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Ⅴ:狼とリザードマン、別動する

「聖剣の巫女様、なにか予想外の事態が起きたようですな」

「えぇ、そのようです」


 戦歴を重ねたケラブノスや、優れた指揮能力を持つカリナなどは、通信兵の表情に異変を感じていた。


「おい、何があった?」


 ゲオルグは通信兵にといかける。


「大変です! 新手の敵が接近してきます!」


 その言葉は緊張を持って迎えられた。カリナは一歩進み出て問いかける。


「詳しく話してください」

「はっ! 報告いたします」


 通信兵は明確に述べ始めた。


「現在、ドラゴン種族により、空からの偵察が行われておりますが、我々の現在地点より人間種族による軍隊行軍で2日ほどの距離の地点に、魔王軍による高速騎馬隊が、急速に接近しております!」


 その言葉に一同は騒然となった。


「おそらくは、現在戦闘が発生している2大地点に向けて援軍を派遣したものと思われます」

 

 エルリックは即座に敵の進軍速度を計算する。


「人間の行軍で2日――となると、魔王軍の騎馬兵なら1日――いや下手をすれば、半日でこちらに到達するおそれがある」


 ミリアが頷く。


「確かにブラッドレイブン要塞とダークスウォンプ駐屯地、この2つの地点を失うのは敵にとっても相当な打撃でしょうね」


 するとケラブノスが意見を挟んでくる。


「問題は敵がどちらの援軍に向かおうとしてるかです、その意味では迎撃に打って出るには今を置いてありません」


 ゲオルグも素直に同意した。


「何より〝人間の足〟では、到底、間に合わねえぜ?」

「うむ」


 ケラブノスとエオルグの意見は一致した。それに直感を抱いたカリナが問い返す。


「何を考えてらっしゃるのですか?」


 カリナの真剣な問いかけにゲオルグとケラブノスは答えた。


「我々がこの地点から迎撃に向かいます」とケラブノス。

「俺たちの足ならすぐだぜ!」とゲオルグ。


 何しろリザードマンと狼獣人だ。人間とは比較にならない脚力を有している。平地だけでなく、山地や岩場も、平地と同様に駆け抜けられるだろう。

 トカゲと狼――、彼らにとって山中の岩場は逆に独壇場だ。彼なら間違いなく間に合うはずだ。

 それに対してソフィアが反対の意見を述べた。


「危険すぎるわ! 敵の詳細な規模がどれだけのものか分からないのに! エルリック! 進軍ルートを調整して我々全体で迎撃すれば!」


 それに対してケラブノスが抗弁した。


「いやそれこそ危険だ。敵はおそらくこのアルカナヴァンガード本隊を足止めし進行作戦に狂いを生じさせるのがもう一つの目的だと想われます。ですからむしろここは少数で迎撃を行うべきなのです」


 ゲオルグも、ケラブノスの意見に同意だった。


「姐御、あんたの役目覚えているか? アルカナヴァンガードは魔王城付近に先行して敵の注意を惹きつけるのが第一目的だろ? そのあんたたちが遅れてしまっては、後からやってくる連中が危険にさらされる事になる。あんたたちだけは目的を違えてはいけねえ」


 2人の真剣な声に、カリナははっきりと頷いた。


「おっしゃる通りです」


 そして左手でレギオンブレイドの柄をしっかりと握りながらカリナは命じた。


「ケラブノス、ゲオルグ、両名に命じます。発見された敵急襲部隊に向けて迎撃に向かいこれを討ち果たしてください!」


 この言葉にケラブノスとゲオルグの2人は、それぞれ片膝をつきながらカリナの命令を受諾した。


「はっ! リザードマン兵団、直ちに迎撃に向かいます」

「同じく、牙狼騎士団、迎撃に向かいます」


 その2人に対して再び声をかける。


「ご武運を祈念いたします」とカリナ、

「魔王城決戦にて待っているぞ」とエルリック、

「お気をつけて」とミリア、


 そしてソフィアは硬質のクリスタルプレートで作られた魔導符を手渡した。


「魔導通信の魔法を組み込んだ魔導呪符です。これで速やかなる連絡が取れると思います」

「かたじけない」


 そう、ケラブノスが魔導呪符を受け取り部下に手渡した。


「それじゃあ行ってくるぜ」


 ゲオルグは牙を剥いてにこやかに笑いながら部下たちの所へと向かった。


「これより俺たちは別動をとり、敵の急襲支援部隊の迎撃に向かう! アルカナヴァンガード本隊の進軍を支援し、他ルートの部隊への急襲を阻止する!」

「はっ!」


 ゲオルグが強く叫び、ケラブノスがそれに続いた。


「敵は騎馬隊でありその進軍速度に間に合わせられるのは我々において他にない。今こそリザードマン種族の矜持を見せるぞ!」

「おうっ!」

「行動開始!」

「おおおっ!」


 その掛け声と共にリザードマン兵団と、牙狼騎士団は速やかに、魔王軍からの派遣支援部隊の迎撃に出発した。


「お願いです。必ず、生き残ってください」

 

 カリナはそこでようやく本音を口にした。そして、彼らの姿をいつまでも見送っていたのである。


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