最終話:宿屋の主人になった
暗黒のドラゴン事件の後、宿屋の主人が死んだ。
反逆の大魔王に体を乗っ取られて空中を飛び回ったあげく、ドラゴンと戦ったんだから肉体の方に限界がきてしまったらしい。
本人は空を飛んだ記憶は全くないようだったが。
急速に体調を崩してしまった。
爺さんには身寄りがいないとのこと。
宿屋の一室に寝ていたのだが、亡くなる直前に呼ばれて「この宿屋のことはあんたにまかすよ。いろいろと秘密を知っているからな。借金も帳消しだ」と頼まれてしまった。
仕方がないので、俺は爺さんの依頼を引き受けて冒険者は廃業、新たに宿屋の主人となった。
爺さんは隣にある無縁墓地に葬ってやった。
スカーレットはすっかり英雄気取り。
ドラゴンを倒した勇者として、周りからも称賛されてすっかり舞い上がっていた。
なお、シルルス・アストゥスと反逆の大魔王については「あの二人はあたしの使い魔です」と言い張って、全ての手柄を自分のものにしてしまった。
田んぼに落ちたドラゴンを解体中にダンカンの死体が見つかった。
ドラゴンに潰されてぺしゃんこになっていた。
妹は英雄気取りだったが、その後の行動がやばかった。
見つかったダンカンの死体の上ではしゃいで踊り歌う始末。
「ドラゴン死んだらダンカン死んだ~ドラゴンコロリ~ダンカンコロリ~ダンカンコロコロ転がり落ちて~田んぼの上で真っ平~目ん玉飛び出し転がり落ちた~目ん玉コロコロ地獄へコロコロ転がり落ちて~それを追いかけダンカンコロコロ地獄へ落ちた~」
ケラケラ笑いながら気の狂った歌を歌い踊るスカーレット。
死んだダンカンを踏みつけて、遺体がグチャグチャ。
「おい、やめろよ。いくらなんでもひどいじゃないか、ダンカンは昔の仲間だろ」と俺がとめようとしたが、
「世界を滅ぼそうとした極悪人が死んで平和になったのよ、こんなうれしいことはないわよ」とますます死体の上で踊りまくる。こりゃ、完全に気がふれているな。外見はともかく中身はモンスターそのものだ。
俺たちが宿屋で戦っていたモンスターは妹だった。
まあ、俺は逃げてばっかりだったけどさ。
このスカーレットのいかれた姿にドラゴンを倒した英雄と褒めたたえていた村人たちもドン引き。
おまけに、土地の所有者がドラゴンが落ちて田んぼがメチャクチャになったとスカーレットに難癖をつけてきた。激怒した妹はそいつをボコボコにした。
これがまずかった。
こいつは村の有力者で、スカーレットは英雄から一気に犯罪者へ。
捕まった後も、村役場で大暴れ。
村長たちを稲妻魔法で真っ黒焦げにし、全員を半死半生状態にしてしまった。
問答無用で首都に運ばれて、刑務所送り。
しかも、医療刑務所なるとこに放り込まれた。
頭のおかしい犯罪者が収容される施設らしい。
病気が治るまで面会謝絶になってしまった。
会うこともできない。
おとなしくしていれば出所できるらしいのだが、あの妹にそんなことができるわけはない。
毎日、大暴れしているんだろう。
スカーレットは最初から本当に狂っていたのかもしれん。
多分、一生医療刑務所生活ではないだろうか。
いろいろと仕送りをするが、返ってくるのは俺への罵倒の手紙ばかり。
しかし、あんな妹でもいないと寂しいもんだ。
ダンカンは無縁墓地に埋めた。
宿屋の主人の隣に葬ってやった。
化けて出てこないといいが。
宿屋の方は大幅に改築。
中庭は綺麗に清掃して、ゴミは捨て、花壇を設置して見栄えをよくした。
シルルス・アストゥスと台座はそのままだが、仕方がない。
まあ今度起きるのは千年後だろうし。
シルルス・アストゥスを触ってもびくともしない。
完全に眠ったようだ。
暗黒のドラゴンも退治したことだし、魔法陣を構成していた壁は取り壊して、何枚かの全面ガラス張りで枠は鉄製の引き戸で中庭を囲んだ。
そんな改築費用はどこから出てきたのかというと、以前発見して、爺さんが受付台の下に置いて書類入れにしていた宝箱本体がかなりの値段で売れたからだ。
どうやら大変貴重なものらしい。
スカーレットに手紙で教えてやろうとしたが嫌がらせになるかと思って、やめた。
さて、宿屋を改築したのだが、お客のほうはそこそこ増えただけだ。
もともとド田舎だしな。
たいして儲からない。
しかし、冒険者やっていたころよりはやりがいがあるな。
忙しくもなく、暇でもない。
俺に合っているかもしれんな、この仕事。
最近、俺は時間が空くと今回の事件を文書にまとめる作業をしている。
しかし、俺には文才がないので紙に十枚くらいで終わらせるつもりだ。
ただ、事実をそのまま書くと、はっきり言って俺は何もしてないんだよな。
見てただけ。
元冒険者としてはちょっと悔しいな。
そういうわけで大幅に設定を変えた。
俺は優秀な剣士で統率力のあるリーダー、そしてイケメン。
ダンカンは勇猛果敢なウォリアー。
スカーレットは美人で心優しい魔法使い。
宿屋の爺さんは温厚で冷静沈着な弓使い。
反逆の大魔王には悪いが、ドラゴンを操る悪役にした。
人間に反逆しているのは事実だろうし。
俺たち四人のパーティーは、リーダーの俺を中心に一致団結して、数々の冒険をした後、凶悪なドラゴンに挑んで見事倒す。
自分に都合よく事実を改変するとは、千年前のアゴラって剣士と同じことをしてしまった。
千年後、これを読んだ人はどう思うだろう。
おっと、シルルス・アストゥスをいれるの忘れてた。
けど、ナマズのモンスターだからなあ。
結局、書かなかった。
陽が差した明るい回廊に出て、中庭の中央の台座にいるシルルス・アストゥスを眺める。
もう、すっかりブロンズ像に戻っている。
千年後に起きて、俺の書いた文書を読んだらシルルス・アストゥスは怒るだろうか?
まあ、あいつは心優しいモンスターだから許してくれるだろう。
(終)




