12
「好きだ」
低く甘い……それでいて儚さを感じさせるその音は、迷うことなく私の耳へと届く。
私は驚きで声が出せず、ジオさんから距離を取り目があった瞬間ーー。
「愛している」
伝えられた言葉の意味がわからず後ろへと下がる。
これが好意であるのは間違いない。だってジオさんの表情がそれを物語っている。ただこの好意がどれに当てはまるのかがわからない。
人間として好きなのか。
友人として好きなのか。
年下を可愛がるような好きなのか。
一人の女性として、好きなのか……。
ただジオさんのこの表情、甘さを含む紫色の瞳が私に愛を伝えている。
それはどの好意なのか悩む私に答えを出させるには十分な情報だった。彼は私を一人の女性として好きなのだと理解する。
確かにさっきの話や今までを思い出すと、それらしい好意を向けられていたかもしれない。決定的なのは、いなくなった私を喚び出したこと。そして私が元の世界へ帰れたという考えだけは浮かばなかったと言っていたこと。それはある意味、私のことを失いたくないというようにもとれる。だけどジオさんの私を元の世界へ帰したいという想いは嘘でも偽物でもない。もしそれが嘘や偽物なら、私は帰れていない。
ジオさんとそういう関係になれたら、きっと幸せになれる。でも私は……ジオさんをそう意味で好きではない。だってここにいた前までの私には、恋をするという意識もなければ余裕もなかった。 だから私はジオさんから向けられる好意に気づきもしなかったのだ。
「ジオさん。私……」
ジオさんは、微笑んだ。そして「今ならわかる。この想いが、私が君だけの神になった理由なのだと」と言った。
「……」
「君が私をそう意味で好きではないことを知っている。ただ、そう……想いが溢れてしまった。私はアメリアたちから君の話を聞いて、顔も知らぬ君に恋をしていたから。そして君に直接会うことができ、君のことを知るたび私のこの恋心は成長を続けた。今この瞬間も成長を続けている」
愛しそうに細められたジオさんの瞳の奥が輝く。それは言葉に表せられないほど美しく、幻想的で。私はただじっとジオさんを見続けた。
「君に、許してほしいことがある」
「……どんなこと?」
「君を口説くこと」
「……」
「それからこれはお願いなのだが、君を好いている一人の男として私を見てほしい。あとできれば君にこの世界とあちらの世界の行き来を願いたい」
今だからわかる。お父さんたちは、私より先にジオさんの想いを聞いたのだと。だからお母さんは私に選択権があるような言い方をしていたんだ。
「いろいろ聞きたいこと、というよりは確認したいことがあるんだけどいい?」
「ああ。もちろんだ。なんでも聞いてくれ」
「この世界とあっちの世界を行き来してほしいって言ってたけど、それはやろうと思ってできるの?」
「できる」
「本当に?」
「できる……はずだ」
最初のできるという言葉に少し違和感があってさらに聞いてみると、ジオさんは私から目を逸らし小さな声で「はず」とつけた。もちろん私がその声を聞き逃すことはない。
ここでちゃんとした答えが返ってこなかったら、私は……。
「ジオさん。私の目を見て」
「……」
「はずって言ったけど、できると思った方法はどういうものなの?」
「それは……帰りたいという君の想いをこちらの世界にあるものに込め、私の帰したいという想いをあちらの世界にあるものに込め通路にするというものだ」
「込めるっていうことは、想うだけより難しいよね……」
「いや、そう難しいことではない。聖女として君は歴代の誰よりも成長しているから。想像や思い出すという行為が力を込めるというのに繋がる」
「そうなの?」
「ああ。だから君はこちらの世界にあるものに触れたまま、あちらの世界を色濃く思い出し繋ぐ場所を決める。決まった段階でそこに私の想いを込め、さらに安定するように通路と両世界にある通路入り口に私の力を上乗せする。それでこちらの世界とあちらの世界はしっかり繋がる」
「……」
「ただ、君が少しでも嫌だと感じたり思ったりすると繋がらない。全ては君の心次第なんだ」
「……だから、できるはずって言ったの?」
私の問いかけに小さく頷くジオさん。私は質問に答えてもらえたことに対してお礼を伝え、言葉を続ける。
「ジオさん、ごめんなさい。まだ聞きたいことあるけど、先に伝えるね。わた、んぐ……」
突然、綺麗な手に口を塞がれる。その突然さに瞬きの回数が増えてしまう。そして私の口を手で塞いでいるジオさんを見ると、ジオさん自身も驚いていた。
え、もしかして無意識に私の口を手で塞いだのか。そうじゃなきゃ驚いた顔なんてしないよね。
私は確認しようと、口を塞いでいるジオさんの手に触れて後ろへと下がる。すると私が口を開くより先にジオさんが話し出した。
「すまない。今の行動には私自身も驚いている。君から謝罪の言葉が聞こえた瞬間、様々な考えが浮かんで……気づいたら君の口を塞いでいた。本当にすまない」
「私も驚いたけど大丈夫。嫌な気持ちにはなってないよ。ただ最後まで聞いてほしいから、もう片方の手も出して」
「わかった」
ジオさんの手を片手ずつ握って離れないようにする。そしてジオさんには座り直してもらって、私はさっきのようにジオさんに近づく。
「私、今までジオさんのことそういう風に見てなかった。だって帰りたいっていう気持ちでいっぱいだったから。だけどそういう不安が全部解消されて、ジオさんを一人の男性として見るってなったら……私がジオさんを一人の男性として好きになるのは時間がかからないと思う」
握った手に力が込められる。だけど痛いほどの力ではなくて、まるで確認するような力。だから私も同じくらいの力で握り返す。
「ジオさんが優しい人だって知っているし、魅力的なのも知ってる。だけどまだまだ知らないことがあるから、私にあなたのことを教えてほしいの。ちゃんとジオさんと向き合いたいから」
「ありがとう……私にも、君のことを教えてほしい。そして君の世界のことも」
「もちろん。私こそありがとう。私のこと知ろうとしてくれて。とっても嬉しい」
ジオさんの幸せそうな表情を見たら、私の心がじんわりと温まるを感じた。
やっぱり、私がジオさんを好きになるのは時間がかからなさそうだ。
そう思ったら頬が緩む。私のこの嬉しさを伝えるように、その美しい手を優しく握った。
このあと私は他にも気になることを質問して、ジオさんが丁寧に答えてくれるというのを繰り返した。そして全て聞き終えたあと私たちは通路を創りに行きーー無事に成功した。




