92 モニカの婚約者3
ロベルトの誕生日パーティーから数日後。
モニカは父親に呼び出された。
(お父様からお話しってなにかしら?)
モニカの体質ゆえに、今まで父親から改まって話をされたことがない。婚約についてすら、夕食の際に思い出したかのように伝えられていたから。
これもモニカの設定が、女神側に動いている効果なのだろう。
不思議な気分で、父と向かい合わせでお茶をいただいていると、父は思いつめたようにため息をついた。
「モニカ。すまない。じつは困ったことになってな……」
「困ったことですか?」
父から困りごとを相談されるのも初めてだ。父は一体、何を悩んでいるのか。
「モニカとは一度、挨拶をしたそうだが、ルカ卿の従兄イサーク・リアマ男爵をご存知か?」
まさかの名前が挙がり、モニカは眉をひそめた。なんだか、嫌な予感がしてくる。
「……確かに、ルカ様の婚約式でご挨拶しました」
「そうか。なんでもその時に、イサーク卿がモニカに一目惚れしたらしくてな……」
「お父様もしかして、お受けになったのですか!」
モニカは思わずソファから立ち上がりながら叫んだ。
これまでも父は、モニカの了承を得ずモニカの婚約者を決めてきた。
家門のために政略結婚することは、貴族の娘として生まれた者の義務。そう納得していたが、今回ばかりは相手が悪すぎる。
「焦るな、そうではない。この歳までモニカの婚約者を決めてやれなかったんだ。もう自分で判断できる歳だし、好きな人がいるならそのほうが良いと思っていたさ」
「えっ。そうなんですか?」
思わぬ父の気持ちに、モニカはぽかんとする。
「一年生の初めにそう伝えようと思っていたのだが、なかなか機会がなくてな」
その頃はモニカの設定が、モブからルカの幼馴染へ、そして完全モブへと、激しく変化していた時期。
両親は、放置ぎみだった娘との関係を再構築するために、奔走していた時期でもある。
「お父様がそう思っていてくださっただけでも嬉しいです」
父も父なりに、モニカの将来を考えていてくれた。それも貴族の娘としての人生ではなく、一人の女性としての幸せを考えていてくれたのだ。
「……モニカ。ビエント先生とはそういったご関係ではないのか?」
「先生とは、その……」
顔を赤くしたモニカだが、よくよく考えるとカリストからそういった話をされたことがない。
最近のカリストは随分と積極的でどきどきさせられることも多いが、それも守護者としてのアプローチを超えたものではないように思える。
モニカは、お互いの婚約者について話をした時のことを思い出す。
カリストは確か「俺は呪われているから、継ぐ家もないしな。特に無理して結婚する必要はないんだ」と言っていた。
「……先生は、結婚にご興味がないのかもしれません」
「そうか……。先生ならモニカを大切にしてくれるし、婿に大歓迎だったんだが」
父はモニカ以上に落胆した様子でため息をついてから、申し訳なさそうにモニカを見た。
「悪いがモニカ。私の立場的に、公爵閣下の甥を明確な理由なしにはお断りできないんだ。お会いするだけでも、してくれないか」
モニカが気に入らなければ、なんとかお断りするからと。
父は、フエゴ公爵が騎士団長として活動する際の、補佐官を務めている。上官の甥との結婚問題ともなれば、気を遣わなければいけないようだ。
イサークと結婚はしたくないが、父を困らせることもできない。
「わかりました、お父様」
それに、これはきっと、イサークがモニカを調べた結果の行動なのだろう。単純に結婚相手を探していた可能性もあるが、なぜモニカに決めたのかは知っておきたい。
父から返事を聞いたイサークは、すぐにでも会いたいと翌日、レナセール家を訪れた。
「急な訪問にも関わらず、こころよく歓迎してくださり感謝申し上げます」
「友人との予定をキャンセルして急きょ準備したもので、至らない点はどうかお許しくださいませ」
「ご友人よりも私を優先してくださったとは、感激です」
遠回しに迷惑だと言ったつもりなのに、彼は全く動じていない。
相変わらず図々しい性格であり、子犬のように人懐っこい人だ。
イサークに嫌味を言っても意味がなさそう。モニカはため息をつきながら庭園へと案内した。





