ⅩⅠ:ドラゴンの墓場
そして、2日目の夕刻、魔王城攻略のための前哨地であるドラゴンの墓場へとたどり着いた。カリナは周囲の景色を見回した。山と呼ぶには険しく、巨大な岩と呼ぶがふさわしい場所だった。
「あれが魔王城――そしてこれが魔王城の手前の山――」
巨大な岩くれのような山があり、その彼方におぼろげに魔王城が見える。
だが、その岩くれの山こそが、事前に把握した〝魔王軍の穴〟だったのだ。
魔王城へ到達する本道からは大きく離れており、また、曰く付きであるため魔族ですら拠点化しない山として魔王軍の内部では忌避された山だった。
魔導士であるソフィアがつぶやく。
「これが、ドラゴン種族が〝死地〟として定めた山――〝ドラゴンの墓場〟」
カリナがその言葉に頷く。
「はい、ドラゴンのマルセウス卿と、リザードマンのケラブノスがおっしゃってました、魔王軍にとって忌まわしき禁忌の山なので警戒こそされ、近づきはしないだろうと」
「すごい、穢れの気配ね――」
魔導士であるがゆえに、死の気配や穢れの波動にはソフィアは敏感だった。だが、ソフィアはある物を懐から取り出す。
「コレを使いましょう」
それは炎のように燃えるオーラを放った魔導護符だった。
「火炎皇帝竜の鱗章――、エーテルノヴァの魔導アカデミーに封印されている火炎皇帝竜の圧縮体から抽出した護符、コレを使えばドラゴンの墓場に残る死霊たちも、対話してくれるだろうとのマルセウス卿の話でした」
カリナとソフィアが先立ち、魔導剣士たちが警護しながら、ドラゴンの墓場の岩山へと近づく。そして、鎮魂の祝詞の呪文を唱える。
「長き歳月を生き、台地と大空を巡った偉大なる竜皇魂よ。現竜皇の魂の波動にて汝らの無念を弔わん。そして、ドラゴンの種族の繁栄のために、この地に一泊の留まりを許したもう――」
そして、火炎皇帝竜の鱗章を掲げながら、カリナとソフィアと魔導剣士たちは祈りを捧げた――すると。
――滞在を認めよう、自由のために戦う勇者の一団よ――
そこに佇むアルカナヴァンガードの全員の脳裏に声が響いた。そして、岩山全体から邪気が薄れて、台地におぼろげに光があふれる。
――この光を辿ってくるがよい――
おどろきながらついていけば、一見すると、岩登りが必要な岩塊にしか見えない山だったが極秘の緩斜面が見つかった。
急な坂道だったが両足立ちで登坂可能だった。
「この様な場所が――」
カリナが呟けば〝ドラゴンの声〟は更に続ける。二人の対話が始まった。
――聞け、勇者の一団よ。魔王を打ち倒そうとする者たちよ――そもそもこの大地はドラゴンの聖地だった――
「聞いたことが有ります。ノクティルは本来ドラゴン種族が繁栄していた土地――、それを歴代の魔王軍が魔界から侵攻して奪ったのだと」
――そうだ、歴代の竜皇たちはときに魔王と戦い敗北し、あるいは戦いを避け、やむなく聖地を手放した。やつらは魔王軍の砦を建てるのみと言う取引を反故にし、巨大な城を打ち立て、我らドラゴンの眷属をこの地から追い払ったのだ――
「そして、唯一残ったのがこの〝墓場の岩山〟」
――まさにドラゴンの眷属の転落の歴史はここから始まったのだ――
「我々は魔王を討ち滅ぼすためにここに来ました」
――なればこそだ。いにしえの死魂である我らは無念を訴えるしか出来ない。だが、お主らに一夜の宿を貸すことはできる――
そこでカリナは足を止めると、頭上を仰いで、ドラゴンの魂に問いかけた。
「ならば、共に魔王軍を討ち滅ぼし、この大地を取り戻しましょう。ドラゴンの眷属と、鱗の眷属の反映のために!」
その言葉にドラゴンの魂は答えた。感銘に声を震わせて。
――その言葉を……一千年、待っていた――
それこそがこの地に眠るドラゴン眷属の無念そのものだったのだ。
そして、岩山を登り終えるとそこは清浄な空気溢れる草原だった。そこに歴代の数々の竜皇や竜将の骸が骨となって残っていた。
ドラゴンの骸はある物は土に半分埋まり、有るものは大木に飲まれ、有るものはツタが絡まり、自然へと還りつつあった。
ソフィアとカリナは魔導士たちに命じて、それらの骨たちに鎮魂と浄化の魔法を捧げさせる。
「無念と苦しみが晴れますように」
魔法とともに清浄なる波動が広がる。
――ありがとう、心気高き勇者たちよ。汝たちを歓迎しよう――
こうしてアルカナヴァンガードは魔王軍すら知らない、極秘の野営地にたどり着いたのである。
戦場はさらに深く、魔王城の影へと近づいていきます。
ドラゴンの墓場で何が待ち受けるのか、引き続き見届けていただけましたら嬉しいです。





