69 友人関係3
「それで、モニカ嬢はどうなさりたいのですか?」
ロベルトに問われたモニカは、すぐに真剣な表情へと戻った。これこそ皆へお願いしたいことだから。
「二年生になり、私が教室へ復帰して感じたのは、お二人が孤立しているように見えたことです。お二人の絆が深まったのは喜ばしいのですが、リアナちゃんは残り三名の守護者を得る責務があります。できれば、一年生の時のような皆で楽しい雰囲気があれば、お二人も登校しやすいでしょうし、リアナちゃんも守護者選びがしやすくなると思うんです」
ブラウリオの執着が激しいと、リアナの攻略に支障をきたす。とは、さすがに言えない。
けれど、このゲームは人間関係のバランスが重要。恋愛対象ばかり攻略していると、恋愛対象に邪魔されて守護者攻略ができなくなる。
ロベルトが守護者になることを諦めつつあることを考えると、リアナはその状況になりつつあると見たほうが良い。
「そのためには、モニカ嬢の存在が必要不可欠でしょうね。モニカ嬢が個人授業に切り替わった後のリアナ嬢は、いつも寂しそうでしたし。その寂しさを埋められるのは、殿下だけでした。今にして思えば、僕がもっとリアナ嬢に関わり、モニカ嬢が築いてくれた環境を維持するべきだったんです。そうすればモニカ嬢が悲しむこともなかったのに……」
ロベルトは心から悔いているように、顔を歪めた。
「ロベルト様のせいではありませんわ。私がすべて悪いんです……」
「モニカ嬢がなぜ……?」
モニカの存在が薄まれば、リアナは正常なヒロインの姿へと戻り、守護者攻略に精を出すと思っていた。
けれど実際のリアナは、モニカが消えた穴を守護者攻略で埋めることはしなかった。ひたすらブラウリオに依存し、ブラウリオもまたリアナへの執着心を募らせていったのだろう。
この世界の人々の感情は、ゲームの設定が全てではないとわかっている。けれど女神の設定によって皆の心は、容易く変化する。
これは、どうしてもゲームの設定を無視できないモニカが招いたミスだ。
ただ、これをどう皆へ説明すべきか。
沈黙が流れる中、「いや」と言葉を発したのはカリストだった。
「モニカは悪くない。聖女は自分自身で築くべきだった人間関係を、モニカに依存することでおろそかにしてきたんだ」
そう言われて思い浮かぶのは、リアナと初めて会話した際のこと。
『幼馴染のモニカちゃんと仲良くなれば、ルカとも接点ができると思ったの』
リアナはそんな目的で、ミランダと揉めていたモニカを助けてくれた。
そして実際にモニカと仲良くなったリアナは、ルカへの積極性が消え、モニカにばかり執着していた。
モニカはそれが、女神のオーラに当てられたことによるものだと思っていた。けれどゲームの設定に影響されないカリスト目線だと、リアナが守護者を得るための人間関係をおろそかにしてきたように見えるようだ。
「ミランダ・セーロスが言うように、本来は聖女とブラウリオ自身で乗り越えなければいけない壁だ。俺たちは助ける義理もないが、なぜこうしてモニカの悩みに耳を傾けていると思う?」
「えっ……それはリアナちゃんが聖女だから……?」
急に問われたモニカは、首を傾げながら答えた。
ヒロインに対して、良い感情であろうと、悪い感情であろうと、ストーリーを進めるためには関わっていくのが攻略対象であり脇役だ。
きっと今は、リアナ自身もストーリーを進めたがっているから、こうして皆も協力的なのだろう。
そう考えていると、ルカが大きくため息をついた。
「いつになったら俺たちの気持ちが伝わるんだ? 皆、モニカが好きだからに決まってんだろ」
「へ?」
思わぬ言葉を聞いて、モニカがきょとんとしていると、ロベルトが笑いをこらえるように口元を手で押させた。
「ルカ卿の想いは、モニカ嬢には一生伝わりそうにありませんね」
「うるさいロベルト」
「ロベルト様。私に宣戦布告なさるおつもり?」
皆が雑談を始めたのを見ながら、モニカは不思議な気分を味わっていた。
(そういえば、前にもこんなことがあったわ)
一年生のときに、モニカの学年一位を祝って皆でハイキングへ行った際。モニカはゲームのイベントで使われる場所を指定したので、皆はリアナとイベントを楽しむために来たのだと思い込んでいた。
けれど実際は、本当にモニカを祝うために皆は集まってくれていた。それを気づかせてくれたのもカリストだった。
今もカリストは、モニカのモブ的な勘違いを正してくれた。彼はいつもモニカを正しい道へと導いてくれる。
(先生がいつも気づかせてくれるのに、私はいつまでゲームの設定に囚われるのかしら……)
カリストはゲームの設定とは少し異なる性格をしているし、他の皆も女神の設定によって感情に大きな変化がある。
モニカがこの世界へで生まれ変わったことで、ゲームバランスが大きく崩れた。
そのような状況では、ゲームの設定が正しいとは限らない。
『だからそろそろ、モブに囚われるのは止めたらどうだ?』
急に、心に直接呼びかける声が聞こえてきた。このようなことができるのはモニカと契約した一人しかいない。
『ルー?』
『引きこもり精霊から、伝えるように言われたんだ』
(それじゃ、先生が……?)
カリストには、モニカが今まさに悩んでいることまでお見通しのようだ。
彼の言うとおり、モブだったころの考えはもう止める時がきたのかもしれない。
設定バーを動かせばまた完全モブになることもできるが、モニカはもうそれをしたくない。自分が消えることで、寂しさを感じてくれる人がいることを知ってしまったから。
だからもうモブの思考は必要ない。
『伝えてくれてありがとう』
『えへへ。おいらもモニカが大好き』
『私も大好きよルー』
ルーとの心の会話を終えたモニカは、皆に向けてにこりと微笑みかけた。
「皆様、ありがとうございます。私も皆様が大好きです」
今の素直な気持ちを伝えると、皆そろって照れたような顔をするのがなんだか可愛い。先に好きだと伝えてきたのはそちらなのに。
その中でも一番顔に出ているのがミランダだ。彼女は扇子で顔を隠した。
「そっそれで、モニカ嬢は具体的な作戦はお考えですの?」
「それが、登校を願いするにも、殿下が交流を遮断なさっておりまして……」
リアナに会えないなら手紙でもと思い、モニカは手紙を書いて王宮へ送ったが、それは読まれることなく返送されてきた。
またお見舞いへ行っても、会わせてくれる可能性は低そうだ。
「殿下が相手となれば、強引に事を進めることもできませんしね」
ロベルトも困ったように考え込む。いつも打開策を考えてくれる彼までも悩むならば、二人を登校させるのは無理なのだろうか。この状況を変えられるのはもはや、国王陛下くらいしかいないのかもしれない。
「登校させるだけで良いなら、俺に任せろ」
皆が悩む中、簡単なことのようにそうカリストがそう発言した。
「先生がですか……?」
二人でお見舞いへ行った際もリアナに会えなかったのに。とモニカは首をかしげる。
「ブラウリオが俺の言うことを聞かないはずがないだろう?」
彼は自信たっぷりにドヤ顔をした。
あの時はあまりブラウリオを刺激しないようにしていたが、カリストが「会わせろ」と強く迫れば会えていたのだろうか。
あり得る。
カリストとブラウリオの関係ならばあり得る。
あー。と納得する三人に対して、ミランダだけは「先生……。すごい自信ですわね」と引き気味な表情を扇子で隠した。
その日の夜。カリストは上空から、ブラウリオの部屋のバルコニーへと降り立った。





