#2
彼はくぐもった声で奥に駐車場があると話した。見れば見るほど立派な家だった。進むともう一台車が停められていたので、横の空いているスペースに入る。エンジンを止め、シートベルトを外した。気分が昂っていて気づかなかったが、もう深夜だった。
彼を支えながら玄関まで向かう。鍵をあけるのかと思いきや、司はインターホンを押した。十秒も経たないうちに「はい」と聞こえたが、こちらが何か言う前に通話を切ったようだ。足音が大きくなる。
「兄さん!」
ドアが凄まじい勢いで開いた。正直、あと五センチ前に居たら鼻を骨折していたと思う。
由貴が内心ヒヤッとしていると、司は笑顔で手を上げた。
「文人、ただいま。ちょっと具合悪くなっちゃってさ。わざわざ送ってもらったんだ」
「え、大丈夫!? ……すみません、兄がご迷惑おかけして」
文人と呼ばれた、由貴と同い歳ぐらいの黒髪の青年。どことなく司と顔立ちが似ている。きっと彼が弟だろう。
しかし、彼は司の言葉を聞くと表情を変えた。
「文人、彼が由貴君だよ」
「えっ」
露骨に驚いたような顔。それから少しの間、由貴の顔をじっと見つめてきた。何だか知らないが、かなり気まずい。穴が開きそうだ。
できればさっさとおいとましたいが、司はちょっと上がっていって、と言って先に行ってしまった。
彼を送り届けたら帰るつもりだったのでどうしようか考えていると、文人は前に出てドアを閉めた。
「……?」
これだと自分も彼も家から締め出された状態だ。家の中は窺えない。
そして文人の鋭い眼差しは、初対面の相手に向けるものではなかった。
「花岡由貴さんですよね。兄に近付かないでもらえますか」
「えっ!」
突然のことに狼狽える。どう返すべきか分からず固まっていると、文人はため息をついて腕を組んだ。
「兄とお付き合いされてたんですよね? 貴方と関わるようになってから、兄は様子がおかしくなったんです。最近別れたって聞いたから安心してたのに、まだつきまとってるんですか? それはストーカーでしょう」
「えっ……いや、えっと」
淀みなく質問してくる彼は、司と正反対の気質のようだ。敵対的……それとも自分にだけだろうか。
彼の弟に失礼な態度もとれないし、返答に困る。
別れたくないとゴネているのは事実だが、彼がおかしくなった、というのはどういう意味だろう。




