第十九話:暗黒のドラゴンと戦う
暗黒のドラゴンの真ん中の目から光が発し、ダンカンを照らした。
半袖シャツにステテコ姿のダンカンが空中を飛んでいく。
いや、飛んでいくというより、ドラゴンに引っ張られているようだ。
ドラゴンの首の後ろあたりに着地した。
あのダンカンにドラゴンを操れるのだろうか?
異常事態に、
「兄貴、じゃあね。あたしは部屋で休んでるから、あとはよろしく」と逃げようとしているスカーレットをつかまえる。
「お前が一番恨まれているんだから、真っ先に狙われるだろ。もう逃げ場はないぞ」
「じゃあ、どうすんのよ」
こうなったらシルルス・アストゥスを起こすしかない。
世界最強なんだろ。
自己申告だけど。
例の呪文を中庭のブロンズ像のシルルス・アストゥスにささやく。
ナマズのブロンズ像が動き出した。
「うーん、ようやく千年経ったか。ん? うわ、お前は暴力娘。さてと、おいらは寝るかな」
スカーレットを見てさっさと再び寝ようとするシルルス・アストゥスを揺り動かして、
「大変なことになったんだよ、上を見ろよ」と俺は空を指さす。
宿屋の上空で炎を口から出している巨大なドラゴンを見て仰天するシルルス・アストゥス。
「ゲッ! あれは暗黒のドラゴンじゃないか。大変だ。世界が破壊されてしまう。なんでこんなことになったんだ」
「ダンカンが召喚しちゃったんだよ。とにかくあのドラゴンをあんたなら倒せるか」
「ほんの少ししか休んでいなかったから、自信がないなあ。短い期間に何度か起こされて本調子じゃないんだよ。おいらだけじゃ、やばいかもしれん。何かドラゴンを倒すいい方法はないかな」
腕を組んで考え込んでいるシルルス・アストゥス。
そこへ、
「どうやらお困りのようだな」といつの間にか中庭に入ってきた宿屋の主人が話しかけてきた。
「主人、大丈夫なのか。さっき倒れていたけど」と俺が声をかけるが、目つきがいつもの爺さんのものではない。
まさか、こいつは。
「あんた宿屋の主人じゃないな」
「そう、反逆の大魔王と呼ばれているものだ」
それを聞いて焦るシルルス・アストゥス。
「おい、反逆の大魔王。今、お前と戦っている場合じゃないぞ」
「わかっている。あのドラゴンは世界を滅ぼしてしまう。世界の平和を乱すものは私の敵だ。本来なら千年は寝ているつもりだったが、ドラゴン復活を察知して瞬間移動してきた。この宿屋の爺さんが倒れていたので今はその体を借りている」
「あのドラゴンを倒すのに協力してくれるのか」
「まあ、仕方がないな。ここは休戦とするか。私もまだ調子いいとは言えないが、協力してやろう」
がっちりと握手するシルルス・アストゥスと反逆の大魔王。
最強のモンスターを前にライバル同士が共闘する熱い展開なのだが、しかし、外見は大きなヘンテコなナマズとしょぼくれた爺さんなんであまり見栄えはよくないな。
「行くぞ!」の掛け声とともにシルルス・アストゥスと爺さんがものすごい速さで空高く飛んでいく。
なんだか信じられない光景だ。
一方、暗黒のドラゴンの方だが、どうも行動がおかしい。
ダンカンがドラゴンの首のあたりに座っているのだが、うまく操れないみたいだ。
そこら中にでっかい炎を吐いているだけ。
シルルス・アストゥスと爺さんが口から炎を出すドラゴンの周りをもの凄い速さでぐるぐる回っては、ドラゴンを翻弄。
シルルス・アストゥスがドラゴンの顔面に百連発くらい拳を叩き込み、反逆の大魔王も飛び蹴りしたりと攻撃している。
ただ、ドラゴンとの体格差が大きすぎる。
一進一退の攻防って感じ。
それにしても、巨大なドラゴンと戦っているのが、空飛ぶ爺さんとナマズ。
なんだかシュールな光景だ。
ダンカンがドラゴンから振り落とされそうになっているのが見えた。
「さっさと落ちろ、役立たず」とスカーレットが罵倒。
その時、突然、シルルス・アストゥスが中庭に降りてきた。
「おい、あのドラゴンの弱点がわかったぞ」
「え、本当か」
「真ん中の目に稲妻を当てるんだ。反逆の大魔王が宿屋の爺さんの記憶を探ってわかったんだ」
あれ、それ千年前のいい加減な小説の話じゃないかな。
俺は心配になったが、シルルス・アストゥスたちもドラゴン相手に苦戦中らしい。
もうなりふり構わず攻撃するようだ。
「おい、暴力娘! お前の稲妻魔法でドラゴンを攻撃するぞ」
「いやよ、ドラゴンと戦ったら新品の高級ローブが汚れちゃう」
「お前、この状況がわかってるのかよ」
怒り出すシルルス・アストゥスをおさえて、俺はスカーレットにささやいた。
「ドラゴンを倒したら、お前、一躍英雄になれるぞ」
「あ、それいい、千年語られる勇者」
すぐにノリノリになるスカーレット。
スカーレットはシルルス・アストゥスに引っ張られて遥か上空へ飛んだ。
暗黒のドラゴンの正面に浮かんでいる。
稲妻が走ったのが見えた。
スカーレットが稲妻魔法アゴラフォビックノーズブリードを発動したようだ。
ドラゴンの顔面に見事命中。
ダンカンがドラゴンの背中から転げ落ちるのが見えた。
ドラゴンが墜落していく。
俺の真上だ。
逃げようがない。
思わず死を覚悟して目をつぶったとき、すごい地響きがした。
間一髪、宿屋からはずれてドラゴンは隣の田んぼに落っこちた。
「助かった」とへたり込んでいる俺の前に、爺さんの体を乗っ取った反逆の大魔王とスカーレットを抱えたシルルス・アストゥスが中庭に降りてきた。
「キャッホー! ドラゴンを倒したわ。あたしはすごい! あたしは勇者! あたしは英雄!」と中庭をはしゃぎまわって踊りまくるスカーレット。
爺さんと言うか反逆の大魔王だが、すっかり疲れているようだ。
「さすがにドラゴンを相手にするのは私でも大変だった。今日のところはこれで終わりとしよう。シルルス・アストゥスよ、千年後に会おう。それまで元気でいろよ」
そう言うと爺さんがパタンと倒れる。
反逆の大魔王はまた魂だけになってどこかへ消えていったようだ。
シルルス・アストゥスも疲労困憊の様子。
「そう言えば、ダンカンはどうなったんだ。稲妻魔法の光がまぶしくて、おいらには見えなかった」
「俺も目をつぶってしまったんでわからないけど、あんな上空から落ちたら助からないと思う」
「そうか、かわいそうに。なんでダンカンがこんなことを起こしたのかと思ったが、あんまり聞きたくないな。どうせあの暴力娘が原因だろ」
そう言って、中庭をはしゃいで踊りまくっているスカーレットを嫌な顔で見るシルルス・アストゥス。
「まあ、はっきり言ってスカーレットが原因だよ」
「そうだと思ったよ。詳しく聞くと気分が悪くなりそうだ。今は知りたくないな。文書にでも残しておいてくれよ。次に起きた時に読むからさ。さて、おいらも全力を出し切った。疲れたよ。今回を最後に熟睡することにした。じゃあ、千年後に。おっと、お前はその頃いないんだな。残念だ、これでお別れか。ちょっと寂しいな。あの暴力娘とは二度と会いたくないけどな」
妹は相当シルルス・アストゥスに嫌われてしまったらしい。
だいたい、我が妹に親しみをもっている人はいるのだろうか。
台座に横になるシルルス・アストゥスに聞かれた。
「そうだ、スカーレットを医者に連れて行ったか」
「いや、まだなんだ」
医者をボコボコにしたことなんて聞きたくないだろうからごまかした。
「大事にならないうちに連れて行った方がいいぞ」
そう言って、シルルス・アストゥスは目をつぶった。
もう大事になってしまったんだけど。




