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学園を卒業した後も、アラン・ド・モントレイユは王宮との関わりを完全に断つことはできなかった。公爵家の嫡男として、そして何より長年王子の側近であった者として、彼はなおもフェリクス・ヴァルモンの影の中にいた。
表向き、彼は王子の忠実な友人であり、かつてと変わらぬように振る舞っていた。だが、それは義務感に近いものだった。婚約破棄騒動の後、フェリクス王子の立場は王宮内で揺らいでいた。王家の未来を憂う貴族たちは、次第に第二王子を支持するようになり、フェリクスは王宮の中で孤立しつつあった。
アランは、そんな彼を擁護する立場にあるように見えたが、内心では複雑な感情を抱えていた。
王子がリリア・エヴァレットへの執着を捨てられずにいることも、その精神が次第に危うくなっていることも、誰よりも近くで感じていた。だが、それを表立って指摘することはできない。王子に忠誠を誓った身として、アランはぎりぎりの均衡の中にいた。
「アラン、僕のことを疑っているのか?」
ある日、王宮の庭園でフェリクスがふと口にした。
「そんなことはありません」
アランは静かに答えたが、フェリクスは納得しないようだった。
「それなら、なぜ最近距離を置こうとする?」
王子はかつての朗らかさを装っていたが、その笑みの奥に焦りが滲んでいた。
「君は僕の味方だよ、アラン」
「……それはもちろんです」
言葉に迷いながらも、アランはそう返した。
だが、フェリクスの瞳は揺れていた。
「王宮の中で、僕を見限る動きがあることは知っているね?」
アランは沈黙する。王子がここまで自覚しているとは思わなかった。
「でも、僕は負けるつもりはない。僕にはまだ、王妃がいる。母上は僕を決して見捨てない」
その言葉を聞いて、アランはかすかに眉をひそめた。
王妃――フェリクスの母である王妃は、息子への執着を隠そうともしなかった。
「母上は僕を信じている。だから、僕も信じるんだ」
その言葉には、まるでそれ以外の何も信じられないかのような危うさがあった。
王妃は王宮内の権力争いの中で孤立しつつある息子を、最後まで支えようとしていた。彼女にとって、フェリクスは愛する息子であると同時に、王家の正統性を示す象徴でもあった。彼が失墜すれば、彼女の立場も危うくなる。
王妃は、王宮の重臣たちに対してこう告げていた。
「フェリクスはまだ若いのです。婚約破棄の一件で少し傷ついているだけ。彼を見限るなど、ありえません」
だが、その言葉を信じる者は少なかった。
王宮の重臣たちは、第二王子を推す動きを加速させていた。フェリクスの執着が正常ではないことは、すでに多くの者が気づいていたからだ。
アランは王妃と直接言葉を交わす機会があった。彼女は静かに、けれど強い眼差しで彼を見据えた。
「アラン・ド・モントレイユ。あなたはフェリクスの友人ですね?」
「……ええ」
「でしたら、フェリクスの支えとなりなさい。彼はまだ未熟ですが、王家の血を引く者として、いずれ成長するでしょう」
その言葉には、王子を擁護する母としての愛情と、権力を守ろうとする必死さが混ざっていた。
「彼が王座を継ぐべき存在であることを、あなたは理解しているはずです」
アランは何も言えなかった。
彼はフェリクスを見捨てるつもりはなかった。だが、王子が次第に壊れていくのを感じながら、無条件に支え続けることもできなかった。
王宮の中で、フェリクスの居場所は狭まっていく。
王妃は最後まで息子を擁護し続けるだろう。
そしてアランは、王子の傍にいながらも、彼がこれ以上堕ちていくのを止める術を持たなかった。




