第4章-幕間 任務報告(緋霊side)
時は遡り、初回任務当日の深夜。祟界に戻って早々狗ノ間の執務室にやってきた緋霊は、部屋の最奥の椅子に座った狗無と相対した。
室内には報告を聞きに来た姉の翠霊と兄の蒼霊もいる。
「緋霊よ。此度の任務はどうであった?」
「祟魔に取り憑かせとったもんは祓われてしまいましたが、かなりの深手を負っちょる。今頃は死んでるやろう思います」
狗無の問いかけに、緋霊はどこか勝ち誇ったような声色で答えた。相手はまだ年端もいかない人間だ。多少戦えたところで腹を貫かれてはそう長くは生きてはいられない。大方、大量出血でこの世を去っていることだろう。
狗無の反応を伺っていると、不意に狗無がこめかみに二本の指を当てた。念話で何やら話している狗無を緋霊はもちろん、蒼霊と翠霊も怪訝な目で眺める。と、話が終わったのか狗無はまっすぐ緋霊を見据えた。
「……緋霊よ。確認に走った使いによれば、どうやら彼奴は生きているらしいぞ」
「はっ? 噓じゃろ……」
狗無が言った瞬間、緋霊は面食らったように目を見開いた後、すぐさまこめかみに指を当てた。
『游幻! おんしまだそこにおるんじゃろっ⁉ 一体どないなっとるんじゃ⁉ あの小娘、死んだんとちゃうんか⁉』
未だ千鳥ヶ淵にいるであろう準烈級祟魔に扮した小柄な妖鬼へ激しく語り掛ける。
烏で視覚を介して視ていた緋霊とは違い、妖鬼はその場にいたのだから何か知っているはずだ。祈るように目を凝らして返答を待っていると、緋霊の頭に老人の笑い声が響いた。
『いや~、実は私めも緋霊殿とほぼ同じくして意識を失いましてなぁ。吹っ飛ばされたのか気づいたら遠い山奥でしたわい。故に真偽はこちらからは分かりかねます。しかし、まさか石ころごときに意識を持っていかれるとは……こら笑えますぞ。あっひゃっひゃっ!」
『何笑とんじゃ! おどれ!』
高笑いをする游幻へ緋霊は念話越しに怒鳴る。
「ほんま使えんやつやきぃ……」
イラつきながらボソッと呟いた緋霊は、再度こめかみに指を当てた。
『……もうええ。あやつが生きとるいう確認が取れた。また進展があったら連絡するきに。はようそこから戻ってこい』
『承知いたしました』
ひとしきり笑って満足したのか、落ち着きのある声が返ってくる。烏を経由して緋霊も状況を視ていたが、突然硬い何か——游幻によると石ころに当たったせいで視覚共有が途絶え、その後どうなったのか確認が取れていないようだった。おそらくあの後に何かが起こったのだろう。
「何にせよ、彼奴が生きているのであれば任務は失敗か」
「申し訳ないです」
「元より簡単なものであれば、こうして我たちに声がかかることはなかったはずだ。そう気負わずともよい」
緋霊が頭を下げるに対して狗無が宥めるようにして言った。今回で明確になったが、秋葉を殺そうにもいくつかの障害がある。おそらく向こうもきちんと対策してきているのだろう。これは長期戦になりそうだと緋霊は予感する。
「それにしても、まこと滑稽なことよのう。我が弟ながら呆れるわ」
「なーんもやっとらんくせに、のこのことほざきよって……!」
口元を扇子で隠した翠霊は嘲笑うようにしてほざいた。それに対し、頭にきた緋霊は地を這うような低い声で怒りをぶつける。
「だいだいのう、お主は詰めが甘いんじゃ。如何なる状況にも対処できるよう綿密に手段をこうじねば殺すべき相手も殺せぬ」
「ほぉ……そこまで言うんじゃったら次はおまんがやってみせぃ」
確かに翠霊の言うことは正論であり、緋霊も認めたくはないが渋々同意する。しかし、実際に成せなければ意味が無い。翠霊は緋霊の言い分に易々と乗るような玉ではないが、どう出る。
そう緋霊が身構えていると、彼女は口元に笑みを浮かべる。
「よいぞ。暇を持て余しておったが故、好都合じゃ。ここいらでお主の姉として、狗無三大配下の一人として一つ片をつけてやる」
翠霊は自信満々に言い放った。この狗無の配下に属している誰よりも自身の身なりに自信を持つ彼女は、「それにそろそろ動かねば、肌にもよろしくないしのう」と最後に付け加えた。
翠霊本人がそう言うのだ。是非ともこの目で見せてもらおうではないかと緋霊は興味深そうに薄ら笑いを浮かべる。完全に次回の任務の遂行者が翠霊に向き、蒼霊は狗無を見た。
「狗無様、どうなさいますか?」
「翠霊がそこまでいうならやらせてみるのもよかろう。頼めるな?」
「無論じゃ。この妾に任せておくがよい」
狗無からの許可を得た翠霊は不敵に微笑むのだった。
これにて第4章完結です!
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