表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう、今更です  作者: つむぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/52

8

午後の陽光が窓辺に柔らかく差し込み、セリーヌとジュリアが運営するサロンには、楽しげな談笑が満ちていた。


広間には華やかなドレスに身を包んだ令嬢たちが集まり、それぞれ紅茶を片手にくつろいでいる。銀のティーポットから注がれる香り高い茶が、優雅な雰囲気を一層引き立てた。


「もうすぐね、ジュリア」


セリーヌが微笑みながら言うと、ジュリアは少し照れくさそうに肩をすくめた。


「ええ、ヴィクトールったら、準備に妙に張り切っていて大変なのよ」


「彼らしいわね」


セリーヌはくすりと笑う。


ジュリアの婚約者、ヴィクトール・デュランは昔から陽気で賑やかだったが、彼女のこととなると真剣だった。


「でも、いざ自分の結婚式となると、なんだか実感が湧かなくて……セリーヌ、あなたもそうだった?」


「ええ、私も直前までは実感がなかったけれど、当日になれば自然と気持ちが落ち着いたわ」


「なら、私もそうなるといいんだけど……まあ、ヴィクトールのことだから、きっと派手な演出を考えているわよね」


「間違いなくね」


二人が笑い合っていると、近くの令嬢が興味深げに話に加わった。


「ジュリア様の結婚式、とても楽しみですわ。きっと素敵なものになるでしょうね」


「ありがとうございます。でも、期待しすぎるとヴィクトールが調子に乗りそうだからほどほどにね」


場の雰囲気が温かく和やかに包まれる中、ふと別の令嬢が、少し声を潜めながら話を振った。


「そういえば……ご存じかしら? モントレイユ公爵家が、ついにご子息の婚約を決めたそうですわ」


セリーヌはカップを持つ手を止め、ジュリアも驚いたように瞬いた。


「アラン様が?」


「ええ、かなり強引に決められたらしくて……どうやら公爵様が業を煮やして、ほぼ無理やり相手を決めたとか」


「まあ……」


セリーヌは自然と眉を寄せた。


アランの婚約話は長らく進まず、貴族社会でも彼の将来を案じる声が増えていた。だが、まさかここまで強引に進められるとは思っていなかった。


「公爵様にとっては、詩集の発表が決定打になったそうですわ」


「詩集?」


ジュリアが怪訝そうに首を傾げる。


「ええ、公爵様は激怒されたらしいですわよ。『公爵家の嫡男が、婚約もせずに詩作ばかりしているとは何事か!』と。それで、すぐに婚約を決めるよう命じたとか」


サロンにいた令嬢たちは、やや困惑しながらもどこか納得したように頷いている。


「でも、それだけで急に婚約者が見つかるものなの?」


セリーヌが疑問を口にすると、別の令嬢が少し声を潜めながら話を続けた。


「どうやら、お相手の方がとても豪胆な女性なのだとか……」


「豪胆?」


ジュリアが眉をひそめる。


「ええ、とても気が強くて、アラン様を尻に敷いているそうですわ」


その言葉に、セリーヌは思わず絶句した。


「まさか、アラン様が尻に敷かれるなんて……信じられないわ」


ジュリアも驚いたように目を丸くする。


「でも、実際にその方とお会いしたことのある方によれば、すでに彼女がアラン様を完全に掌握しているとか」


「掌握……」


「ええ、婚約が決まった日にはっきりこう仰ったらしいのです。『あなたの無駄な詩作は私が止めるわ。公爵家の当主としての自覚を持たせてあげる』って」


サロンの空気が一瞬静まり、次の瞬間、ジュリアが大きく笑い出した。


「それは……すごい方ね!」


「ええ、本当に……」


セリーヌも思わず苦笑する。


まさか、あのアランが、そんな女性に出会うとは――。


「まあ、アラン様もこれで少しは落ち着くかもしれませんね」


「落ち着くというよりは……抑え込まれる、という感じですわね」


誰かがそう言い、サロン内にくすくすと笑い声が広がった。


セリーヌはふとカップを持ち上げ、淡い紅茶の香りを楽しみながら、遠くを見るような気持ちで呟いた。


「……彼にとって、それが良い方向に進むといいのだけれど」


彼は変わるのだろうか。


詩を綴りながら、誰かの影に寄り添うように生きていた彼が――。


「まあ、どんな形であれ、前に進むことは大事ですわ」


ジュリアが肩をすくめながら言う。


「私たちは私たちの道を歩むだけよ。セリーヌ、あなたもそうでしょう?」


「ええ」


セリーヌはジュリアの方を向き、微笑んだ。サロンの中に満ちる笑い声とともに、二人はこれからの未来を思い描いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ