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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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一ノ太刀

 ジェラルドが<うるわしの酔夢亭>に残したパーティ募集の話を聞いて教会を訪れたその男は、顔まで全身毛むくじゃらのムーク族の侍だった。

 まずは互いに簡単な自己紹介をするジェラルドたち。

「ワガハイは"正義の侍"ムクシでーす」

「ムクス?」

「ムクシでーす」

「ムックス?」

「ムクシでーす」

「失礼。どうも私たちには、その名前は発音しにくくて」

 しばしのやりとりの後、バツが悪そうに頭へと手をやるジェラルド。

「むふふ、分かりますぞ。ワガハイが妹のように可愛がっていた女子にも、そう言われて別の名前で呼ばれておりましたからな。では、ワガハイのことは『ムック』とお呼びくださーい」

 『妹』という言葉にほんのわずか、ピクリと眉をひそめたジェラルドだったがすぐに笑顔に戻る。

「ムックか。なるほど、確かにこの方が呼びやすいな。ではそうさせてもらおう。ところでムックのレベルはいくつなんだ?」

 ムクシが自信満々に答える。

「レベルは1でーす」

「い、1か……」

 見た感じでは熟練の侍に見えたのだが、ムクシの予想外の返答にジェラルドはいささか意表を突かれた。

 とはいえ、上級職である侍ならばパーティレベリングでさほど時間をかけず実戦でもモノになるだろうし、これ以上最後の前衛一人を探すのに手間取って、迷宮探索が遅れるのもジェラルドとしては嫌だった。

 それに、ムクシが自己紹介で名乗った"正義の侍"というフレーズを、内心ジェラルドは大層気に入っていた。

 何よりも善を尊ぶジェラルドにとって、正義というフレーズはとても心地が良く、好印象だ。

「後衛としては一度ムックの腕前がどれほどか見てみたいんだが、いいかな?」

 片手を上げてトニーノがムックに尋ねる。

「よろしいですぞ。むふふ、そうですな。では、あの木を試し斬りしてもよいですかな?」

 そう言ってムクシが指差したのは、教会の庭に隆々とそびえ立つ、幹の太い大木だった。

 その丸々とした大木ならば、多少剣で斬りつけたところでビクしもしないだろう。

「ああ、構わないよ」

 ジェラルドが答えた。

 一体ムクシは幹にどのような太刀筋を残すのかと興味津々のジェラルドたち。

 ムクシは大木の前に立つと、静かに腰の名刀マンプクマルを抜いて構える。

「では、<一ノ太刀>いざ参るのでーす」

 間延びした声とともに振るわれた、ムクシの刀によるたった一振り。

 それだけで大木は綺麗に切断されると、ズシーンと派手な音を立てて倒れた。

 まさか切り倒してしまうとは思っていなかっただけに、唖然として声の出ない面々。

「<一ノ太刀>だって? それはもしかして、あのコジローが使っていた技じゃないか?」

 束の間の沈黙の後、ようやくジェラルドが驚きの声を上げる。

「むふふ、コジロー殿はワガハイの兄弟子なのでーす。2年の間ですが一緒に剣を学んだ仲なのですぞ」

 ムクシが誇らしげにその象牙色をした全身の毛を振るわせて胸を張った。

「コジローが兄弟子……ということはムックは國原館の門下生なのですね」

 ヴェロニカはそう言って深く頷く。

「ヴェロニカ、何だいその國原館って?」

 トニーノが不思議そうな顔をして尋ねた。

「世界三大冒険者コジローの師匠である人間国宝、國原中弥斎がこの街で開いている有名な剣術道場です。侍を育てる世界最高の環境だとわたくしは聞いています」

 ヴェロニカの言葉に思わず目を丸くして感心するトニーノ。

「道理でレベル1にも関わらずこんな芸当が出来るわけか。しかし、いやはやこれは……」

 トニーノの言うように、それはとても常人に真似できる芸当ではなかった。

「どうかなトニーノ。後衛から見てムックの腕前は?」

 ジェラルドがトニーノの肩を叩く。

「勿論文句なしさ。ムックが前衛にいたら安心して呪文詠唱に集中できるよ。ジェラルド、君が前衛の時よりもね」

「言ったなこいつ」

 トニーノの冗談に軽く拳を突き出して返したジェラルドは、ムクシへと向き直るとその右手を差し出した。

「改めて、是非うちのパーティに加わってくれないかなムック」

「ワガハイも喜んで加入しますぞ。今後ともよろしくなのでーす」

 毛むくじゃらのムクシの手がジェラルドの手を力強く握り返す。

 こうしてムクシは、同輩であるヒョウマよりも一足先にパーティを組んだ。

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