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最終話。百分の二のぼくと、百分の一の彼女と、百分の二の彼女。 後編

「そりゃ華も見つめるわけだよね、あたしよりも早くから」

 なにかに納得した声色で、そう言う里亜さん。

「え?」

 またも予想外のことを言われて、思わずキッカちゃんを見た。

 

「あ、え、えーっと。密かに、ちょこっと……ね」

 

 カーっとリンゴみたいに真っ赤になって、はにかんだキッカちゃんを見て、

「そう……だったんだ」

 喜ばしいぼくは、口元のにやけを止められない。

 

 恥ずかしいのか、両手で両ほっぺを抑えてると言う、イケメン度0かわいさ百万倍なしぐさをしてることもニヤけさせられてる原因なんだけど。

 

 反則でしょ、この人。

 

 

「やれやれ。どう頑張ってもあたしはお邪魔虫か」

 里亜さんは、困ったような諦めたような。参りましたとでも言いたげな表情で、そう残念そうに言った。

「でもまあ。結果オーライかな、こうしてお近づきになれたんだし」

 残念そうに言った直後に、このひとことである。しかも、問題なしとでも言うような明るい表情。

 

「ポジティブだなぁ」

 感心する以外になかった。フフっと勝ち誇ったような顔で一つ笑った里亜さん、タフな人だなぁ。

 

「ねえ、唐木田君」

「なに? 改まって?」

 うん、と軽く返事してからたっぷりと二秒ほど間を取ってから、里亜さんがこう言った。

 

 

「華に飽きたらあたしに乗り換えてもいいよ」

 よ、と同時にパチンと右目のウィンクのおまけつきだ。

 

 

「「えっ?」」

 飛び出した爆弾発言に驚くぼくたちに、「なんてね」っといたずらっこな笑み一つ。

 

「まだ早いよね、お友達から、なんだし」

 こう言って自分の言葉に頷く里亜さんだけど、ぼくに向いてる彼女の視線が、なんとも熱を帯びて感じる。

 

 威圧のような圧力と熱を持ってるのに、だけど実際は柔らかい。表現するならこんな視線だ。

 

 こんな想いのこもった目、生まれて初めて見たし、こんな視線は生まれて初めて向けられた。

 

 たぶん、乗り換えてもいいよって言う言葉。本気だった。嘘や冗談で、あんな熱っぽい目なんて、できないだろうから。

 

 

「ってことで、改めて。ね、華」

 里亜さんの目から今さっきの熱さが、それはもう、気のせいだったのかと思うほどにスーっと消え去って、なんの威力もない普通の目になった。

 

「あ、うん。そうだね里亜」

 里亜さんの熱さに圧倒されてるぼくを尻目に仲良さげに頷き合う二人。すると二人とも、ぼくに手を差し出して、

 

 

「「これから、よろしくおねがいします。唐木田康樹君」」

 そう言ってペコリと、二人同時にお辞儀した。この阿吽感、もしかして……二人って幼馴染なんだろうか?

 

 

「……はい。ふつつかものですが」

 って言って二人の手をとるため、緊張しながら両手を前に出すぼく。なんだか自分の言葉のチョイスに若干の違和感があるけど、いいよね 別に。

 

 あんまり手出すのゆっくりだと、気持ち悪く思われるよね。なら、キモがられないように普通を装わないと。

 

 今のまんまじゃ遅いな。だったら、気持ち早くすればいい……のかな?

 

 

「あ」

 勢いがつきすぎて、指の間に指を差し込まなきゃいけないのに指同志が軽くぶつかっちゃって、思わず声が出た。

 

 二人が笑ってる……けど、苦笑いでも見下したんでもなくて。慈愛に満ちた、優しくもかわいらしい微笑みだ。

 

 言葉が出なくって、顔が熱持ったのを感じる。どうしたらいいんだよっぼくはっ?

 

 と、思ってる間に里亜さんの右手がぼくの左手を。そしてキッカちゃんの左手がぼくの右手を取った。

 

 

 うわぁ、二人とも柔らかい手だなぁ。棚橋君のおっきくて硬い手に慣れてると、この柔らかさと小ささに力加減がわからなくなりそうになる。

 

 って言うかっ、うわわっ! 女子二人の手を片手ずつ握るだなんてっ! なんだこのシチュエーションはっ!?

 

 手を掴んだ後から緊張がおっかけてきたっ! 勢いって怖いっ!

 二人は、そんなぼくをきょとーんと眺めている。

 

 

 ーーあれ、なんか……間違った? 手は普通に握れてるし、力加減は二人が痛がってないから大丈夫。

 なんだ? いったいどこにきょとんとされたんだ?

 

 と思った矢先。

 

 

「フフ。ねえ、聞いた華?」

「うん、フフフ。唐木田君、それ」

 なにやら二人が見かわして笑い始めた。やっぱり、なんかしくじったんだぼく。

 

「「結婚式だよ」」

 二人に突っ込まれたっ。

 

「え、結婚式?!」

 想いも書けない言葉にびっくりして、シュバっと握っていた二人の手から、我ながら驚く速度で手を離した。

 

 ーーそうかっ! 言葉のチョイスの違和感はそこだったのかっ! 気付いてしまって、顔が恥ずかしくて熱を持ってるのがわかる。

 

 

「すんごい緊張してたもんね、あたしたちの手握るの」

 笑い収まらないまんま、里亜さんが聞いて来た。

「……それは、手を握ってからで。なんか、言葉が変だなぁ、とは」

 声がうまく出なくて、なんか夏に怖い話するあの人みたいな、ちょっと不気味な言い回しになっちゃったっ。

 

「唐木田君、そういうところ、かわいい」

 同じく、笑いの収まらないままでキッカちゃんが。

 それに「うんうん。このかっこ かわいいのギャップがいいんだよねぇ」と、まるでアイドルの好きな点を語るかのように里亜さんが答えている。

 

「やめてくださいおねがいしますから! ぼくそんなアイドル扱いされるようなキャラじゃないですからああああっっ!!」

 悲痛なぼくの叫びが、五月の爽やかな青空に響き渡るのだった。

 

 

 ーーでもまあ、いいか。こんなかわいくて楽しい美少女と、いっきに二人も仲良くなれたんだから、

 いじられるくらいのことはスルーしよう。

 

 自分で言ったとおり。今は友達で充分だ。十二分だ。だって。

 

 

 ーーいきなり親密だなんて、緊張しすぎて死にそうだからね。

 

 ほんと、結果オーライだ。

 

 

 

 

 

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