#6
「兄想いの……良い弟さんですね」
ありのまま、感じたままに答える。それを聞いた司は少し誇らしげに頷いた。
「文人は俺よりずっと出来がいいよ。この街に来るとき、俺一人じゃ心配だからって一緒についてきたんだ」
兄弟仲は確かに良いようだ。けど、今は他に訊きたいことがある。文人のことも引っかかったが、できるだけ窓際に寄って外を覗いた。
「司さん」
見渡す限りの闇。
ここも自分の家と同じだ。一筋の光も見えない。
「弟さんからちょっと聞いたんですけど……司さん、誰かに付きまとわれてたんですか?」
「あぁ……そんなことも言ってた? かるーくだよ。今はすっかりなくなったから大丈夫」
「エンジニアだって……知り合いですか?」
「うん。知り合いだね」
「東川って人じゃないですか? 東川、稔」
カーテンを開けて振り返る。司は驚いた顔でこちらを見ていた。
「そう……、彼だよ。……どうして知ってるの?」
あぁ……。
嫌になって上を見上げる。
窓が開いていたら、このまま後ろに倒れて下に落ちることができたのに。飛び降りる絶好のタイミングだっただろうに、残念だ。
ようやく手に入れた真相は、予想していた中で最も最悪なものだった。司は稔と付き合ってなどいない。むしろ稔から一方的に好意を寄せられていた、被害者……。
「彼とは仕事で一緒になったことがあってね。親切だったけど、俺が同性愛者だと打ち明けてから困ることがたくさんあったんだ。盗撮されたこともあって……けどある時からパッタリ止んで、俺の前に現れなくなった。由貴君は彼がどうしてるか知ってる?」
「さぁ……俺も今は知りません」
「今は?」
「今も……昔も」
頭が上手く働かない。そのせいか疑問形で返してしまった。
墓穴を掘ったのは間違いない。両サイドに手が伸びる。自分を追い詰めるように佇む彼を見ていた。
「そうか、稔君が……。俺に近付いた理由と関係あるんだね」
視線を外し、唇を噛む。司は淡々と、「黙るならイエスと受け取るね」と話した。それだと黙秘権はなさそうだ。
時計の針が進む度、ナイフの切っ先が喉元に近付く。そんな気がしてる。
「君と稔君はどういう関係なの?」
「どういう関係だと思います?」
「質問に質問で返すのは感心しないな」
こんな時でも、彼は優しく微笑む。だからなのか、つられて笑った。
「元彼、です」




