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イチリン  作者: 火炙
12/12

11 祈占の妄言

 きっと大丈夫。何もない。どこからともなくロープが飛んできてたまたま引っ掛かっただけ。

心の中で何度も何度も反復させる。じゃないと体が動かない。


 震えているのは?

寒いから。


 息が上がっているのは?

階段を駆けてきたから。


 こんなにも心臓がバクバクするのは?

誕生日パーティーが楽しみだから。


 ポジティブな理由を付けて自分を騙す。恐怖を隠し、動かない理由を潰してゆく。

大きく息を吐くと、武器を編み来た道を引き返す。


 階段を下り見えた光景。

床に腰を落とし、何かに怯えた瀬名の姿。

真横に駆け寄り、視線を追うと、頭から靴まで真っ黒な男が一人立っていた。


 震える瀬名を抱き寄せ、


 「大丈夫ですか!?怪我は?痛みは?」


 と、聞いてみるが、恐怖で声が出ないのか口をパクパクさせるだけで返事が来ない。

男にレイピアを向けて、キッと睨みつけるが相手は動じない。


 「誰ですか!?ここで何をしてるんですか!?」


 語気を強めて問いただすが返事は無い。

ここで一葉は気づく。瀬名が子供を抱えていない事に。


 あっ!凛ちゃん....凛ちゃんはどこ!?早く保護しないと!


 凛はベビーベッドで横になっている。男の視線など気にすることなく、すやすや眠っている。

一葉は男とベッドの間に割って入ると、改めて武器を構える。


 左手を腰元に、切っ先を足元に向け、男の前に立ちはだかる。

しかし所詮は子供のままごと。男にとっては何でもない。


 バチッッッッ!!


 男の裏拳が一葉の頬を打つ。

痛みと衝撃でダウンを取られるが、追撃は来ない。

男はポケットからレジ袋を取り出すと、ガサガサと広げながら凛に近づく。


 「や、やめて....凛に....娘に手を出さないで!!」


 そんな言葉では止まらない。それは瀬名も理解している。


 「娘に近づかないでっ!!」


 男の腰元にしがみつくが、男は動揺を見せない。

瀬名の左目に親指を突き刺すと、突き飛ばし、凛に手をかける。


 左手で足を持ち上げ、逆さのまま右手のレジ袋に詰め込み地面に叩き付ける。

柔い肉体が叩き付けられる音。子供の泣き声。男の荒い呼吸音。ポリエチレンの擦れる音。


 死を享受する人間の音は脳の理解力を極端に低下させる。

現に二人は動けない。我が子が潰される姿を黙って見続ける。

しかし、徐々に現実を受け止め始め、声にならない声が溢れ出す。


 「....はっ........はっ....あ....ああああああああああ!!」


 瀬名の悲鳴が、肉が潰れる音と重なり、一葉の脳へと届く。

だが、彼女は動けない。体が震え力が入らない。


 死の音が柔らかく、水気の多い音に変わり始める。

男は手を止め、袋の口を下へ向けると、


 ドチャッ!ビチャビチャ........ピチャ....ピチャ....


 ”ソレ”が元は人間だと言って信じる者は居ないだろう。

男は、こびり付いた肉片と血が滴る袋を手に、瀬名の方へ向かった。


 「あ....あ....あぁ....」


 放心状態。空気を吐き出すだけの人型と化した瀬名。

その頭に袋が被せられる。袋の上からナイフを一突き。鮮血が吹き上がる。


 「ダメーー!!!」


 レイピアを手に飛び掛かるも、サッと躱され、腹部に一発拳を貰う。


 「う゛ぅ゛....なんで....なんでこんなこと....」


 しかし男は答えない。

ただただ無言で瀬名の頭部にナイフを突き立て続ける。


 瀬名が息絶えると、次は一葉の番。

瀬名親子と違う点は、立位で抵抗の意思が有るという点。





 壁に背を預け、力なく座り込む一葉。

瀬名親子と違い、酷くいたぶられた様子で、小さな体には大量の切り傷が。


 「痛ッ....どうして....こんな....」


 一葉の頬に一閃。ナイフが傷を残してゆく。

もはやこの程度では声も上げない。

だが、左腎への一突きには耐える事が出来なかった。


 「あ゛っ゛!!........うぅ....」


 体を大きく仰け反らせ、低く、獣のような悲鳴を漏らす。

続いて胴へ縦に一閃。衣服を切り裂き、赤に濡れた白い肌が露わになる。


 男は一葉の前で怒張した欲望を取り出し、しごき上げ始める。

男が達したその時が自分の最期だと、一葉は直感するが、現状を変えるだけの力を持ち合わせては居ない。


 左腎への一撃は一葉にとって致命傷。流れ出た血液が視界を鈍らせる。

失血の影響で現れた幻覚か、それとも本当にそこに居るのか。

男の奥、玄関付近でポケーっとこちらを眺める一人の少女?と目が合った。


 一葉の視線に気が付いた男が勢い良く振り返ると、少女?と目が合いサッと身構えた。

男の反応を見て確信する。確かに彼女はそこに居る。


 「あ、気づいた?遅~い」


 嘲る様な物言いの少女。いや、声を聴く限りは少年と言うべきか。


 「オナニー中悪いね。小さい方に用があってね。で、君は一葉で合ってる?」


 小さく頷くと、少年はニヤッと可愛らしい笑顔を浮かべた。

その場で胡坐をかいて座り込むと、緊張感の無い声で喋り始めた。


 「で、なにしてたの?見た感じ強姦(えっち)かな?拷問(SM)って感じもするね。まぁ、うん。楽しかったってのは分かる。灰君に気付かなかったもんね。ダメだよダメ。ダメダメ。そんなんじゃ”淵狼(えんろう)”に怒られちゃうよ」


 淵狼と言う単語に男は反応を見せる。


 「うんうん。やっぱそーだ。灰君知ってる。君の事知ってるよ。黒寂(こくじゃく)だ―」


 男は手にしたナイフを投擲。少年の方にヒットするも喋りを辞めない。


 「痛った~~い♡男の娘の体にアナなんて開けてナニするつもりさ♡」


 尚も挑発を続ける少年に、男は瞬時に距離を詰め、細い首を絞め上げる。

握力と腕力に物を言わせ少年の体を浮かせるが、苦しみもがくどころか、どこか恍惚とした表情を浮かべ、


 「だからダメなんだよ....すぐに殺さず遊ぶから....」


 その言葉の真意は分からない。だからこそ手早く処理しなければならない。

しかし、指摘されて気づく頃には手遅れだと相場は決まっている。


 ドゴオォォォォン!!!!!


 くの字に曲がったステンレス製の玄関扉が室内に吹き飛んでくる。

その音、扉の無残な姿は、トラックか何かが突っ込んで来たかのようだった。


 「オラァッ!!やってくれ....た....あれ?生きてんのか?あれ?間に合っちまった?」


 扉を蹴破って登場したのは、女性にしては背が高く、暗い部屋でも目立つ筋肉。

器は小さく、声と体はデカい女。千羽(せんば)淫莉(みだり)その人だった。


 千羽は少年の首を掴む男の腕を握り、力を加える。


 バキンッッ!


 少年が解放されると同時に、男は利き腕を失った。

男はあまりの急展開に付いて行けず、膝をついて痛みに耐えるしかなかった。


 「もうっ!遅いよ淫莉っ!何してたの!」

 「あー?そらもう、月見しながらオナニーしながら筋トレよ」


 「結局なんだよう!全く....灰君の可愛い顔に傷が付いたらどうなってたか」

 「どうなってたんだよ」


 「ちょっと興奮しちゃうかも....///」


 ふざけた会話を交わす二人。その時千羽があることに気が付いた。


 「....!おいおいおいwアイツ何でチンコ出してんだよwwwww」

 「一葉おかずにオナってたんだ。しまうタイミング見失ってブラブラしてるね」


 片膝を立て、肩で息をする男の元へ向かうと、頭部を前蹴り、男を仰向けに倒した。

ついでに左腕も破壊し、男の腹部へドカッと腰を降ろした。


 「しっかし、せっかく長げぇモンぶら下げてンのに、包茎ってのは可愛げがねぇよなぁ?」


 邪悪な笑顔から溢れ出る低音ボイスに、緩んでいた空気が引き締まった。


 千羽は男の性器に手をやると、両手の人差し指、親指で性器の皮をつまみ、縦に引き裂いた。

男の体が大きく跳ねた後、ガタガタと痙攣し始めるも千羽は止まらず、根元まで皮を裂くと睾丸を手の内に収める。


 「灰~見とけよ~」

 「うへえぇぇ....ぜーったいやだ」


 ギュッッ....





 黒寂と言う男を殺害した後、二人は一葉の元へ寄り、その顔を覗き込む。


 「一葉(ひとひら)清音(すずね)....女の子って聞いてたけどホントかぁ~?........ホントだ....って濡れてるし!クンクン....うわっ漏らしてるじゃん!」


 一葉の下着の中に突っ込んだ手を匂う狂人を横から蹴り飛ばす千羽。

その手にはタオルと、二階から取ってきた着替えが。


 「悪ぃな。そいつ倫理観を筆頭に何もかもがねぇんだわ」


 濡れた股座を拭き、着替えを済ませると、改めて二人に礼を言った。


 「あぁ。まぁ、良いって事よ。....あっ、そうだ。名乗ってなかったな。アタシは千羽淫莉。こっちのゴミは内島(うちしま)灰色(はいいろ)

 「こう見えても男の子だよ」


 一葉には分からない。二人の事がまるで分からない。

自己紹介をされたところで納得できるような人たちでは無いからだ。

マシンガンの様に喋る初対面の濃い人達。片や失礼、片や暴力的。しかもその二人はどうやら自分を助けに来たと言うからいよいよ読めない。

しかし、質問をする程の元気もない。だから今は分からないままで良い。


 「とりあえず....帰るか。なっ?」

 「....帰る」


 「灰色、テメェこれで晩飯買ってこいや。コイツとアタシの分な」


 灰色に千円札を三枚押し付けると、一葉を背に抱え瀬名家を後にした。





 「一葉ァ....テメェなんでこの仕事受けた?」

 「困ってたから。子供も居たし助けてあげたくて」


 そんな返答に千羽はキレた。


 「あ~~?な~~にが”困ってたから”だ。そんなふざけた理由で危険に首突っ込んでんじゃねぇよ!」

 「だって....助けてって....」


 「だいたいテメェも子供だろうが!!」


 ハァ....めんどくせぇガキだなオイ....

怠いモン抱えてる癖にちょろちょろ動きやがって。家でジッとしてりゃンな事にはならなかったはずだが、コイツにはそれが出来ねぇらしい。

助け合い。アタシはコイツを否定しねぇ。だがこのガキは人を助ける力も無い癖に、他人に助けて貰う前提の動きをしている。ふざけた野郎だな全く....


 千羽は一葉を降ろすと、顔を突き合わせ目を見て話しを始める。


 「例えばだ、お前が生活に困ってて、借金取りに追われてるとするだろ。今すぐ金が必要で咲に相談したら明日十万くれてやると。いざ翌日になったら途端に無理だって、話を聞けばはなから十万なんざ持ってねぇと。どう思うよ?」

 「....初めから無いなら、断ってくれても良かったかも」


 「だろ?そしたら無駄な時間を喰わずに別の手段に移れるわけだ。それに、私には出来ませんって素直に謝るのも大事だぜ」

 「だったら....だったらどうすれば良かったんですか!?警察はダメだし、花さんも居ないし、じゃあ私が―」


 「少なくともお前ではねぇわな。ちょっと考えてみろよ。あのセナって奴が最後に見た光景はなんだと思う?腰抜かして小便漏らしてるお前だよ」

 「それは........」


 「どうすれば良かった。はなっから関わらなければ良かった。これに尽きる。助けるとか何とか適当抜かして結局何もしねぇんだ。さぞお前が憎いだろうよ」


 千羽の言動は厳しく冷たい物だった。それでいて嘲笑するような口ぶりでもなく、真剣に目を見つめて話すものだから余計に笑えない。千羽はいたって真面目に話している。


 「オラッ携帯よこせ」


 一葉からスマホを奪い取ると何やら操作を始める。


 「大体よ、テメェ一人でやろうっつーからこうなンだよ。人に頼....れ....」


 ねちねちとした説教を止める程に衝撃を受けたもの。

千羽が覗く画面は、一葉が連絡を取れる相手、連絡先を見ていた。


 おぉ....マジか....コイツ、咲と美華条、古古伊の三人しか仲間居ねぇのか....

出張してる咲には頼れねぇとしてだ、残ってんのはゴミばかり。

頼る相手が居ないだけなら最初からそう言えっつの。


 「どうしようも無くなったら連絡よこせ。話ぐらいは聞いてやる」


 一葉の元に帰ってきたスマホには千羽の連絡先が追加されていた。

千羽は大きなため息をつくと、ゆっくりと立ち上がり、どこか気恥ずかしそうに言葉を続ける。


 「はぁ....あーだこーだとは言ったがよォ....要は一人でやろうとすンなっつーことよ。これからもお前は色んな連中と知り合っていくはずだ。そいつら全員使い倒して、楽に安全に生きろ」


 初めて見せた優しい笑顔。千羽の主張は間違っていない。それは一葉が一番分かっている。

だからこそ、その心に深く刺さったと共に最後の笑顔で救われた。


 「うぅ....っ....うぅぅぅ........っ」


 反省と後悔から涙が溢れる。

声を抑えようと唇を噛むも嗚咽が漏れ出る。こうなると千羽は弱い。可哀そうだとか、自責の念では無く純粋に泣き止ませ方が分からないのだ。

普段であれば無視して立ち去る所を、そうはいかない相手と来た。


 「あー、アタシが来た時お前剣?かなんか持ってたろ?っつーことはよ、立ち向かったって事だ。得体の知れねぇ奴相手に、あの親子守るために剣向けて戦ったんだろ?立派じゃねぇか。過程だ過程。結果なんてもう無視しちまえ」


 何とか必死に励まし、もう一押しとばかりに抱き寄せた。


 「一葉清音、よく頑張ったな。かっこよかったぜ」


 頭を撫で、背をさすり胸の中で悲しみを吐き出させる。

胸の中でわんわん泣く一葉の声は千羽が想像していた以上に大きい。

人が寄ってくるのは面倒だと考えた千羽は、一葉を抱っこする。


 「帰ったら飯食って寝ろ。花形(アイツ)が戻るまで一緒に居てやるから」


 ”祈り屋”千羽(せんば)淫莉(みだり)。口は悪いが、強くて優しいイカれた女。


 『黒寂』殺し屋組織”躯”に所属する新人の殺し屋。


 『淵狼』”躯”No2の実力者。その正体は異神蠢。

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