#1
自分を取り巻く環境が一変するのはいつも突然だ。
親切に予告してくれたらどんなに生きやすいか。しかしどれだけ進んだ情報社会でも、明日の運不運は教えてくれない。近くで殺人事件や交通事故が起きても、安全なルートや時間帯は推測できない。
不確定で不安定な街。その皮が徐々に剥け始める。
政府はとうとう廃人を一掃する処置をとった。犯罪率を下げる為……というのは建て前で、理想郷のイメージ確保の為だろう。インターネットは以前に増して制限され、安全で退屈な情報しか手に入らなくなった。それにより、確かに廃人の数は減った。神様の家にアクセスしようとする者が減ったからだ。
これで平和になる。誰もが笑顔で、夜も安心して街を歩ける……。
そんなのはまやかしだ。実際は何も良くなってなどない。臭いものに蓋の原理で、危険因子を徹底的に排除しているだけのこと。法的機関の強制措置に一般の市民すらどこか怯えて見えた。
ある日、以前会った稔の元同僚から電話がきた。廃人と化した稔が身柄を拘束され、収監されたと告げられた。
考えるよりも先に収容所へ向かった。だけど面会は不可の一点張り。家族には連絡するのか、今後の対応はどうなるのか、必死に尋ねたもののまともな回答は返ってこなかった。
それでも食い下がらずにいると、制服を着た複数の男達に別室に連れて行かれた。
机と椅子しかない薄暗い部屋。机の上にはパソコンが一台あり、何故か俺の方にモニターが向いていた。
男達はこれ以上干渉しないよう忠告して、それから青白いモニターに映っている白い家を見つめるように指示してきた。何の変哲もない映像。何でこんなものを見せるのか全く理解できなかったが、拘束は三時間近く続いた。疲労が勝ってたまに目を逸らしてしまうと、無理やり机に押し付けられる。尋問された経験がぬいから分からない。ただ、自分の感覚的には拷問だった。
「そろそろ良いだろ」
誰かの合図を機に部屋が明るくなった。反対にパソコンの画面は暗くなる。よく分からないが、やっと終わった。……その安心感から項垂れた。
「もう余計なことに首を突っ込むなよ、坊や」
部屋から連れ出され、門の外に突き飛ばされる。それからここで起きたことを覚えているか?と尋ねられた。考えるより先に覚えてないと答えた。本能的に、そう答えなければいけないと悟ったのだ。理由は分からない。
男達は下品な笑みを浮かべて、建物の中に消えていった。ここへ来た時は太陽が空を照らしていたのに、今はすっかり暗かった。




