81 皆への告白3
『モニカは女神様だよ。なんでもオッケーに決まってるよ!』
モニカはほっとしたとともに、「なんでもオッケー」という言葉に心強さを感じながら皆を見回した。
「皆様。私に考えがあります」
そう切り出すと、皆がモニカへ注目した。その中でリアナが「どんな……?」と、いぶかしげに尋ねてくる。先ほどの勢いはなくなったものの、この件に関しては口を挟んでほしくないようだ。
これは当然の反応でもある。聖女は神殿によって生活を厳しく管理されているが、守護者選びだけは唯一、何の制限もなく自由に選んで良いからだ。
けれどこの提案だけは、どうしてもリアナに聞いてほしい。
「私は特殊な体質でして、実は『属性なし』ではなく『無属性』なんです。無属性とは属性に関係なく精霊と契約できて、それも複数の精霊と契約できるそうなんです」
そうモニカが説明すると、ルカが眉間にたくさんシワを寄せながらモニカを見た。
「……ごめんモニカ。何言ってるかわかんねー」
「僕も理解が追いつきません。そのようなことが、本当にあり得るのですか?」
ルカに続いてロベルトも考え込むように呟いた。これは教科書や歴史書にも記載されていないので仕方ない反応だ。
「私も初めは信じられなかったのですが……。見ていただいたほうが早いですね。ルー、みんなの前に姿を現してくれる?」
「おいら、ルー! 火属性のイケメン精霊だよ!」
呼ばれてポンっと出てきたルーは、いつもよりキメキメのポーズで登場した。
口には火で作った薔薇を咥えてイケメンを演出しているようだが、残念ながらそのフォルムではかっこよさは滲み出てこない。女性三人が同時に「可愛い」と呟いた。
「本当にモニカちゃんの精霊なの?」
「おいら、モニカの僕! モニカは女神様だから」
リアナに質問されて、ルーは自慢げに答える。しかしモニカは慌てて心の中で呼びかけた。
『ルーお願い! 私が女神なのは内緒にして! 帰ったら、お菓子を作るから!』
『えー。しょうがないなあ。おいらバームクーヘンが食べたい』
手間がかかるお菓子を要求されたが、モニカは即座に了承した。
「モニカは女神様みたいに優しいんだ!」
「ふふ。モニカちゃんのことが大好きなのね」
リアナはそれで納得したようだ。モニカはばくばくしている胸を押さえながら息を吐いた。
精霊は自由だ。今まではカリストが相手だから問題なかったが、他の者に会わせる際は気を付けなければいけないようだ。
ルーが皆に愛想を振りまいていると、ルカが考え込むように首をかしげた。
「こいつって、一年の初めに、俺がモニカに見せた精霊じゃね?」
「そうなんです。あの時に私のことが気に入ったみたいで、ついてきてしまったのです」
ルカが覚えていてくれたので、モニカは嬉しくなる。勝手にモニカと契約状態にしたのはルーの独断だが、ルーを手渡してくれたのはルカだ。いわばルーは、推しからの賜りもの。
「確かにモニカ嬢は、オーブで属性無しと判断されました。そのあなたが火属性の精霊と契約したなら、『無属性』とは本当の話なのですね」
「はい。信じていただけたようで良かったです」
ロベルトが当時の説明をしつつ納得してくれたので、あの場にいなかったミランダとビアンカも、すんなりと納得しているようだ。
「それで、モニカ嬢の考えとは……?」
ブラウリオは慎重な様子でモニカに尋ねてきた。モニカも緊張しながら、ブラウリオとリアナへと身体を向けた。
「私を、リアナちゃんの守護者にしてほしいのです。同性の私が守護者になればあらぬ噂を立てられることもありませんし、殿下のご負担も軽減されるかと思いまして」
この一か月間でブラウリオは、モニカを随分と受け入れるようになった。今にして思えばそれは、カリストを想っての行動だったようだが、おかげでモニカに対する敵視は緩やかになったはずだ。
リアナに関しては今現在、不満を持たれているようだが、友情が壊れていなければ悪い提案ではないはず。
むしろ二人の気持ちを尊重しつつ四属性をそろえるには、モニカを守護者にするのが最善策。
「わあ……!」
リアナは即座に笑みを浮かべかけたが、すぐに表情を曇らせた。
「あの……モニカちゃん。さっきは、ひどいこと言ってごめんね。モニカちゃんがこんなに真剣に考えてくれていたとも知らずに、私……」
リアナは心の底から悔いている様子だ。
「確かに私には婚約者がいないので、皆様のお気持ちは想像を膨らませるしかありませんわ。ですが、私もお二人の役に立ちたいという気持ちがあることを、心に留めておいてくださると嬉しいです」
モニカがにこりと笑みを浮かべると、リアナは感極まっている様子で立ち上がり、「モニカちゃん……、ありがとう」とモニカへと抱きついてきた。
(喜んでもらえて良かったわ)
余計なお世話だと拒否されてもおかしくはない提案だったが、リアナには受け入れてもらえたようだ。
リアナはモニカに抱きついたまま、ブラウリオへと振り返った。
「ブラウリオ。モニカちゃんなら良いでしょう?」
「まあ……。モニカ嬢には先生もいるし……」
ブラウリオは完全に納得しているわけではなさそうだが、モニカの後ろに控えている存在を意識することで、納得させている様子。
(その先生は、私の守護者になる予定ですよ殿下)
この情報はこの場で伝えるわけにはいかないが、知ればブラウリオは誰よりも喜びそうだ。
そう考えていると、ミランダがすっと手を挙げるように扇子を持ち上げた。
「質問よろしいかしら。聖女の守護者は男性と決まっておりますが、その辺は問題ございませんの?」
「モニカは女神様っ……と同じくらい特別だから、大丈夫なのっ」
ルーは怪しげな言い回しで、そう答えた。モニカは再びヒヤヒヤさせられる。
精霊は基本的に正直者だ。「秘密にして」というお願い自体に無理があったようだ。
「慣例で男性ばかり選ばれておりましたが、条件に性別は書かれていませんしね」
「女性は騎士にならないという偏見と、同じようなものだろうか?」
ロベルトとビアンカの発言にモニカは苦笑いする。
(それは、ここが乙女ゲームの世界だからですよ)
きっと聖女に関する歴史書を漁れば、男性を選ぶようになった理由があるのかもしれない。けれど、男女平等に選ばれる世界だったら、ここが乙女ゲームの舞台にはなっていなかっただろう。違うジャンルの舞台にはなっていたかもしれないが。
「でも本当に、複数の精霊と契約なんてできるのか?」
ルカが素朴な疑問のようにモニカへと尋ねてきた。それに関してはモニカもまだ、確証はない。精霊がそう主張しているだけだ。
「私もそれはまだ、試したことがないので、放課後にでも聖木がある森へ行きませんか?」
そう皆を誘った放課後。七人で聖木がある森へと赴いた。
ここはすでに、何度も授業で訪れている場所。一年の初めはオーブを探す探検のような授業まであったが、今では全員がどこにどのオーブがあるか把握している。
(ルーは火属性だし、殿下は水属性。そして私の守護者になる予定の先生は風属性だから、残りの土属性の精霊と契約すれば良いわよね)
そう考えたモニカは、皆を土属性のオーブへと導いた。
放課後には精霊と契約を願う者がよく訪れているが、今は誰もいないようだ。下手に誰かに見られると困るので、モニカは安心しながらロベルトに視線を向けた。
「私ではオーブが反応しないので、ロベルト様に召喚をお願いしてもよろしいですか?」
「お任せください。僕が責任を持って、モニカ嬢に相応しい精霊を召喚してみせます」
ロベルトは自信たっぷりな様子でオーブを発動させようとしたが、モニカはあることに気がついて、「待ってくださいっ!」と慌ててロベルトの手を掴んだ。
「どうしました?」
「あのっ……、ロベルト様は本当にこれで良かったのですか……?」
リアナとブラウリオの気持ちを尊重するあまり、ロベルトへの配慮に欠けていた気がする。モニカが土属性との契約も完了すれば、完全にロベルトの夢を奪ってしまうことになる。
「構いませんよ。僕の夢を親友であるモニカ嬢が引き継いでくださるなら、この上なく幸せです」
そう微笑むロベルトの横に、ビアンカが進み出てきた。
「私からお願いするのは筋違いかもしれないが、どうかロベルトの気持ちを引き継いでくれ。見知らぬ者が土属性の守護者になるより、親友のモニカがなってくれたほうがロベルトにとっても意義が生まれるはずだ」
ロベルトは彼女の言葉を肯定するようにうなずいた。『親友』にそこまでの価値を求めてくれるなら、モニカも二人の気持ちに応えたい。
「ロベルト様が召喚してくださることで、お気持ちごと受け取りたいと思います」
お互いに力強くうなずきあうと、ロベルトは再びオーブに手をかざして魔力を込め始めた。
オーブを中心に大きな風が巻き起こったあと、オーブの上にぽんっと精霊が出現した。
(あの子――。ルーと一緒にいた精霊さんだわ)
初めてこの森で四属性の精霊と出会った時の一人だ。
ロベルトがその精霊を両手ですくい上げると、モニカの手のひらへと乗せた。
モニカを見上げた精霊は、急に瞳を輝かせる。
「わあ! 女神さま!」
(言わないで~!)
モニカは慌てて自己紹介をした。





