000_プロローグ
2020年代後半、世界の軍事バランスは一変した。
戦場を支配したのは、人間ではなくAIだった。
自律型の無人ドローンや兵器が、超高速の演算によってミリ秒単位で戦術を組み立て、敵を効率的に排除していく。
そこには人間のパイロットが気絶してしまうような、10Gを超える超機動があり、恐怖による躊躇も、引き金を引く一瞬の迷いも存在しなかった。
だが、完璧に見えたAIの支配にも、冷酷な技術的限界が存在した。
国家規模の強力な電波ジャミングが吹き荒れる「情報の暗黒地帯」において、AIはただの盲目の鉄クズと化す。
カメラやセンサーの視覚情報だけに頼るAIは、煙幕やダミー風船といった、戦場の原始的な「騙し(欺瞞)」をどうしても見抜けなかった。
どれだけAIの処理速度を上げても、実戦経験を積んだ人間――それも、未来予知に近いレベルで戦況を察知する『本物の天才』が持つ「直感」と「閃き」には、どうしても一歩及ばない。
「AIの計算速度」と、「人間の直感」。
その二つを最も安価に、そして最も高純度に融合させるための禁忌の実験が、日本の片田舎で極秘裏に始まろうとしていた。
画面の向こうのミリ単位の攻防に命を賭け、世界大会の頂点を夢見ていた若者たち。彼らの持つ「ゲーム脳」という名の異常に発達した予測能力が、本物の戦闘AIの『パーツ』として白羽の矢を立てられたのは、必然だったのかもしれない。
これは、誰もが「ただの最新ゲームのテストだ」と信じて疑わなかった、あの決定的な一週間の始まりの記録である。




