13
行き来できる通路を創ってから早三年。私は二十歳になった。
「いろいろあったなあ……」
まず最初に元の世界へ戻って大変だったのは、戻った私がどこにいたのかなどを警察や学校の先生方に説明すること。ただそれに関しては状況を知っているお父さんとお母さんがすごく上手な理由を作り上げてくれて説明してくれた。そして次に、学校を長い間休んでしまったため進級が難しいと言われたこと。それを聞いた瞬間に頭を抱えそうになったけど……仏様のような先生方のおかげでどうにかなったので抱えずに終わった。そして卒業式に先生方にお礼を伝えに行って、私個人からの贈り物を一人一人に渡してお別れした。ただ私が先生方に会いたくなってちょくちょく連絡して高校に行っているけど。
あとは……そうだな。あっちの世界であったこととか。一番の変化は魔族が人間側の手伝いを行わなくなったこと。そしてそのせいで穢れが倍に増えて大変らしい。それで聖女として小春ちゃんが頑張っていると聞いた。
手伝いを行わなくなった理由は二つあって、人間側が魔族への浄化を拒否したこと。そして人間が魔族を使い捨ての道具だと笑いながら言っていたこと。それを手伝いに行っていた魔族の人たちが聞いてしまったと言っていた。だから魔族を守るため人間を拒絶したのだという。ちなみにこの件について直接私は関わっていない、と言うよりは魔族のみんなが私を関わらせないように全てが終わってから話をしたと言ったほうが正しい。そしてその話を聞いたのが行き来出来るようになって半年経ってからのことだった。その間にいろいろあったと思う。だけど私は敢えて聞くことはしなかった。魔族の想いを無駄にしたくなかったから。
「……」
ただ、私はその話を聞くまで小春ちゃんの存在を忘れていた。自分のことで手一杯だったから。でも、それでも思い出すと心配になった。だから申し訳ないと思いながらも小春ちゃんのことだけは、人間側の手伝いによく行っていたグランさんに聞いた。するとグランさんは眉を下げてぐっと何かを飲み込んだあと、苦々しく「あの聖女はお前さんがいたってことすら覚えていない、と言うよりはお前さんがあの国にいたあの日々すら認識していないと思う」と言われた。
その言葉を聞いた私の中で、すとんと何かが綺麗に嵌まった。そしてなんとも言えない感情が溢れそうになったけど、前向きな私の心がその感情を迷わずどこかへぶん投げたのですっきりしたのだ。すっきりした私が思ったことは「小春ちゃんにとっていい人たちが回りにいるし大丈夫だろう」だった。だから私は一度も小春ちゃんと関わりを持っていない。それが私の答え。
「んー、早く帰ろう」
買った品物が落ちないように伸びをして急ぎ足で近道の公園へと入る。
あと他の変化と言ったら、私とジオが恋人になったこと。そして呼び方がジオさんからジオへ、ユヅさんからユヅになったこと。呼び方についてはすぐ慣れたけど、スキンシップが多くなったことに対しては未だに慣れない。
「……だって、ねえ」
ジオの綺麗な顔が近づいて目を閉じると唇に触れる温もりや、抱き締められたときの温もりやいい香り。それにふっと幸せそうに笑う、その表情とか思い出すだけでも私の心臓を鷲掴みして離してくれないんだ。そりゃあ本人目の前にしたらどっきどきで気絶しそうになるよ。ただ……帰るときは寂しくなるし、すぐに会いたくなるけど。
「恋は難しい……」
私は急ぎ足を止めて走り出す。思いっきり地面を蹴って、ぐんぐん前へ前へ。
家に帰ったら少し休むつもりだったけど、そのままジオに会いに行こう。邪魔になりそうだったらあっちにある私の部屋で待機していればいいし。
「はっ、はあ……」
走り続けているから苦しいはずなのに、気づいたら私は走りながら笑っていた。
太陽のような眩しい笑顔のグランさん。
日溜まりのような優しい笑顔のアメリアさん。
月のようにすっと心に溶けるような笑顔のジオ。
みんなの笑顔を思い出すだけで心が温かくなる。こういう風に温かくなるのは、みんなが私にたくさん愛情や優しさを注いでくれたから。だから私は今日も、そしてこれからもずっと笑顔を絶やさずに進んでいこう。
最後までお付き合い下さりありがとうございました。