロボットの破片の中からアームやHDD、ギアなどを取り出してにやりと笑う。


 「解った、もうやめてくれ!降参だ!」

 覆面の奥でナイフ男が悔しげに顔を歪めて指錠にかかる。

 一転して木場はにこやかな表情になって周囲の客に語る。


 「みなさん!強盗は撃退しました。ご安心ください!

 この後、風紀委員の支部より応援が着ますので、

 少々この場でお待ちください!

 お時間をとらせて申し訳ありません」


 その表情はやりとげた男の顔だったが、

 周囲の客からは血に飢えた笑みにしか見えなかった。

 客はその暴力に黙るしかなかった。


 「おら行くぞ!ちゃっちゃと歩け、あと、そいつは肩を貸してやれ」


 木場が追いたて、三人組がふらつきながら銀行を出てゆく。




 銀行を出た木場の前に車が止まる。


 「ハァイ!ミスタ・タスク。お待たせしましタネ」


  明らかに外国人の男がタクシーを駆ってドアを開ける。


 「いや、こちらこそ待たせたな。おい、早く車に入れ」

 「ああ・・・・・・」


 強盗たちは意気消沈して車に入る。


 「ドライバー、早く飛ばせ。逃走ルートの確保はできてるか?

 タフな犯行ランになる」


 「オウライ!アジトまで一直線に迂回して逃げ回りますね。

 とりあえずB12地点からは、地下通路なる。そこまででいいか?」


 「ああ、それまでに事情を説明する。おい、もういいぞ。

 俺たちは風紀委員じゃない」


 男達の眼に希望が点る。


 「ただのテロリストだ」


 木場はにやりと笑った後、憤怒の表情で彼らを叱る。


 「お前等何シケた強盗なんかやってんだバカが。

 いいか、銀行強盗するならあらかじめ警備くらい調べとけバカ。

 それから撤退の判断をするなら徹底しろ。

 俺に挑発されたくらいで足止めるなバカヤロウ。

 それに逃走ルートをちゃんと確保してたのか?

 この街の防犯設備をチェックしてたか?

 バカが。全部監視カメラに写ってたぞ。

 パイロキネシスなんて能力持ってるくせにシャバいヤマ踏みやがって。

 もっと金稼ぐ方法なんてあるじゃねえかバカが。

 外で放火保険金詐欺とかな。

 そもそも、強盗すんなら民家にしとけバカ。

 LUX内で強盗なんざ捕まえてくれって言ってるようなもんだ。

 バカが」


 強盗たちは、暫くの間、何を怒られているのか解らなかった。

 そして理解すると、この男は何者だろう、と思った。


 「いいか、俺が金になる能力の使い方ってのを教えてやる。

 無能力者だろうとかまわねえ。どんな奴だって何かの役には立つ。

 俺についてこい。どうせLUXじゃもう指名手配だ」


 強盗の一人、ナイフを持っていた男、布津直人ふつなおとが怯えながら質問する。


 「あの、俺等どうなるんすか・・・・・・」

 「バカか。とりあえず、逃がしてやるってことだ。

 お前等さえよかったら、ほとぼりが冷めるまで匿おう

 その後は好きにすればいい」


 三人は目で会話する。

 すなわち、この男についていっていいのだろうか?と。

 銃を持っていた男、雁屋勘馬かりやがんまが聞く。


 「なんで俺等を助けるんだ?」


 「お前等があまりにもったいない力の使い道をしてるんでな。

 能力だけじゃないぞ?

 銃を手にいれるルート、資金力、強盗実行の手際。

 つまりは……行動力だ。

 物乞いするよりはまだしも牙がある。

 俺はその犯罪力を鍛えてみたくなった」


 ドライバーが陽気に続ける。


 「どの道アナタタチ、ここで私達から逃げる、どうせポリス捕まるね。

 バット、ここで人生の転機、見つける。

 それ成り上がるチャンス思わないか?」


 思えなかった。とにかく怖かった。

 三人はしばし相談しあい、とりあえず逃がしてくれるならそれに乗ろうと決めた。


 それから車を変えること5回、船に乗ること2回、

 地下道や下水道を歩いた回数、数知れず。

 いつのまにやら、木場の仲間が増えて、今や全員で6人の集団になっている。

 風紀委員に追いつかれた感覚は、強盗たちには一切なかったが、

 木場は時折ケイタイで連絡をとったり、周囲を警戒していた。

 実際、強盗たちが気づいていないだけで、危うい場面は何度もあったのだろう。


 今は強盗たちは船に乗り、どこともしれない海を後悔と共に航海している。


 「おい、逃げようとか立ち向かおうなんてバカな事考えんじゃねえぞ?」


 木場の一味の一人がAK47を構えながら野卑に笑う。


 「ヴェノム、お前はもう少し上品に喋れ、ちゃんと堅気のシノギができてるのか?」


 木場が軽くヴェノムをはたく。


 「ハハハ、すんません旦那」


 「あまりビビらすんじゃない。おいお前等悪かったな。

 コイツはちょいとばかり気が短いんだ。ドク、治療は終わったか?」


 闇医者らしき男が強盗たちの怪我を治療して行く。


 「へえ、ちっとばかし痛むかもしれやせんが、大事はありませんぜ」

 「そうか」

 それきり木場はしばらく黙り、外をじっと見ている。

 はるか遠くの敵を睨む弓手のような、登頂する山を見る冒険家のような表情だった。


 やがて、強盗たちは車に乗り、目隠しをされて道を歩き階段を登る。

 繁華街の騒音、ビルに入った空気、階段を登るたびにまして行く人の気配。

 彼らにとっては死刑台の13階段を歩いている気分であった。

 やがて彼らは目隠しを外される。

 そこには首吊り縄はなかった。

 代わりにダンスホールがあった。

 スタイリッシュで垢抜けたテーブルやネオン、酒を飲んでくつろぐ若い男女。

 明らかに堅気じゃない男達。どう見てもキャバ嬢な女達。

 ガンギマリにヤバい酒場が出現していた。

 彼らは素早く帽子を取ると、姿勢を正し75度の角度でお辞儀する。


「お疲れ様です、ボス」

「お疲れ様っす、兄貴」

「リーダー、おかえりなさい」

「チーフ、待ってたぜ」

「好久没見了、幇主(オヒサシブリネ、ボス)」

「welcome back sir!」


 それに対し、木場は鷹揚にうなずき返し、やがて誰ともなく彼の行く道をあけて行く。

 強盗たちはどう見ても堅気じゃない黒服たちに無言で椅子を勧められた。

 座るしかなかった。

 木場がダンスホールの壇上に上ると、騒然とした雰囲気は徐々に収まり、

 大麻だか煙草だかわからないキツイ煙の充満した空間は、荘厳とした沈黙に支配される。

 BGMが静まり・・・・・・木場はマイクを握る。

 これから何事が始まるのだろう?

 強盗達は思う。だが、ヤバイ何かというのは確実に解った。


 そして、木場の演説が始まった。


 「最初に俺はこう言ったな・・・・・・

 馬鹿でかい家に住んでる奴も道端で転がってる奴もLUXじゃ等しく不幸だ。

 上の奴等が好き勝手に決めたルールの中で競争レースさせられてる」


 静かに、遠雷のように重く深く。


 「こいつは絶対に勝てない賭けなんだ。

 あいつらが甘い汁を俺等に吸わせる気なんて無いんだからな。

 今のままじゃ一生這い上がれない仕組みが作られている」


 やがて、明朗と。


 「搾取されるままでいいのか?

 首輪着きの猟犬のままでいいのか?

 しみったれた野良犬のままでいいのか?

 俺はお前等にそう問うた」


 静かな熱と共に。


 「そして、俺は約束した。

 お前等の首輪を外し、お前等に牙をやると。

 情熱をかけるに値する挑戦をしようと」


 それはもはや遠くに響く軍馬の群れのように。


 「お前等に聞こう。

 俺は約束を守ったか?」


 対するは熱狂。


 「ああ!」

 「楽しませてもらってるぜ!」

 「加油!鬼大哥!」


 喚声。それに対し負けぬほどのもはや隠し切れぬ情熱で。


 「搾取されるままでいいのか?

 このままいい目の見ずに死ぬのか?

 お前等は今までバカに寛容すぎたんだ。

 ならばどうする!

 怒れ!いつまでも従順な犬でいるな!

 戦え!権利を勝ち取れ、自由を勝ち取れ!」


 それは狂気。狂奔、嵐の如き熱波。


 「LUXを潰せ!羽白太白を引きずり出し、首を掲げよう!」


 それは重力。それは黒い太陽。

 全てを焼き尽くすような、何もかも引きつけて破壊してしまうような、暴力。

 そして聴衆ギャラリーたちが口々にスローガンを叫ぶ。


 「羽白を殺せ!」

 「生かしておくな!」

 「自由を!さもなければ死を!」

 「俺達は犬じゃない!」

 「殺殺殺」


 ここで木場は頼るに足ると人々に思わせる笑みで軽く聴衆をなだめる。


 「いいだろう。俺は約束を果たした。

 お前等に自由と権利を掴むチャンスをやった。

 だが、それを掴み取ったのはお前等の意志と努力だ。

 降りたい奴は降りればいい、強制はしない。

 お前等は幸福を掴む権利があり、その権利を行使すればいい」


 それは慈悲深く、静かに。


 「だが、次の挑戦を俺と共にしてくれるならば、

 今度は世界を変革する権利チャンスをお前等にやろう!

 牙を研げ!復讐の準備をしろ!

 お前等とならばそれができると俺は信仰している」


 気がつけば、強盗たちは熱狂の渦に入り、聴衆と共に絶叫していた。


 「牙を研げ!」

 「牙を研げ!」

 「革命!革命!革命!」

 「次の挑戦を!さらなる試練を!」


 LUXからはぐれた狂気は、静かに熟成されていた。

 そして、そこに新たに三人が加わるのも、遠くないだろう。


             ◇


「ろくでもねえな、ここも」


 頭上からはスプリンクラーの雨、地面には銃弾の穿った研究員の死体。

 コンクリートとリノリウムでできた白い研究所はいまや赤く染まっている。

 息絶えたそれに座りながらタバコをくゆらす木場。

 死者への冒涜を木場が自分に許すのは理由があった。

 目線の先には明らかに子供とわかる死体があった。

 頭を切開され、脳を取り出されたそれは股間から血と白濁が流れていた。

 壊れた棚にひっかかったビンにはグラビアモデル並みの巨乳にされた男子児童のホルマリン漬けが存在する。

 彼と彼の部下がやったのではない。彼らが襲撃した研究員がやったのだ。


「廃物利用ってところか。クズ共が。救えねえ」


 じゅ、と研究員の死体の口にタバコを押し付けて消す。

 部下がたたたた、と駆けて来る。


「見つかりました!ターゲットです、生かして捕まえました」

「よくやった。ここにつれて来い」


 木場の前に腕をガムテープでぐるぐる巻きにされ、猿轡をかまされた男が放り投げられる。


「さて、と。おいカメラもう回ってるか?」

「イエス、準備OKですね」


 ゴキゴキと首を鳴らして立ち上げると木場は演説を開始した。


「こちらリュウキュウLUX、反魔術協会民兵組織「神討会」だ。

見ているか?本土の善良な市民。これがLUXだ」


都市迷彩姿の木場がテロリストの風格をたっぷりにじませて劇的に手を広げる。

カメラが研究所の様子を写した。編集する時には、悪趣味な研究の内容がテロップつきで挿入されるのだろう。


「いい年した大人が!年端もいかないガキ共をレイプして切り刻んで焼却場で燃やす。

なぜだ!?一つやってみた本人にきいてみよう。

おいあんた、名前は」


研究所所長は怯えながらもふてぶてしく答える。

死を前に居直る姿がそこにあった。


「山岡、椎だ」


「階級は?」

「所長だ」


木場は淡々と質問を開始する。


「なあ、あんたはここの研究所を管理する立場にあった。

ならばここの子供たちが研究員に犯されていたのも知っていたはずだし、

人権を無視した実験をやっていたのも知っていたはずだ。

むしろ知っていなきゃおかしい。で、どうだ。知ってたのか?」


 所長は叫ぶ。きっと助からないだろう。

 だが、もしもにかけて。


「わたしは知らない、知らなかったんだ!」


「ほおー、面白いことを言うな。なあ、これあんたの会話だ。

3日前に盗聴に成功したものだ」


 木場が腕につけたタッチパネルを操作するとノイズ交じりの音声が流れた。


<DW-23はどうしますか?>

<いつも通り使い切ってやれ。研究員のいい保養になる>

<犯してもいいということですね?>

<何をいまさら。使い道のなくなった女子に、兄弟胚からイチモツを移植して妊娠させるなんて、君らの発想には驚かされる。

正直、理解できん性癖だね。流行ってるのか?>

<そういう所長こそ、毛皮の全身移植でみごとな剥製をつくられたじゃないですか>

<ロシアンブルーの毛並みは最高だよ>


 下卑た笑い声。


「で、これがあんたの所長室にあった剥製だ」


 そこには獣人少女といえる美しい剥製があった。

 木場の部下たちはここにこの生きた所長をあつかうよりはるかに丁寧な手つきで持ってきたものだ。

 木場は悪鬼羅刹のような無表情で所長をつかみ上げて恫喝する。


「なあ、なぜだ。なぜこんなことをする。正直に言え」


 所長はやけくそそのものの引きつった痙攣的な笑いで答えた。


「も、もったいなかったからだ。どうせ使い切る実験体じゃないか」


 木場の顔が悪鬼のそれになる。


「ハッ、もったいない。もったいないだとよ!

見ろ市民共。こんな犯罪者が野放しになっているのがここなんだ。

警官は学生共の風紀委員!上層部はこんな研究をむしろ奨励する!

一つ聞こう。許せるか?こんなクズ共を許せるのか?」


 ぎり、ぎりと木場の歯が鳴り、血走った目で所長を睨みつける。


「俺はゆるせないね、ぜんぜん、絶対に許さん。

そうだ。たしかにこいつは家に帰ればよき夫でありよき父親『かもしれない』

案外に外では常識的な意見を言うの『かもしれない』

部下に金と休暇と実力を与えるよき上司だったの『かもしれない』」


 胃の重くなるような重圧が増し、殺気があふれ出る。

 所長をつかむ手に万力のような力が加わった。


「だが、それが何だ?

知ったことか、そんなものぜんぜん、知ったことじゃない。

こいつに殺された奴らにとってはそんなものそれこそ知ったことじゃなかっただろう」


 木場は所長を放り出すと、腰から銃を抜いてためらいなく所長を撃った。


「さて、こいつらがなんでこんなことまでしてるのに上層部がかばうか解るか?

答えは簡単だ。能力の隠匿のためだ。

ここで行われていたのは能力に関する実験だった。だから表ざたにしたくなかった。

それだけだ。それだけで連中は隠蔽する。犯罪者は裁かれない。

さあ、どうするAXYZ。お前たちは、本土で暢気に対岸の火事だと見るか?

これを見てもなお魔術の秘匿だとかいうごたくをならべるか?

ハッ、だとしたらとんだお笑い種だ。死んだ後になって狙われていたことに気付く愚図だ」


 むしろ甘美に、不気味な穏やかさで告げる。


「今にこいつらがそっちに行くぞ?さあどうする。どっちに手を貸す?

よく考えろ、紳士淑女諸君」


 カメラを構えていた迷彩服の部下がOKサインを作る。

 カットの合図だ。


「オーウケーイ。カメラ切りますカ?」


 褐色のアジア系の顔をした部下は陽気に尋ねた。


「ああ、頼む。それであと何人くらい捕虜はいる?」


 怒りはそのままに、テンションは低く木場は答える。


「5人デスネ」


「ならあと3回は取り直しができるな。証言を絞れるだけ絞ってから取り直すぞ」

「オウライ!了解しましたネ」


 ずる、ずると捕虜が運ばれてきた。

 彼らは目の前のスナッフビデオ撮影劇を見て青ざめている。


「よかったな、お前ら。もったいないから有意義に生を使ってやる。

お前らのクズとしての生はLUXの開放の礎になれるわけだクソッタレ」


 吐き捨てるように、愚痴るように皮肉る。

 木場の声は怒りに震え、どうしようもないむなしさとだるさに包まれていた。


 リュウキュウLUX。

 最高の技術力と、最低の治安の中で人々は平穏のうちには都合の悪い真実から目をそらし。

 貧困と暴力にあえぐ中でしがみつくようにその日を生きていた。

 そして、それでもだからこそ戦火は燃え続けている。


 この後、AXYZに一本の動画が送り届けられることとなる。

 その動画は多大な論争を巻き起こし、やがてAXYZ内に魔術の隠蔽を疑問視し、LUXの蛮行を阻止せんとする論調を作り出すこととなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ