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悪の組織の幹部に粘着されています、公私ともに!〜敵幹部からの溺愛なんて不要なので倒されて下さい!〜  作者: 今谷香菜


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最終話、侵略戦争✖️ラブ・ゲーム

⚠️本日2話目の更新です

・本編最終話

 ***


 パープルの心からの良い笑顔を見て、瓶の中のギベオンは絶望した面持ちになる。瓶詰めにされてからこっち、彼はそんな表情しか浮かべていないのだろうが。


 ガラス越しににっこにこしているパープルを一瞥し、ギベオンは「はあぁぁぁ〜」と長いため息を吐く。


「おまえたち……」


 そうして鎮痛な面持ちのまま、エメとアメに向けてそっと声をかけた。


「こんな事になってしまった故、余は弟であるサファイアへ譲位する事とする。……恐らくこれが余が余である最後の言葉であろう。……よくよく励めよ」


 エメとアメは姿勢を正し、「承知致しました」と深く礼を取る。


 ——こ、『こんな事になってしまった』が、『こんな事』過ぎる……まさか過ぎる展開だよね。


 グリーンはチラリと顔見知り2人の敵を盗み見る。表情から何の感情も伺えない。

 そしてギベオンは「次に……」と言葉を重ねる。


「次に余に会う時は、お前たちの知っている余ではないだろう……。相対したならば、躊躇わず斬ってくれ……ッ!」


「っ、陛下!!」


 ぐっと悔しさを堪えるように顔を背けたのはアメの方だ。エメは胸に手を置き、「委細承知致しました」と述べるに留めた。


 ——こ、これ自分が敵の手に落ちて洗脳される未来が見えた時に味方に残すベタな言葉(やつ)!!


 グリーンは「現実に起こるものなんだな」と少し感心してしまった。


 横ではパープルが瓶をふりふりと振りながら「別れの挨拶は済んだかしら?」と。


 パープルは、はぁんっ!と鼻で笑いながら、


「かつての仲間同士で戦い合う気分が知りたいのなら、じきに教えてあげるわよ」


「「「………」」」


「きっとそれはとてつもなく甘美な味なのでしょうねぇ?たぁっぷり味わわせてあげるから、せいぜい覚悟するがいいわ!!」


「「「………」」」



 そうして彼女は「オーッホッホッホ!!」と高笑いを上げた。


 ——お、叔母さぁぁん!!!


 もはやどっちが悪の組織か分からないセリフだ。


 というよりも。グリーンにはパープルが悪の組織の女幹部にしか見えなくなってしまった。ハマり役過ぎる。


 場は混沌を極めていた。


 ……のだが。


「オーッホッホッホ……ッ、ホ……?」


 突然、パープルの笑い声が途切れた。


「……あ、あら?」


 ぐらり。その身体が、大きくゆっくり傾く。


「パ、パープル?」


 グリーンが声を上げた次の瞬間。


 ぱたん、と。


 パープルはその場に倒れ伏しそうになったところを、すんでのところでレッドが彼女の身体を支えた。


「「「!?」」」


 一同が目を見開く。


「ちょ、パープル、大丈夫!?」


 慌てて駆け寄るグリーン。

 その身体を支えるように、レッドはパープルを横抱きに抱え直す。


「無理もない。あの大捕物の後だ。力を使い果たしていらっしゃるのだろう」


 パープルはぐったりと目を閉じていた。倒れたというのに封印瓶はしっかり腕に抱き締めたままだった。


 まるで寝る時にまでぬいぐるみを離さない子供のようだ。


 レッドがやれやれと苦笑いしながら、パープルの乱れた前髪を顔から払いのけた。その手つきは思いの外優しいものだった。


 グリーンは、パープルの手元の瓶を覗き込みながら、それにしても……と思う。


「竜って……こんなにきれいなんだね」


 ぽつん、と言葉が降る。


「白銀色でキラキラ。まるで月みたい」

「……」


 ——清浄な月。

 誰にも汚されることがない、自分だけは正しいって思って光り輝いている。そんな、傲慢できれいな月。


 パープルはこの月を地上に堕として、閉じ込めて、縛り付けたのだ。


 ——なんだろう、何だかすごく……ドキドキする。


 敵の親玉がこちらの手に堕ちたのだ。その事実に興奮しているのだろうか?


 この高揚感はどこから来るのか。グリーンはギュッと胸を押さえた。


 こんなにキレイで小さくて可愛くて。それでいて強くて誇り高い……そんな生き物を間近で見た所為なのか。


 瓶の中のギベオンは、グリーンと目が合ったまま固まっていたが、やがて少し……ほんの少しだけ竜王(元)としての尊厳が取り戻せたのか、「ま、まぁな?」と胸を張る。


「余は竜王でもあった男だからな?美しく強いのはま、まぁ当たり前のことだろうな?ふふん。なんだ小娘、なかなか見る目があるではないか」


「そうなんだ。そっかぁ、王様だからこんなにきれいなんだね?」


 グリーンがぽやぽやと邪気の無い笑顔で頷いていると、エメが「グリーン?」と彼女の肩に手をそっと置きながら、微笑みかけた。


 自身の胸に手を添えながら、


「私も竜型になればそれなりに美しいと自負しておりますが?」


「そうなんだ?」


「ええ」


 グリーンは、ギベオンの鱗よりもキラキラした目で瓶とエメの交互に視線を送る。「そっか。そうなんだぁ……」と独り言を呟きながら、


「欲しいなぁ……」

「……ん?」


 エメが笑みを貼り付けたまま聞き返す。

 聞き間違いではなかろうか。


「欲しい……とおっしゃる?」

「うん」

「……私を??」


 グリーンは少しはにかみながら、もじもじと身体を身じろぎさせる。


「う。改めて言われると何だか照れちゃうかも……」


 それでも。

 グリーンは、こくんと力強く頷いた。


「……ッ!グリーン、それでは、」

「〜〜私もッ!」


 グリーンは叫んだ。拳をギュッと握りしめて。



「ドラゴンタイプのポケ●ン……ッ!すっっごく、欲しい!!」


「……え」


 グリーンがエメを見つめる瞳は、大きなカブトムシに興奮する子どもそのものであった。


 そんな静かな狂気を孕んだ、夏の小学生男児の瞳を目の前に、エメは「っ!」と悲鳴を呑み込む。


「まさか私をポケ●ンにして飼いたいと?そういう意味では狙わないでください」


「ちゃんとお世話するよ?」


「いりません不要です。自分の世話くらい自分でできます」


 そうして青ざめながら、己の身体を庇うように両腕を抱え込み、グリーンから距離を取った。


 まるでさざ波のように引いていくエメの様子に、グリーンは「フラれちゃった」としょんぼりする。


「一瞬でも色っぽい返事を期待してしまった私が愚かでした……」


「……エメ様、さっそく10くらいにIQ下がってません?」


 まるで「酷い目にあった」と言いたげにこちら側に戻ってきたエメに、アメはひしひしと危機感を募らせる。


 以前はそこそこ優秀だったはずなのに。

 著しいIQ低下傾向の甥の様子を、間近で見ていたギベオンも色々と察した。「おまえも……難儀であるな」と同情の視線を送る。


 その生暖かい視線に、エメは心底嫌そうな顔を作りながら、


「瓶詰めの御方のほうが色々と難儀でしょう」


「しかしだな。余は紫子とは結果、相愛であったわけだしな……お互いの立場が難しかった故に普通の形では結ばれなかっただけで」


 ギベオンは長い尻尾をハートの形にしながら、瓶の中をクルクル飛び回る。


「余はつまり、紫子にめちゃめちゃ愛されておったというわけだ。ポケ●ンにして手元に置いておきたかったのだろう?そう考えると紫子のやつめ、まこと愛(う)い」


「……」


「愛しているからポケ●ンにしたいのと、ポケ●ンが欲しいからポケ●ンにしたいのとでは。はて、天と地ほどの差があるように感じるな……?」


「気のせいかのぅ?余だけかのぅ?」と。

 キョト……?とカマトトぶるように小首を傾げるミニリュウに、エメは笑顔のままビシンと青筋を立てた。


「……もう既にだいぶ頭がやられていらっしゃるようですね。今すぐ叩き斬って差し上げましょうか?」


 そんなエメに、アメは「まあまあ」とエメの背中を押しながら物理的に瓶と距離を取らせる。


 エメはふんと鼻を鳴らしながら、捨て台詞を吐くかのように。


「私も彼女に『好きだからポケ●ンになって欲しい』と言わせてみせますから」


 そんな宣言をするエメにアメは間髪入れずに、「エメ様?」と。


「もはやあなた様は我が国の王太子ですよ?あなた様まで敵のポケ●ンになってしまったら非常に困るんですが?」


「なるはずがありません。ただ彼女の、私が欲しいという動機づけを変えたいというだけの話です」


 グリーンは、ギベオンの言を聞いてふとパープルの顔を覗き込んだ。



 ——愛して、愛して。

 だからこそ、憎んで。

 それでも殺せなくて。


 だからパープルはギベオンを封印したのだ。

 この国の守護竜神にするために。


 ——彼と、自分自身を赦すために。


 眉間には皺を寄せたまま、それでも穏やかな寝息を立てるパープル。


「紫子……」とパープルを心配そうに見つめ、瓶越しに彼女に寄り添う姿をみせるギベオン。互いを隔てる透明な壁さえもどかしいと言っている表情だ。


 そんな2人を見て、グリーンは何故だか泣きたくなる気持ちにさせられた。


 ——『こんな事になってしまった』って言っていたけれど。


 グリーンは泣きたいのにちょっと可笑しくて。ふっと愛おしくなって。思わず吐息を漏らすように笑ってしまった。


「グリーン?」


 ピンクが首を傾げる。


「最初の悲壮感はいつの間にかどっか行っちゃって、なんかもう既に、そこそこ2人とも幸せそうじゃない?」


「あぁ、まぁ……」


 ピンクは、瓶詰ドラゴンとそれを抱えながら気絶するパープルを見て少しだけ遠い目をしている。


「俺だったら……」

「ん?」


 ポツリと独白をするピンク。

 完全に女役の演技を忘れて素で喋ってしまっている。


 もしかしたら誰かに聞かせる為というよりは、自身の気持ちの整理として喋っているのかもしれない。


「好きな相手をあんな風に追い詰めさせるようなこと、しないのにな……」


「ピンク……」


「もっとふつーに、大事にするんだけどな……」


 ぽつりぽつりと降り初めの雨のような独白に。

 グリーンは「そうだよね」と同意する。


「私もね、今回のことでよく分かったよ」


「……ん?」


「ポケ●ンが欲しいなら……自分が欲しがるだけじゃダメなんだって」


「は?ポケモ……??」


「ちゃんとポケ●ン側(サイド)にも、私に捕まえられたい!って思わせないとって……」


 グリーンはエメを見つめた。

 その瞳には、妙な熱が孕んでいるのを、ピンクは確かに感じ取った。


「相手に『あなたのポケ●ンにならせて下さい!』って言わせるまでに、完っ全完璧に相手の心を侵略しないとってことだよね!」


「ちっが———う!!!」


「そうと決まれば!」


 新たな決意表明を胸に、グリーンは駆け出した。


「私早速ホムセンでカブトムシの飼育キット買ってくる!」


「待て待て待て!何でそうなる??!!」


 ピンクも慌ててそのあとを追う。


「いつでも捕獲して飼えるように、だよ!環境を整えてあげるのも、飼い主(トレーナー)の務めだから!」


 グリーンは何事もまずは形から入る性質(タチ)である。

 まだ痩せてもいないのに、痩せた後に着る服を先に買うように。



「必ず、捕獲(ゲット)してやるんだから!」



 グリーンは己の決意を分かりやすく、飼育キットという形にしたのだった。




 ****



「この侵略戦争(ラブ・ゲーム)、絶対、勝たなくちゃ!」


 グリーンはこぶしをギュッと握りしめ、ひたすら前を向いて走る。興奮で胸がドキドキと高鳴りっぱなしだ。その足取りは、どこまでも力強い。


「そうしたら……」



 ——国も守れて、ポケ●ンもゲットできる!




 ****



「この侵略戦争(ラブ・ゲーム)、絶対、勝たなければ……」


 一方で。エメもまた別の意味で悲壮な覚悟を固めていた。

 頬を引きつらせ、若干血の気の引いた顔で、グリーンの小さくなっていく背中を見送る。


「そうしないと……」



 ——国も守れず、ポケ●ンにされてしまう!







「「ぜっったい、先に相手を侵略しなければ!!」」






ご愛読頂きありがとうございました!


2人の侵略をかけた、相手を惚れさせたもん勝ち!なラブガチンコバトルは続きます……かね?


後日談をおまけssとして投下するか検討中ですが、本編は一旦完結です!



・ブクマ&ご評価頂いた方、本当にありがとうございました。大変励みになりました。


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