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余命一年の悪役令嬢は、愛する人に嫌われるために画策します  作者: 衛星 奏志


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1/12

悪役令嬢、婚約を解消する。

オフィーリア視点

 水の跳ねる大きな音が中庭に響いた。


「オフィーリア様、酷い」


 声を上げたのは池に落ちて全身ずぶ濡れの男爵令嬢。


 池のそばには、見下ろすように立つ侯爵令嬢がいた。


 その姿は悪役令嬢そのものだった。



「フィー、君が男爵令嬢を虐めているという報告が上がっている。本当なのか?」


 昼下がり。王宮の庭園で開かれている茶会の席で、王太子リンドールは静かに告げた。


 向かいに座り、今が盛りと香り立つ芍薬を見ていたオフィーリアはゆっくりと視線を移した。


「ええ、それがどうかなさいまして?」


 迷いなく、そう答えた。


 一瞬、空気が凍りつき、リンドールの表情が強張った。


「……認めるのか?」


「ええ、実際にご覧になったこともありますでしょう?」


 学園で公然と行われている行為だ、目にしたことのない者のほうが少ないだろう。


「君は王太子の婚約者。未来の国母になるんだぞ? 虐めなど、その身に相応しい行いだと思うのか」


「何をそんなに熱くなっておられますの? たかがしがない男爵家の令嬢ではありませんか、気になさるほどの事ではありませんわ」


 さらりと言い放てば、リンドールは言葉を失ったように押し黙る。


「君は……どうしてそんな風になってしまったんだ? 聡明で慈悲深かった君はどこに行ってしまったんだ」


 困惑を隠せないリンドールに、オフィーリアはふふっと笑って。


「さあ? 蝶のように飛んでいってしまったのかもしれませんね。ヒラヒラと」


「言葉遊びをしている場合ではない。このことはまだ陛下の耳には入ってはいない。だが知られれば婚約解消になるかもしれないんだぞ」


 その言葉に、ほんの一瞬だけ。胸の奥が軋んだ。


 ──それでいい。


 むしろ、その方がいい。


「そうですか。ええ、その方がよろしいかもしれませんわね」


「そんな他人事みたいに」


「殿下、学園で私がなんと呼ばれているかご存知ですか?」


 愛称ではなく、“殿下”と呼んだことに、リンドールがわずかに目を見開く。


 二の腕まである白い手袋をつけた細くしなやかな手がレースの扇を静かに開き、口元を隠す。


「私は悪役令嬢と呼ばれているようですよ。言い得て妙、ですわね」


 くつくつと笑う。


「国母に相応しくない。そうでしょうね」


 扇を閉じる。


 そして、何でもないことのように告げた。


「婚約解消致しましょう。書類は侯爵家に送ってくださいませ」


 椅子を引く音が、やけに大きく響いた。


「それでは、失礼いたします」


 呼び止める声には、振り返らず、そのまま背を向けて歩き出す。


 一歩、また一歩。


 視界が揺れる。足の感覚が曖昧になる。


 それでも歩みを止めない。


 ──ここで倒れるわけにはいかない。


 庭園を抜け、建物の影へと差し掛かったところで。ふっと、力が抜けた。


ハッピーエンドなのでご安心ください。

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