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Free City  作者: 七賀ごふん
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45/82

#3



「仕事熱心だった兄が無気力になって、気持ちが沈むことが増えて……不幸になりたいだとか、おかしなことも言うようになったんです。それは、恋人の話になると輪をかけて酷くなるんですよ。もう見てられないんです」


真っ暗な庭。赤い薔薇が両サイドに植えられている。昼間ならきっと素晴らしい景観だろうに、今はひたすら不気味だ。

「貴方のせいで兄は変わった。今までの人もそうだったし、どうせ兄の顔や経歴が目当てで近付いたんじゃありませんか?」

「そ……れは違います!」

大きな声で反論した。顔や経歴どころか、そもそも好意的に司に近付いたわけじゃない。むしろ痛い目を見せてやろうと、敵意剥き出しで近付いたのだから。……勿論、そっちの方が大問題だけど。


「不幸になりたいって思うのは、幸せな証拠ですよ。幸せな人しか不幸になれないんだから、司さんは今が絶好調なんじゃないですか?」


あれ、おかしいぞ。誤解をとこうと思ったのに論点がずれた。


「というか、変わったっていうなら俺だって……あの人に会ったことで全てが変わった」


拳を痛いほど握り締める。元恋人、稔の影が頭に過ぎった。

初めは彼らが関係を持ってると思った。だから多くを押し殺して司の恋人になった。そもそも怪しまれるような動きをしていた司が悪い。……そんな八つ当たりの感情が生まれてしまっている。

頓珍漢な怒りだ。本当は誰も悪くない。加害者なんていないのに、俺は被害者ぶっている。


「何してんの? 風邪ひくよ」

「いった!!」


まだ話の途中だったが、ドアが開いて司が顔を覗かせた。ドアの目の前に立っていた文人は背中を打撲したようだ。司がごめんごめんと謝っている。

胸が痛む。

自分はここにいちゃいけない。仲睦まじい二人を見て諭されるようだった。

「……すいませんでした。失礼します」

頭を軽く下げて踵を返す。

自分は部外者。平和に暮らしている彼らの家に土足で踏み込んだ。稔の件が完全にシロだとしたら、謝って済む問題じゃない。結果的にフラれたけど、……時間を奪ったことを考えたら、どう償っても足りないこと。

「こら、ちょっと待ちなさい」

「んぐあっ!」

後ろから襟を掴まれ呼吸困難に陥る。足早に歩いていたから首への衝撃は大きかった。激しくむせ込むと、追いかけてきた司に背中をさすられた。


「ここから最寄り駅まで、歩いたら三十分近くかかるよ。上がっていきな」

「げほっ……いやっ、大丈夫です」

「でも電車は間に合わないと思うよ?」




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