Ⅷ:カリナ決断する。
エルリックはなおも告げる。
「カリナ、君の気持ちは解る。だが、ケラブノスもゲオルグも、こうした状況はわかった上で現地に向かってくれたはずだ」
それは当然の言葉だった。カリナはその頂点に立っている。
「一つだけに肩入れするわけには行かないというわけですよね?」
カリナが絞り出したその言葉にエルリックは頷いた。
「そうだ、この場での英霊召喚だけは避けてくれ!」
だが――
――ピッ!――
カリナは魔導呪符をタッチして二人を無視して叫んだ。
「至急、英霊を2柱送ります! なんとか持ちこたえてください!」
『ありがとうございます! 必ずや勝利し! 本隊に追いつきます!』
「ご武運を!」
――ザザザ――ブッ――
そこで魔法通信の音声は途絶えた。カリナの独断に周囲は驚くとともに当惑し憮然とするものも居た。
ソフィアが叫ぶ。
「何を考えてるの! だめだって言ったじゃない!」
エルリックも告げる。
「対案を考えると言ったはずだ!」
だが、そうした言葉にもカリナは一切怯まなかった。
「対案はありえません。なにより、ケラブノスとゲオルグの両名の生存を重視するなら、英霊の派遣以外に有りえないんです」
その声は努めて冷静だった。私情で冷静さを欠いている様子は微塵もなかった。その冷静な声が改めて皆の視線を一つに集めた。
「対案の2つ――〝援軍の派遣〟と〝魔導による遠隔支援〟ですがどちらも効果は望めません」
ソフィアが問い返す。
「なぜそう思うの?」
「それは――
大集団を進軍ルートを横断する形で派遣するのはリスクが高すぎます。敵が予想外の支援部隊を潜ませている可能性もある。現在のアルカナヴァンガードを分割した小隊を送っても、そこを奇襲されれれば派遣部隊が全滅することもありえます。ましてや時間がかかる。アルカナヴァンガード全体を合流させることを考えましたが、作戦本来の目的を考えるなら不適当です」
その言葉の理論性にエルリックは圧倒された。さらにもう一つの対案にも結論は出ていた。
「もう一つ、魔導による遠隔支援ですが、状況が敵地のど真ん中であり、今わかった通り敵も魔導妨害を大量に仕掛けて来ている。効率が上がるとは到底思えず、何より魔導士複数の消耗があまりに激しい。それこそ、 ここから先のルートや、魔王城の時点で、魔導士がスタミナ切れに陥りかねません!」
「え? そこまで見ていたの?」
「はい――、今までの戦場の戦歴結果から、割り出しました」
「なんて子なの――」
ソフィアもエルリックも、今更ながらにカリナの底力を思い知った。そして、カリナは本心を打ち明けた。
「更に言うのであれば、ケラブノスとゲオルグは自由軍きっての功労者であり重要種族の指導者の一角です。さらにケラブノス卿は魔王軍内部の事情を詳しく知っている。戦後の混乱を収めるうえで決して欠くべからざる人材です。今後の多種族間の信頼関係を考えるうえで、彼らを失うことは損失があまりに大きすぎます」
カリナは魔族大戦が収束した後のことまで見通していたのだ。コレにはソフィアも流石にぐうの根すら出なかった。
「そこまで言われてしまえば、私には何も言えないわ」
「だが、英霊召喚に伴う君の消耗が無視できない」
エルリックはそれでも食い下がった。指揮官の補佐役として、対極的な視点の意見を提供するのは絶対に必要なことなのだ。
だが、カリナは周囲の視線を浴びながらも、自らの考えを示す。そこには彼女特有の〝仲間を見捨てる前提の判断〟そのものに強い嫌悪が現れていた。
「そもそも私は軍人ではありません。ただの一人の少女です。できうるなら誰を捨てるかなんて決めたくない」
「カリナ――」
ミリアがカリナの言葉に思わずため息を漏らした。だがそれは呆れのため息ではない。
「勇者らしくないと言われるかもしれない。でも、助けられるなら助けたいんです。仲間の死を見たくないんです。それだけは譲れません」
その言葉を非難するような空気は、どこにもなかった。
エルリックだけが戒めるように問う。
「カリナ、命を削ることになるぞ?!」
それがカリナのみを案じているからこその言葉だとは誰もが解っていた。
「望むところです」
それがカリナの覚悟そのものだった。そんな二人のやり取りをアルカナヴァンガードの隊員たちの誰もが見つめていた。





