第3章-第1社 授業中の睡魔
週が明けて月曜日。四限目の代報者課程の授業も終盤に差し掛かっていた。秋葉は教壇に立つ織部の話を聞きながら、教科書をめくる。
内容としては常から創作をしている彼女にとって、一般科目の比ではないぐらいに面白かった。だが、如何せんお昼時ともなると睡魔が襲い始め、日差しが直撃する窓際の席に座っている秋葉は絶賛、眠気に襲われていた。
ざっと見渡した限り、隣の席の悠を始めとした数人の生徒が船をこいでいる。
「ほな、復習や」
眠気覚ましと称して、織部が今日教えた内容をちゃんと理解できているか確認のために、生徒を当てようと周囲へ視線を向ける。
何か創作のネタに使えるものは無いかと、少し先の範囲のページを開けば、代報者階級と祟魔等級が理解しやすいよう表にまとめられていた。
こんなものがあるのかと表を興味深く見ていれば、不意に欠伸がこぼれる。その時、板書を終えた織部が秋葉の方を向いた。
(ヤバい! 当てられる⁉)
そう身構えたのも束の間、織部が視線を少し下げてこう言った。
「秋葉の机の上で寝そべっとるそこのマスコット、代報者と祟魔の意味と双方の関係は?」
(あぁ、なんだエルか。びっくりした……)
自分ではないことに安堵しつつ、秋葉は紛らわしい位置に寝そべっているエルを睨みつける。
「んぇーっと、 祟魔は噂や伝承、負の感情などから生まれる存在で、代報者は神や仏などが属する天界に代わり、対価を払った者に対して報いる者たちのこと。代報者は祟魔を祓うのが使命とされてる」
寝転びながら答えるエル。嚙み砕いて説明すると、代報者とは金銭や信仰心、契約を始めとした対価を払った依頼者から依頼を受けて祟魔を祓う者たちのことを言う。
と、模範解答を口にしたエルが癪に障ったのか、織部は立て続けに質問する。
「なら、代報者が祟魔を祓う際に使用される三つの力は?」
「一つは祟魔を始めとした霊的存在を視ることができる霊眼。一つは祟魔を祓うのに必要な浄化作用を持った気・祓力。最後はその祓力を用いた異能力・祓式。ついでに祓力を用いて操る術は祓術と呼ばれてるね」
「……もうええわ。授業の邪魔せん程度に好きにせえ」
「はーい」
溜息交じりに織部が吐き捨てたように言うと、エルはだらけたように返事をした。
『ねぇ、エル。そういや私って、祓式持ってるの?』
『そうだね~、今日か明日にでも分かるんじゃない?』
秋葉はふと気になって念話越しに尋ねてみると、エルが緩い口調で返す。
何だその曖昧な答えはと半ば呆れていると、板書から戻った織部が真横で頭をがくんがくんさせている悠へ目を向けた。秋葉は咄嗟に起きるよう悠へ念話を飛ばす。すると、悠はガバッと顔を上げて前を見た。
「やっと起きたか。悠、代報者の基本理念三箇条の一つ目はなんや?」
「あー、確か、『代報者は天界より授かりし力を正しく用い、常に人民の命を第一として責任を持って職務を全うする』だったはず……」
「合うとるで。後ちょっとで終わるしそれまで頑張り」
思い出しながら話す悠へ声をかける織部。
代報者の基本理念の二つ目は、『代報者は規律を重んじ、人々に誠実を尽くし、祟魔に屈せぬため日々研鑽を怠らぬこと』。三つ目は『代報者は祟魔を祓う際、その因果を断ち、安らかな終焉へ導くよう努めること』となる。
「次に樹。代報者の規律を一つ答えてんか」
「じゃあ、『任務をこなす際は極力人目についてはならない』」
「正解。代報者はとしてやっていく上で規律は絶対や。万が一違反したらそれなりの処分受けることになるから、みんなよう覚えとけよ」
織部からそう告げられ、眠気が充満していた教室が一瞬にしてピリついた。何が何でも規律だけは覚えておこう。そう心に刻んでいると、織部は白澪へと顔を向けた。
「白澪、祟魔は何を操り、何を養分とする?」
「祟魔は祟気、禍術、禍式の三つを操り、人間の精気を栄養分としています」
祟気は代報者で言うところの祓力、禍術は祓術、禍式は祓式に該当する。
人間の生命力の源である精気を栄養分としていると聞き、秋葉は去年の冬に発生した連続殺人事件の被害者がこぞって心臓と血液を抜き取られていたことを思い出す。今考えるとあの祟魔たちは精気が目当て人を襲っていたのだろう。
「ほな、薫。任務の依頼はどこから受けることになっとる?」
「神社省……? だったと思うんですけど合ってますか?」
「まぁ……その認識で間違ってはおらんな」
薫が訊き返すと、織部はどこかはっきりしない返事をした。
その後の説明によれば、天界側が現世を観測した結果を基に依頼を作成する一方、神社省は天界から降りて来た依頼を管理し、適正のある代報者に振り分ける役目を持つ。
言ってしまえば神社省は天界と代報者の窓口的な役割を果たしているのだ。
「やったら秋葉」
織部に指名され、秋葉はどんな質問が来るのだろうかと身構える。
「代報者には十一の階級が、祟魔には十三の等級が存在するけど、代報者階級の中で一番下の階級は?」
「えっと……巫級代報者です」
「当たりや。今日の五限から巫級代報者試験に向けて稽古してくさかい覚悟しとけよ」
先ほど代報者階級の書かれた表を見ておいて良かったと安堵するとともに、今日から稽古が始まると聞いて秋葉は身を固くする。
ちなみに巫級代報者の次は準宮級・宮級・準真級・真級・準正級・正級・準明級・明級・浄級・特級となるようだ。
「最後に熾蓮。一般的に巫級代報者が祓えるとされている祟魔等級はなんや?」
「拙級、荒級、準烈級、烈級の四等級です」
「お見事や」
今熾蓮が挙げた四等級の次は、準惨級・惨級・準凶級・凶級・準厄級・厄級・準怨級・怨級・災級となるようだが、織部からこれら代報者階級と祟魔等級は追々任務をこなす過程で覚えていけば大丈夫だと補足が入る。流石にこの量を今すぐ暗記できる気がしないので、助かった。
「今日質問したことは今後、代報者としてやっていく上での基礎知識になるからしっかり復習しとくように」
その言葉を最後に、怒涛の質問ラッシュが終わり、四限目の授業も無事に幕引きとなった。




