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【三章】モブ令嬢の、幸せ推し活な学園生活 ~モブでしたが、女神として認められるよう皆と一緒にがんばります!~  作者: 廻り
第一章 『女神の再来』だと精霊に告げられましたが、それより推しに認知されたい
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 表彰式を終えたルカは、真っ先にモニカを見つけて大きく手を振った。


「モニカ! 見ててくれたか?」

「はいっ! とても素敵でしたわルカ様! 皆様もお疲れ様です」


 四人とも胸には、先ほどの表彰で受け取った記念のブローチをつけている。こころなしか、四人が成長を遂げたように見える。あの魔獣を倒したのはモニカだが、あの時の皆は自分ができることを精一杯やっていた。きっとそれが自信に繋がっているのだろう。


「ほら、リアナ」

「うんっ」


 ブラウリオに背中を押されたリアナが照れた様子で、モニカとカリストの前に進み出てきた。


「あのね。モニカちゃんと先生にも、記念のブローチをいただいてきたの」

「私たちにですか?」


 リアナの手のひらには、皆が付けているものと同じブローチが二つ。思っても見なかったお土産に、モニカとカリストは顔を見合わせた。


「それがさ。事前の打ち合わせの際にリアナが突然、モニカ嬢とカリスト先生にも記念のブローチを渡したいって、陛下に直談判を始めたんだ」


 事情を説明し始めたブラウリオの隣で、リアナが顔を赤くする。


「リアナちゃんが?」

「あの時は必死で……」


 貴族社会にいつも馴染めていない様子だったリアナが、最も緊張するであろう国王に、そのようなお願いをしていたとは。モニカは驚きを隠せない。


「陛下は渋っていたんだけど、ルカが自分の分をモニカ嬢に渡すと言い出してね。それなら俺はカリスト先生に渡すと宣言したら、陛下は「それは困る」と動揺し始めて」


 それはそうだ。国王としては、王太子と未来の王太子妃を持ち上げたくて、このような表彰式を開いたのだろうから。


「結局ロベルトが、表彰台に上がらなかった者にも渡した例があると指摘して、陛下が折れたんだよ」


 ブラウリオはとても楽しそうに、「父上が困っている姿を先生にも見せたかったな」と報告する。

 カリストの『ジジイ』発言といい、ブラウリオの態度といい、二人は国王をあまり良く思っていないようだ。


 リアナが、モニカとカリストの胸にブローチをつけると、花が咲いたように微笑む。今日の可愛いドレスと相まって非常に可愛い。


「モニカちゃん、これでお揃いだね!」

「はいっ。先生と私のためにありがとうございます、リアナちゃん。皆様」


 このブローチは、ゲームのミッションをクリアした時に表示されるマークと同じ薔薇のデザインだ。

 大きなミッションを、皆でやり遂げたような気分にさせられる。


「そんじゃモニカ、そろそろダンスしようぜ」


 舞踏会の始まりを告げる音楽が鳴り始めて、ルカはモニカの手を握ろうとした。そこへ、すかさず割って入ってきたのはリアナだ。


「ちょっと待ってよルカ! 初めのダンスは大切な人と踊るんでしょう? 私がモニカちゃんと踊りたいわ」

「はあ? なんで女同士で踊るんだよ。モニカが恥ずかしいじゃねーか」

「恥ずかしくないわよ! 私この日のために、ブラウリオから男性パートを教わって来たんだから」


(殿下が教えてくれたの?)


 本当は自分がリアナと踊りたいだろうに。初めのダンスを譲ってくれるとは思いもしなかった。

 見直しながらブラウリオに視線を向けたモニカだが、やはりそれは勘違いだとすぐにきがつく。彼はいつものようにもの言いたげな視線をモニカに向けてくる。


「今日もモニカ嬢は大人気だね」

「恐れ入ります……」


 リアナに好かれたいがために、無理して教えていただけのようだ。

 居心地悪くモニカが縮こまっていると、ロベルトがため息をついた。


「このような場でまで、モニカ嬢を困らせてはいけませんよ。少しお待ちください、全員が全員と踊れるよう順番を書き出しますので」


 勤勉な彼はいつでも筆記用具を持ち歩いているようだ。その姿をみてルカが嫌そうに顔を歪める。


「全員が全員って……。俺とお前も踊るのかよ……」

「もちろんです。不公平があってはいけませんから」


(ロベルト様……。その解決方法、少しズレてますわ……)


 今回のロベルトの解決方法は難アリだったようだ。モニカが苦笑していると、ブラウリオがロベルトの隣にぴったりと身を寄せた。


「カリスト先生を入れるのも忘れないでね」

「承知しました殿下」


(ふふ。殿下は本当に先生がお好きなのね)


 カリストに関わっている時だけは、ブラウリオが可愛く思える。

 しかしモニカは、ハッと先ほどのカリストとの約束を思い出す。


(先生が私の守護者になると知ったら、殿下にまた恨まれるのかしら……)


 リアナと仲良くするだけでも彼の嫉妬がすごいのに、カリストまでもとなったら一体どうなってしまうのか。

 モニカの身体に、急に寒気が走った。


「ロベルト・スエロ」

「何かございますか先生」


 カリストに声をかけられて、ロベルトは顔を上げた。


(さすがに先生は、遠慮したいわよね)


 カリストが十五歳のお遊びに参加するとは思えない。ハイキングでの遊びも、モニカに付き合って仕方なく参加していたようだったから。


「今日は俺がモニカのパートナーだ。一番は俺にしろ」

「せっ先生までっ……!」


 涼しい顔でそのような要求をするものだから、モニカは思わず声を上げた。


「先生ずるいぞ」

「そうよ、ずるいわ!」

「俺は舞踏会でのマナーを説いているだけだ」


 苦情を述べるルカとリアナに対して、カリストは勝ち誇ったような笑みを向けている。

 ロベルトによって鎮火したはずなのに、まさかカリストが油を投入するとは。


(どうしよう……)


 こうなってしまったら、一体誰がこの場を納めてくれるのだろうか。


『ねぇ……。ルー』


 再び誰が一番にモニカと踊るかで揉めだした皆を見ながら、モニカは心の中でルーに話しかけた。

 このような時、冷静な第三者の存在がとてもありがたい。


『どうしたの? モニカ』

『私の周りって、なぜいつもこうなのかしら……?』


 本来モニカは、リアナたちを遠くから見つめるだけのモブなのに、なぜかヒロインはモニカに対して冷静でいられなくなるらしいし、攻略対象たちも良くも悪くもモニカに注目している。

 これがこれからも続くと、リアナの攻略に悪影響を及ぼさないか心配だ。


『あー、それはね。モニカが女神さまだからだよ』

『女神だから?』

『女神さまのことは皆、すがりたいほど大好きだもんね!』


 大好きという言葉が当てはまるかは微妙なところだが、確かにこの国の人々は女神の存在を信じ、熱心に信仰している。


『一般的にはそうかもしれないけれど、私はモブなのに……』


 女神ではあるが、モニカはゲーム内のモブであることも確かだ。初めは日常生活が不便なほどモブだったのに、ルカにイメージアップアイテムを渡してから世界がガラッと変わり、こうなってしまった。


『それじゃ、調節しちゃう?』

『そんなことができるの?』

『ほらっ。これで調節できるよ』


 ルーが空中をぽちっと押すと、モニカの目の前にゲームのウィンドウのようなものが出現した。その画面には、とても馴染みがあった。


(思い切りゲームの設定画面だわ……)


 ここが乙女ゲームの世界だとは理解していたが、モニカが思っているよりもゲームらしさがあったようだ。


 そのウィンドウの中には、音量を調節する時のようなバーが表示されている。ミュートの部分に『モブ』、最大の部分に『女神』と書かれていた。

 この世界の法則的には、モブの反対語は女神のようだ。


『モブ側につまみを調節したら良いのね』

『そうそう。でもこの調節は一学年で一回しかできないから慎重にね』

『わかったわ』


 一学年で一度ならば、つまみの位置は慎重に決めなければならない。


(今の位置が中央だから、モブと中央の間くらいが良さそうね)


 リアナがモニカに対して冷静でいられて、尚且つ、皆に認識されつつもさほど影響を与えない位置。

 きっとこの位置だと目星をつけながら、モニカはバーのつまみに指で触れたが――、ちょうど同時にカリストがモニカの肩に手を置いた。


「――それで、モニカは誰と一番に踊りたいんだ?」

「へ?」

「最初の相手はモニカちゃんが決めることになったの。モニカちゃん、誰を選ぶ?」


 リアナが潤んだ瞳で私を選んでと言いたげに、モニカを見つめてくる。非常に可愛らしくて今すぐ抱きしめたい欲求に駆られるが、今のモニカはそれどころではない。


(わ……私、重大な決断の最中なのですが……!)


「あの……。慎重に考えたいので、少しお待ちいただけますか?」

「うん。モニカちゃんの決断を信じてるね」


 こくりとうなずいたモニカはもう一度、設定ウィンドウに視線を戻した。


(良かった。つまみは動いていないわ)


 このまま慎重にモブ側へ移動させればミッション完了だ。


 そう思った瞬間。


「やっぱ俺がいいよな?」


 ルカがモニカの肩を抱き寄せたために、モニカの腕がぐらっと揺れる。


 推しのスキンシップにこれほど困ったことが、今まであっただろうか。嬉しいはずなのに、泣きたいほど緊急事態だ。


「きゃっ! ルカ様待って!」


 モニカの叫びも虚しく、つまみは大きく振り切れたのだった。


 



こちらで第一章終了となります。お読みくださりありがとうございました!

ブクマ、評価、いいね、誤字報告ありがとうございます。励みになりました。


第二章の準備に入りますのでしばしお休みさせていただきます。

開始しましたらタイトルでお知らせ予定です。

第二章はサブタイトルが変わりますので、把握のほどよろしくお願い申し上げます。

(話数カウントも途中からズレていたみたいなので修正予定です。こちらたぶん51話です)

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◆人物紹介◆

モニカ・レナセール
伯爵令嬢。乙女ゲームのモブ

カリスト・ビエント
教師・男爵家の養子。乙女ゲームの攻略対象(初心者用)

ルカ・フエゴ
公爵令息・騎士。乙女ゲームの攻略対象

リアナ
聖女・平民。乙女ゲームのヒロイン

ブラウリオ・ アグア・プロテヘル
王太子。乙女ゲームの攻略対象

ロベルト・スエロ
侯爵令息・宰相の息子。乙女ゲームの攻略対象

ミランダ・セーロス
公爵令嬢。乙女ゲームのルカの婚約者

ビアンカ・ソルダー
辺境伯令嬢。乙女ゲームのロベルトの婚約者

イサーク・リアマ
男爵・ルカの従兄。乙女ゲームの悪役

ルー
火属性の精霊

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◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


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