日の光の下で(5)
「ただ?」
そんな綜一狼を真っ直ぐに見据えて、楓は綜一狼の答えを待つ。
「あえて拒まなかっただけだ」
ボソリと呟く綜一狼。
「……」
綜一狼の発言に、楓は軽蔑の眼差しを向ける。
「だから悪かったって! もう二度としない。約束するっ」
まるで浮気のバレた亭主のように、あたふたとしながら、綜一狼は言い募る。
「本当に?」
「ああ。絶対だ」
楓の疑惑の瞳を受けて、綜一狼は大きく頷く。
「だから楓もだぞ。俺以外の奴にはするな」
「う、うん。これからは気を付ける」
まさかすでに、静揮と聖。
二人にキスをされてしまったとは言えない。
「これから?」
だが楓の歯切れの悪い台詞を、綜一狼は耳聡く聞き逃さなかった。
「あ……」
「まさか、お前にちょっかいをかけてきた奴がいるのか?」
ハッとした様子の楓に、綜一狼の目が光る。
「ち、違うのっ。あれは不可抗力。事故みたいなものだし……」
「不可抗力? 事故!?」
見事なまでに墓穴を掘っていく楓。
「まったく。これだからお前からは目が離せないんだ」
綜一狼は楓を抱きしめる腕に力を込める。
もう二度と離さないというように。
「本当にいいのか? 俺で」
「うん」
「もうお前を手放さないからな。お前が嫌だっていっても、気持ちの歯止めはとっくになくなってるんだ。」
「うん……」
「何があっても、俺はお前を守る。聖にも、他の誰にも楓は渡さない」
「綜ちゃんと一緒なら大丈夫だよ」
楓は綜一狼に、にっこりと微笑みかける。
温かな風が、二人の間をすり抜けていく。
綜一狼は楓を見つめ、そっと微笑む。
愛しさを込めた優しい瞳が、楓を捉えている。
「……」
「……」
小さな沈黙がその場を支配する。
綜一狼の唇がゆっくりと楓の唇に触れる。
言葉よりも、たった一度の口付けが、二人の思いを形にする。
『永遠に離れない』
それが二人の誓い。
長い長い口付けが終わったその時だった。
「綜一狼! そこで何をしてるんだっ」
その場に静揮が姿を現す。
ちょうど楓を抱きしめたままの綜一狼を見て、静揮は鬼の形相で綜一狼に詰め寄る。
「し、静ちゃんっ」
楓は真っ赤になって、思わず綜一狼を押しのける。
「別にいいじゃないか。両思いなんだし」
慌てる楓を他所に、綜一狼はサラリと真面目な顔で言い放つ。
「て、てめぇっ。言っておくがなっ! 俺は楓と付き合うことは認めないっ」
「え!?」
静揮の爆弾発言に、楓は静揮を見る。
「兄として、こんないい加減な奴に妹はやれんっ」
「お前な、こんな時だけ兄貴面するなよ」
綜一狼は呆れたように言い放つ。
「今しなくていつするんだっ!」
静揮は即座に言い放つ。
「私も綜一狼に渡すのは惜しいと思うわ」
「ル、ルナまで……」
その場に参戦したルナが、楓に抱きつき言う。
「俺も納得出来んっ。綜一狼ばっかりいい思いすんなんて」
と、守屋は綜一狼からかなり離れた位置から叫ぶ。
「そういう訳だから、よろしくな」
静揮はニッと意地の悪い笑みを浮かべる。
「そんなことで俺が納得するか」
そう言うと、綜一狼は楓の手を取り駆け出す。
「あ、待ちやがれっ」
「卑怯よっ」
その後を、慌てて追う面々。
「俺から離れるなよ」
「うんっ」
握られた手に、確かな温もりを感じながら、楓は綜一狼に微笑みを向けるのだった。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
これにて一部完結というところでしょうか?
第二部は、気分次第で(笑)
過去作品なので、読みづらい部分も多々あったかと思いますが、
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
本当に、ありがとうございました!