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結婚から数ヶ月が経ち、季節はゆっくりと巡っていた。
セリーヌ・ド・リヴィエール――いや、今はセリーヌ・ルフェーヴルと呼ぶべきだろう。
彼女の暮らしは、大きく変わったようでいて、驚くほど穏やかだった。
エドモン・ルフェーヴルと共に過ごす日々は、以前のような不安や孤独とは無縁だった。
彼はいつも落ち着いていて、必要以上に干渉することもない。
だが、それでいて大切な時には必ず傍にいてくれる。
ある朝、セリーヌはゆっくりと目を覚ました。
窓から差し込む朝陽が、柔らかに部屋を満たしている。
心地よい温もりを感じながら、隣を見ると、エドモンが先に目を覚ましていた。
「おはよう、セリーヌ」
優しく微笑む彼の声は、まだ少し眠たげだった。
「……おはようございます」
彼女もまた、小さく微笑みを返す。
結婚してから、朝の挨拶を交わすことが当たり前になった。
「昨夜はよく眠れたか?」
「ええ、とても」
セリーヌが答えると、エドモンはそっと彼女の髪を撫でた。
「ならよかった」
ほんの些細なことなのに、こうして毎朝穏やかに始まることが、どれほど幸せなことなのか――セリーヌは少しずつ実感していた。
かつての婚約時代にはなかったもの。
冷え切った関係に傷つくこともなく、無理に自分を押し殺す必要もない。
「朝食はどうする? 今日は少し遅めに食べてもいいが」
「……エドモン様が決めてくださいな」
「僕が決めるのか?」
「ええ、あなたとなら、どちらでも構いませんから」
その言葉に、エドモンの微笑みが少し深くなる。
「なら、一緒にのんびり食べようか」
昼下がり、二人は庭で過ごしていた。
テラスに用意されたティーセットの向かいに、エドモンが静かに座る。
「サロンの運営は順調か?」
彼はカップを手にしながら尋ねた。
「ええ、おかげさまで」
セリーヌは微笑みながら答える。
「ジュリアも、新しい企画を考えているようですし、これからさらに忙しくなりそうですわ」
「それはいいことだな。君がやりがいを感じているのなら、何よりだ」
彼の言葉には、いつものように温かさがあった。
エドモンは決して彼女の行動を制限しない。
貴族の女性であっても、ただ家庭に閉じ込められるのではなく、自分の意思で歩むことを尊重してくれる。
それが、彼と共にいることの心地よさだった。
「最近は、女性たちの間でも、仕事を持つことへの関心が高まっていますの」
「君のサロンが、そうした流れを作り出しているのだろう」
「……それなら、嬉しいですわ」
セリーヌが紅茶を口に運ぶと、そっとエドモンがカップを差し出した。
「君が頑張りすぎて疲れた時は、いつでもここに帰ってくればいい」
「……ええ、分かっていますわ」
この場所が、どれほど彼女にとって安らぎになっているのか。
彼の言葉は、確かにセリーヌの胸に響いた。
夜会の日。
夫婦となってから初めて、正式に公の場へと姿を見せる日だった。
セリーヌは、美しく装い、エドモンの腕を取る。
「緊張しているのか?」
「……少し」
「なら、僕がそばにいることを忘れないでくれ」
エドモンは、ゆっくりと彼女の手を握った。
「大丈夫、君は君のままでいればいい」
その言葉に、セリーヌはふっと肩の力を抜く。
彼と共にいる限り、どんな場でも自然体でいられる。
夜会の場で交わされる祝福の言葉の中で、彼女は改めて思った。
ああ、私は幸せなのだと。
時には忙しく、時には静かに。
セリーヌとエドモンの結婚生活は、派手ではなくとも、穏やかで優しさに満ちていた。
かつての孤独とは違う。
冷たい婚約関係に縛られていたあの頃とは、まるで別世界にいるようだった。
彼のそばにいると、肩の力が抜ける。
そして、互いに無理をしないまま、ただ隣にいることが心地よかった。
これこそが、自分が求めていた未来なのかもしれない。
そう思いながら、セリーヌは静かに目を閉じる。
暖かな風が、二人の間を優しく吹き抜けた。




