82 皆への告白4
「わあ! 女神さま!」
(言わないで~!)
モニカは慌てて自己紹介をした。
「土属性の精霊さん、私はモニカ・レナセールと申します! モニカと呼んでください!」
「モニカ?」
「はい。よろしければ私と契約して、ルーと一緒に活動しませんか?」
そうお願いしてみると、ルーが自慢するように二人の周りを浮遊し始めた。
「おいら、ルーって名前つけてもらったんだ~」
「火属性いいな! ねえモニカ。契約したらわたいにも、名前つけてくれるの?」
「もちろんです。えっと……」
(ロベルト様の夢も引き継ぐから、ロベルト様っぽい名前が良いわよね)
「それでは『ロー』という名前はいかがですか?」
「わ~い! わたい、ロー! ルーより可愛い!」
「おいらの名前は、かっこいいの!」
どうやらローは名前が気に入ったようだ。ルーの手を引っ張って踊り始めた。
「それでは、私と契約してくださいますか?」
「する!」
和気あいあいとしたその光景を、ほかの六人はぽかんとしながら見つめていた。
「…………え。精霊と契約って、あんな簡単にできんの? なんで俺はできねーんだ?」
「モニカ嬢のように、名前をつけて差し上げると良いのかしら……」
ルカとミランダは真剣に考え始めた。
「それだけではない気がします。きっとモニカ嬢には精霊を引き寄せる何かがあるのでしょう」
「きっとそうだ。私もモニカには何でも相談したくなる」
ロベルトとビアンカがそう予想する横で、「んー」と考えこむ者がいた。
「それより俺には、明確な何かがあるように感じるよ。女神様というのが――」
最も的確な指摘をしようとしたブラウリオの言葉を遮るように、リアナが瞳を輝かせながら叫んだ。
「モニカちゃんが可愛いからに決まってるよ!」
「あー。なるほど」と皆が口を揃えて納得する中、ローは契約の印としてモニカの頬へとキスをした。
(ふふ。可愛いキスね)
小さすぎて触れたかどうかもよくわからなかったが、ローみずから「ちゅ~」と言ったのでキスしてくれたのだろう。
可愛い精霊が二人に増えて、これからの生活がますます楽しみだ。
モニカがそう思った瞬間――、がくりと視界が揺れた。
「モニカ……?」
いち早くモニカの異変に気がついたルカが、モニカのもとへと足早に歩み寄ってきた。
「大丈夫です……。少し眩暈が……」
ルカに支えられながら姿勢を正そうとしたが、ますます眩暈はひどくなるばかり。
意識を保っていられなくなったモニカは、とうとう力が抜けてしまう。
最後に聞いたのは、「モニカちゃん!」とリアナの悲鳴にも似た叫び声だった。
モニカが再び目を開くと、見覚えのある天井と、心配そうに顔を覗き込んでいるカリストの姿だった。
「モニカ!」
「……先生?」
どうやらここはカリストの研究室のよう。倒れたモニカを、皆がここへ運んでくれたのだろうか。辺りを見回すと、全員がベッドを囲んでモニカを心配そうに見つめていた。
「皆様、申し訳ございません……」
自分自身でも、なぜ倒れたのかよくわからないモニカだが、心配をかけてしまったことを謝罪するため、起き上がろうとした。
しかし、少しでも頭を持ち上げると先ほどの眩暈が押し寄せてくる。耐えかねて再び、枕に頭を落とした。
「今は少しも動かないほうが良い。話すのは平気か……?」
「話すのは問題ありませんが……。私、どうしてしまったのですか……?」
「皆から事情は聞いた。原因は確実に、コレだ」
カリストの指につままれていたのは、ルーとローだ。二人はじたばたと足掻いてカリストの指から離れると、モニカの頬に向けて一直線に飛んできた。
「モニカ―! おいらモニカと離れたくない!」
「わたいもモニカと一緒にいたいのー!」
「二人とも、どうしたの……?」
モニカの頬にひっついて騒ぐ二人を、再びカリストが摘まみ上げる。
「静かにしろ。モニカからこれ以上、力を奪うな」
淡々とした動作ではあるが、カリストは怒りすら湧いているような表情だ。
「先生。力を奪うとは……」
「モニカは属性に関係なく精霊と契約できるが、人間であることに変わりない。他の人間と同じく、複数の精霊と契約するには身体に負担がかかりすぎたんだ」
「あ……」
モニカには心当たりがあった。ルーと契約状態になってからずっと、体力不足を感じていた。それがルーの影響であるとも察していた。
だが、精霊が二体になることで、これほど悪影響があるとは思いもしていなかった。
「モニカすまない。俺がもっと慎重になるべきだった。訓練さえすれば、モニカは複数の精霊と契約できると、俺も考えていたんだ……」
カリストは懺悔でもするかのように、モニカの右手を両手で握りしめると自身の額へと当てた。
その考えはモニカも同じだ。訓練のおかげで力を使っても具合が悪くならなくなった影響で、精霊の力による自身への負荷について慎重さに欠けていた。
「先生のせいではないです。私が先生に隠し事をしていたから……」
「隠し事?」
「本当は、ルーと契約しているだけでも、身体に負担がかかっていたんです。私の体力がないのはそのせいで……」
「そうだったのか。気づいてやれなくて悪かった」
事情を説明しても、カリストは自分の責任のように感じている様子。
モニカは自分の今までの行動に、罪悪感を抱き始めた。
「問題があれば先生に報告する約束でしたのに、怒らないのですか……?」
「俺はモニカを見守りたいだけで、束縛したいわけではない。俺に話さなかったということは、それなりに事情があったのだろう?」
「……ルーと一緒にいたかったんです。身体に負担が生じていると知られたら、先生にとめられると思って……」
事情と呼ぶには、あまりに自分勝手な理由だ。
精霊の力があれば、リアナを陰から手伝える。それは単に手段の幅が広がっただけで、精霊なしでもリアナを支える手段は他にもあったはず。
それでもルーとの契約を維持したかったのは、この小さな可愛い生き物と一緒にいたかったからだ。
カリストがゲームの設定に影響されないように、精霊もまた同じ存在。モブのモニカを「女神さまだ」と見つけてくれた。
完全モブ期間には邸宅でも誰にも気づいてもらえなかったが、カリストと会えない時間もルーのおかげで孤独ではなかった。
そんなルーとは、カリスト同様にずっと一緒にいたかった。
「そうだな。初めにそれを聞いていたら、俺ならとめただろう。だがモニカは訓練を重ねることで、それをかなり克服した。よく頑張ったと思う」
カリストが褒めるようにモニカの手をなでたので、モニカは期待の眼差しを向ける。
「それでは――」
「だが、今の状況はあまりに悪すぎる。人間には無理だったんだ」
「また訓練をしたら、慣れると思います!」
「いや。初めの時は力を使ったあとで倒れたが、今は契約しただけでこの状態だ。負荷の量が違いすぎる。どちらか一人を諦めなければ、日常生活も送れないはずだ」
「そんな……」
落胆するモニカの目の前に、ルーとローが飛び出してきた。
「おらはイヤだ!」
「わたいだってイヤよ!」
先ほどからのこの態度。二人はすでに、カリストから事情を説明されていたようだ。
「契約したのはおいらが先なんだから、土属性があきらめて!」
「火属性はずっと女神さまといたんだから、代わりなさいよ!」
「あっ……待って……」
ローにはまだ、女神と呼ばないでと口留めしていない。モニカは二人を止めようとしたが、全く耳に入っていない様子。さらに二人は叫んだ。
「モニカは女神さまのことをなにも覚えてないから、おいらが教えてあげなきゃいけないの! 部外者はひっこんで!」
「部外者とはなによ! 森で女神さまを見つけたのはわたいよ!」
「二人とも……、呼ばないで……」
この状況をやり過ごすには、どうしたらよいのか。モニカはあたふたしながら二人をとめようとした。しかし、さすがにもう手遅れ。
気になった様子のリアナとルカが、同時にモニカの顔を覗き込んだ。
「女神様?」
「女神様って、あの女神様か?」
「あの……。違うんです……」
半泣きになりながらモニカが反論すると、くすりとブラウリオが笑う声が聞こえてきた。
「ごめんねモニカ嬢。実は俺の精霊も、ずっとそわそわしているんだ」
ブラウリオが差し出した手のひらの上には、彼の精霊。そわそわぷるぷる震えている。
「ほっ本物の女神さま……。サイン……ほしい」
手には精霊サイズの色紙とペンまで。この世界に色紙は存在しないはずだが。
「モニカ。そろそろ観念したらどうだ?」
カリストも笑いをこらえるように、モニカを見つめる。まるでこの状況を歓迎しているかのようだ。
「ですが……」
モニカが女神だと認めることで生じる変化は、決して小さくない。
決心できずにいると、今度はリアナがモニカの左手を握ってきた。
「モニカちゃん本当のことを話して。私がお仕えする女神様はモニカちゃんなの? そうなら嬉しい!」
「聖女もこう言っている。心配する必要は無いだろう?」
両側から二人に手を握られて、モニカはもう逃げ場を無くしたような気分になる。
さすがにこれ以上は誤魔化せない。モニカは脱力するように息を吐いた。
「……はい。私はその……、かつてこの地を救った女神の生まれ変わりなのです」





