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第2章-幕間 新たなる天啓(マガツキside/緋霊side)

 山積みになった巻物の置かれた机を前に一人の女が水晶玉を眺めていた。水晶玉には秋葉(あきは)と熾蓮(しれん)が教室に入ってくる様子が映っていた。


 腰までの深紫の長髪を背に流し、灰色の着物に黒袴を纏った彼女は、ふと赤い瞳を細める。


『どーも、初めまして! ボクは――』


 白狼に烏の翼を生やしたエルの声が流れたところで、水晶玉に映し出された映像と音声が途絶え、接続が切れた。女は水晶玉をじっと見つめる。


 前に狗無(くない)が言っていた不気味な気配はこれかと彼女は顎に手を当てる。と、執務室の扉が開き、そこから焦げ茶色の髪をポニーテールにし、黒の着物と袴を纏った女が現れた。


「失礼しますマガツキ様。次の啓示が来たので報告に……。お言葉ですが、少しは片づけていただけませんか?」


 黒装束の女は入室早々、黄金の瞳で室内を見回すとうんざりした様子でマガツキに言った。辛うじて動線は確保されているものの、部屋の至る所に巻物や書物を始めとした物が散乱していた。


「仕事に追われるとどうにもね……。それで綴理(つづり)。次の啓示の内容は?」


 黒装束の女――綴理(つづり)はマガツキに尋ねられ、抱えていた巻物を広げて記載された内容を読み上げた。


「――了解だ。光陰(こうあん)と狗無にも今言った内容の共有を頼めるかい?」

「かしこまりました」


 巻物に書かれた文言を聞き終えたマガツキは綴理(つづり)へ指示を出す。丁寧な口調で返した彼女は巻物を閉じて抱え直し、マガツキに声をかける。


「大神学園(おおみわがくえん)に潜入後、対象と接触されたとのことでしたが、如何がでした?」

「現状、変わった様子は見られなかったよ。呪物(じゅぶつ)の件は失敗に終わったが、これも予定の範囲内というわけさ」

「なるほど。ところで仕掛けの方はどうです?」


 マガツキが微笑んだのも束の間、目の下に隈を携えた綴理はすぐにいなして次の問いを口にした。


「心配しなくてもきちんと施しておいたから問題ないよ」

「承知いたしました。では、私は伝達がありますのでこれにて失礼します」


 多忙を極めていた綴理は、一礼すると足早に執務室を出て行った。彼女を見送ったマガツキは、先ほどの水晶に映っていたマスコット姿の神獣を思い返していた。


 昨日、今日と秋葉に渡したダンボール箱に忍ばせておいた黒い蝶の式神を放ったまでは良かったが、一日と経たずに三匹諸共潰されてしまった。この世界においてそのような芸当ができる存在はただ一つ――。


「――これは少々手間取りそうだ」


 マガツキはそう呟いて笑みを浮かべるのだった。

 


 ◇◆◇◆

 

 啓示の伝達がなされてから数時間。狗無(くない)の執務室の扉が開き、狗無から連絡を受けた

緋霊(ひれい)が慌てた様子で入って来た。


「マガツキ自ら動いたっち、そりゃどういうことじゃ⁉」

「どうやら大神学園に侵入した後、標的と接触し、呪物での殺害を試みたらしい」


 事態の大きさに緋霊が敬語も忘れて突っかかると、狗無は淡々とした喋り口で説明する。事情を把握した緋霊は溜息を吐きながら、既に部屋に居座っていた二人の男女へ目を向ける。


「その様子じゃと、兄様(にぃさま)と姉様(ねぇさま)は知っちょったようやのう」

「まぁな」

「いつの世も情報が戦況を左右するからのう。知っていて当然よ」


 緋霊の問いかけに腰までの紺色の長髪を毛先で束ね、縹色(はなだいろ)の着物と濃紺(のうこん)の袴を着た男が短く頷く。


 一方、苔色(こけいろ)の長髪を金の簪(かんざし)でお団子ポニーテールに纏め、黄緑の着物に暗緑色(あんりょくしょく)の行頭袴(ぎょうとうばかま)を身に纏った女は、ソファに座って茶を嗜みながら余裕の表情で話した。


 緋霊は兄の蒼霊(そうれい)と姉の翠霊(すいれい)の話に「知っちょったなら吾にも教えてくれても良かったろうに」と小さく愚痴を溢す。


「だが、殺害は失敗に終わったようだ。あの方ならばいつでも標的の首を取れるだろうが、そうしなかったということは様子見の類かあるいは……」


 狗無は言葉を途切れさせ、考え込む素振りを見せた。緋霊たち三人が怪訝そうな顔で狗無を見つめたのも束の間、狗無は顔を上げて話を続けた。


「まぁよい。今回お主ら三人を招集したのは他でもない。新たな啓示が降ってきた故、此度の適役である緋霊は無論、念のため蒼霊(そうれい)と翠霊(すいれい)にも伝えておこうと思ってな」

「なるほど。啓示の内容をお教えいただいても?」


 蒼霊(そうれい)が尋ねると、狗無は綴理から伝え聞いたことを三人に話した。


「光陰(こうあん)からは来たる時までに備えよと仰せつかっている。任務の詳細はこれに記載済みだ。緋霊、頼んだぞ」

「承知しました」


 狗無から一本の巻物を受け取った緋霊は、一礼して執務室を後にした。

 

 ◇◆◇◆

 

「ここら辺かぇ……」


 狗無の命を受け、緋霊はとある川のほとりへとやって来ていた。春特有の暖かい風が吹きつける中、どこからか賑わう声が聞こえ、緋霊はそちらへ視線を移す。


「ほぉ、こりゃちょうど良さそうなががおるき。ちっくと試しちゃるか」


 緋霊は興味深そうに目を細めて笑うのだった。

これにて第2章完結です! 次はいよいよ巫級代報者試験編となります!

少しでも面白かったという人はぜひともブックマーク・評価をよろしくお願いします。

感想もお待ちしておりますので、そちらもぜひ! 作品の推しポイントを語り合いましょう!


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