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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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初めての武具

「いらっしゃーい。おにいちゃん、うちでは初めての顔やねぇ」

 カウンターから小学校高学年ぐらいの年頃の少女が特徴的な可愛らしい声で元気よく話しかけてくる。

「はっはーん。その格好見れば言わんでもわかるで。おにいちゃん、冒険者登録したてホヤホヤの新人さんやろ」

 親指と人差し指を立ててキメ顔をする少女。

「当たり。実はそうなんだ。戦士用の装備を揃えたいんだけど、いいかな?」

 店主は奥にいるのだろうかとカウンターの奥を窺いつつ、僕は店番を任されたであろう少女に尋ねた。

「よっしゃ、ならこのアカリさんにまかしときー。バッチリ見繕ったろ」

 アカリと名乗った少女が頼もしげにドン、とその小さな胸を叩いた。

 その拍子に少女の着ていた白いワンピースの肩紐がズレて大事な部分が露わになり、照れ笑いをしながら元に戻した。

 色んな意味でこんな小さな子に任せて大丈夫なのだろうかと若干不安になる僕。

「その手に持った財布の中身、訓練所からおにいちゃんに支給されたのは100Gってとこか? どや、図星やろ。そしたらまず戦士には剣と鎧は必要不可欠や。剣は安くて丈夫で安心な、この堀田印の剣で決まりやね。鎧はこちらも同じくそんじょそこらのモンスターの攻撃じゃビクともしない革鎧! このふたつがセットで今ならたったの20Gです」

「おおー。何だか分からないけどスゴイよアカリちゃん!」

 僕が素直に感心すると

「ふっふーん。驚くのはまだまだこれからやで」

と、得意気にアカリが笑う。

「おにいちゃんはモンスターとの戦闘でいったーい傷を負ったらどうするん?」

「そりゃやっぱり回復しないとだね」

 アカリの質問に僕は自信を持って答える。

「ぴんぽーん、大正解や。そこでこの傷薬の出番となるわけやね。これお値段ひとつたったの5Gです」

「へー、意外と安いね。さっきの剣と革鎧と一緒に揃えても余裕で買える値段だ」

 僕の言葉にアカリが我が意を得たりとばかりにニコッと微笑む。

「あとな、迷宮の中は思ったよりも薄暗いんやで。それを助けてくれるのが、この堀田印のたいまつ。お値段ひとつ20Gです」

「うーん、たいまつね。剣と革鎧のセットと同額だなんてちょっと高いような気がするけど」

「せやろ? 実際そう思ってたいまつをケチって買わなかったばっかりに、迷宮で暗がりからモンスターの奇襲を受けて命を落とす冒険者が実に多いんや」

 僕の言葉を受け、しょんぼりとその小さな肩を落として悲しそうな顔をするアカリ。

「ウチはそんなことでおにいちゃんに死んで欲しくないなぁ……無事に生きて帰ってこの店のお得意様になって欲しいんよ、グスン」

 アカリは足元にうずくまると両手で顔を覆い、しくしくと泣き出す。

 急に泣き出した少女を前に僕がどうしようかとあたふたしていると

「だ・か・ら!」

と、アカリは突然勢いよく立ち上がり小さな指を僕の目の前に突きつけてきた。

「剣と革鎧に、傷薬を5個、たいまつを5個付けたこのセット。通常ならお値段合計145Gのところを初めてのおにいちゃんだけに特別サービス、なんと100Gでのご提供です。さぁさぁ、持ってけドロボー!」

「おおっ安い。よし、買った!」

 勢いにまかせて手にした財布からお金をバン、とカウンターに出す僕。

「え、あれっ?」 

 だが何度数えても60Gしかなかった。

 今日までの宿代やら食事代やらで何気に色々使っていたのをすっかり忘れていたのだ。

「ウソやろおにいちゃん……フツー冒険者なら給付金もろて真っ先にウチに装備揃えに来るのに、迷宮潜る前から100Gも持ってないて……」

 呆れなのか同情なのか、アカリがそのハシバミ色のつぶらな瞳で僕をジッと見つめる。

「ちょ、ちょっと待っててね。すぐ戻るから」

 僕は猛ダッシュで<バタフライナイト>へ戻るとアンナに頭を下げて40Gほど借りて来た。

「はぁはぁ、はい100Gね」

 息を切らせつつ手渡したお金をアカリはしっかり数えると、ニッコリ笑ってポッケにしまい商品を包んでくれた。

「毎度ぉーきっとよくおにあいですよ。ええっと、おにいちゃんのお名前は?」

「僕の名前はアキラ。君はアカリちゃんだったよね、またね」

「また来てやー。アキラおにいちゃーん」

 アカリがぶんぶんと最後まで手を振って僕を見送る。

 あんな小さな子がしっかりこの街で一人前の店員として働いてる姿に感心しつつ、装備をゲットしてウキウキと僕は『堀田商店』を後にした。

「いやー、いい買い物したな。所持金足らなかったのはちょっと焦ったけど、無事アンナに借りることができたし。なんだか僕にもツキが回ってきたのかも」


「ただいま。今度こそ『堀田商店』で冒険に必要な装備を揃えてきたよ」

<バタフライナイト>へと戻った僕はさっそく自慢気に買って来た装備をアンナとヤンの二人に披露する。

 堀田印の剣はしっくりと僕の手に馴染んでいた。

 訓練学校時代に使っていた刃引きされた練習用の剣と違いやはり本物はいい。

 革鎧の方は僕には若干サイズが大きめな感じもしたが、その分大きく体をモンスターの攻撃からカバーしてくれるだろうと前向きに捉えることにした。

「この剣と革鎧を見てくれ。どう思う?」

「おお、すごく似合ってるアルよ」

 丸眼鏡を光らせまじまじと装備を眺めるヤンの言葉に鼻高々の僕だったが、山盛りの他の品を見たアンナが予想外の声を上げる。

「アラ、傷薬なんて買ったのね。もう心配性ねぇアキラは。ちょっと、たいまつなんかをこんなにたくさん買ってどうするのヨ? 灯りならヤンが僧侶呪文を一度唱えるだけでいいし、第一そんなもの前衛が手に持っていたら戦闘中邪魔でしょうがないわヨ」

「ええっ、そうなのヤン?」

 先ほど装備を褒めてくれたヤンに助け舟を求める。

「傷薬はもしもの場合にヤンさんの呪文節約にもなるからまだいいけど、アンナの言う通りたいまつは本当にいらないよ。こりゃ新米冒険者だと舐められてぼったくられたアルね」

 思いもかけずアンナとヤンに揃ってダメ出しをされた。

「ぼったくられたなんてとんでもない。店番のいたいけな少女が僕の身を心配してわざわざ揃えてくれたんだ。いわばこれはその気配りへのお駄賃さ」

 二人のダメ出しにもめげず、僕はひとつ大人の貫禄を見せておこうと目を閉じて腕を組み頷く。

「ぷっ。いたいけな少女って、もしかしてアカリさんのコト? あの人、ホビット族だからああ見えてもう26歳ヨ」

「にっ、26だって? 僕より8つも年上なのか!?」

 盛大にズッコケる僕を見て大笑いする二人。

 ホビットという種族は成人しても人間の子供と見分けが付かないと聞いてはいたが、まんまと騙されてしまった。

「アキラってホント面白いわネ。ずっと一緒にいても飽きない気がするわヨ」

「ウシャシャシャ、ヤンさんもそれに同意アルね」

 頭を抱える僕を前に<バタフライナイト>には二人の笑い声がいつまでも響いた。

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