Ⅵ:駆けつける牙 ―牙狼神言葉を残す―
だが、牙狼騎士団の狼獣人たちは停まること無く、戦う場を得て俄然いきり立った。ましてや〝群れ〟と言う価値観の中に生きる狼ゆえに彼等のカリナへの忠誠心は揺るぎない壮烈なものだった。
「暗殺者は複数! ざっと〝聞いて〟200から300は居る! 鼻と耳で嗅ぎ分けて片っ端から引きずり出せ!」
「応っ!」
狼が生物として優れているものに聴力と嗅覚がある。目で見ることに慣れきっている人間にはない独自の感覚だった。これまでの戦闘経験からゲオルグは目算ならぬ耳算で敵暗殺者の数を探り出す。当然、姿を隠しているはずの暗殺者のその位置をあっさりと見破る。
「そこだぁっ!」
腰に巻いたベルトには肉厚なダガーナイフが投擲用に複数下げられている。その一つを抜いて投げ放てばなにもない岩に突き刺さり、うめき声とともに黒装束の魔族兵が現れて崩れ落ちた。隠身用の光学偽装魔法を用いていたのだ。
他の牙狼騎士団の団員たちも暗殺者集団を即座に暴き出していく。姿を隠して暗殺を成功させて、混乱を生じさせようとしていた魔王軍だったが、その狙いは脆くも崩れ去った。
音もなく忍び寄り命を奪うのが暗殺者の本懐だが、狼獣人たちの能力の前には虚しい虚勢に過ぎない。
「ひっ、ひぃいい!」
恐れをなして逃げ出す暗殺者集団だったが、逃げる獲物を追うのは狼が一番得意とするところだ。
「逃がすかぁっ!」
即座に追いつきその首を背後から抑え込むと、同時に心臓を一突きにして絶命させる。
ゲオルグに続くように、牙狼騎士団の狼獣人たちは、伏兵の魔族兵士を片っ端から暴き出し息の根を止めた。まさに一網打尽とはこのことである。
「暗殺者排除成功!」
「気を抜くな! 奇襲攻撃の第2波があるかもしれねえ!」
「了解!」
そんな彼らの働きをカリナはしっかりと見ていた。
「牙狼騎士団の方々、お見事です!」
「恐悦!」
ねぎらいの言葉に満足げなゲオルグだったが戦意はなお燃え盛っていた。
「ご無事だったようで何より! 応援、感謝いたします!」
「何を言うかよ! 礼を言うのはこっちの方だぜ!」
次の瞬間、首位に展開していた牙狼騎士団の狼騎士たちは、片膝を突いてひれ伏した。
「戦場での危機的状況の中、太古の英霊を召喚しての援軍、誠に恐れ入ります!」
一斉の感謝の言葉、ゲオルグも感謝の極みにあった。
「英霊の派遣がなければ、最低でも半数は討ち取られていた。俺達が今ここにいるのはカリナの姐御のおかげだ! この戦い、最後まで尽力させてもらうぜ!」
「その意志、誠に大儀です!」
そして、カリナに声をかけるものが居る。
『勇者カリナよ――』
周囲の岩場の一つの上に佇む魔導戦士ケルヴェロス・スタールだ。
狼獣人種族の太古の勇者にして、カリナが牙狼騎士団を救うために召喚した英霊である。
「ケルヴェロス殿!」
『お主と牙の眷属の絆、しかと見せてもらった!』
「こちらこそ。尽力頂きありがとうございました!」
カリナの言葉にケルヴェロスは笑みを浮かべる。
『お主なら、人と獣の橋渡しになれるであろう! 武運を祈るぞ!』
ケルヴェロスは力強い言葉を残して光となり天へと還っていったのだった。
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