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(国王陛下の表彰を断るなんて、大丈夫なのかしら……)
討伐隊の中で、魔獣にとどめを刺したことになっているのは、カリストだ。いくら聖女を称えるための表彰だとしても、一番の功労者が断るのは国王のメンツを潰すことにはなりはしないか。
「それよりモニカこそ、表彰を受けるべきだろう。なぜ断ったんだ?」
「私こそ、何もしておりませんもの」
浄化魔法を使った以外のモニカは、戦闘にも参加していないし、ブラウリオのように騎士を呼んできたわけでもない。
リアナを勇気づけたお礼として、モニカも表彰を受けられるよう、ブラウリオが国王に掛け合うと提案してくれたが、それは丁重に断った。
「モニカは、自分に対してわがままになることを覚えるべきだな。あいつと一緒に表彰されたいとは、思わなかったのか?」
そんな問いに対して、モニカ自身もなぜだろう? と考えた。
ルカとは仲良くしたいし、ルカのためなら何でもしてあげたいが、不思議と隣に並び立ちたいという欲は湧いてこない。
それはきっと、ルカが『推し』だから。
「推しは、遠くから見守るだけでも幸せなんですよ」
「『推し』とはなんだ?」
「応援したくなるほど大好きな人のことです」
「聞いたことがないな。学生の間での流行り言葉か?」
「そっ……そうですね。ごくごく、狭い間での流行りです」
狭いどころか、この世界で使っているのはモニカ一人だけだろうが。
「リアナちゃんたち皆様が推しですが、ルカ様は『最推し』なんです。一推し、二推し、三推しと順番をつける方や、作品ごと好きな場合は箱推しと呼ぶ場合もあるのですが、やはり私にとってはルカ様が一番なので、特別感を出したくて――」
こんな話も、カリストはちゃんと聞いてくれるので嬉しい。
つい熱弁していると、カリストにぎゅっと肩を掴まれた。
「モニカ落ち着け。倒れるぞ」
「だ……大丈夫ですわ。もう力は回復しましたし」
記憶改ざん魔法を使った翌日、モニカとルーはみっちりとカリストに叱られた。それ以来、カリストの過保護がさらに加速している。
今日の舞踏会も、パートナーという名目で彼は絶賛モニカを監視中だ。
「ずっと立ちっぱなしだから一度、座って休もう」
「これから国王陛下のお言葉がありますのに、座るなんて失礼ですわ」
「俺が隠せば目立たない。あのジジイの話は長いぞ」
「せっ先生……!」
国王陛下をジジイ呼ばわりするとは。モニカは慌ててカリストの口を手で塞いだ。
(こんなこと前にもあったわよね……)
モニカは、ムッとカリストを睨みながら、彼が神殿批判をしていた時のことを思い出す。
(もしかして先生の祖先は勇者だから、裏でこの国を牛耳っているのかしら……)
「ほら行くぞ」
笑みを浮かべながら堂々とモニカの手を引く姿を見ていると、そんな疑惑すら浮かんでくる。カリストは謎の多い人だ。もっと知りたい気持ちがこみ上げてくる。
壁際の目立たない場所にある椅子にモニカを座らせたカリストは、モニカを隠すようにその前に立ちはだかった。
「これなら見えないだろう?」
「はいっ。ありがとうございます」
モニカは、ふぅっと身体の力を抜いて背もたれに身体を預けた。実のところ、朝からの準備もあり少し疲れていたのだ。
態度には出していないつもりだったが、カリストにお見通しだったのかもしれない。
「先ほどの続きだが」
カリストは前方を向いたまま話を切り出した。
「はい?」
「モニカがあいつらとの間に壁を作っていた理由が、何となくわかったよ」
(先生にはそう映っていたのね……)
モニカとしてはリアナたちと友達だと思ってはいるが、ゲームを壊さないよう時には一線を引いている。それがカリストには、壁に思えるようだ。
「教師もそうだ。学生を良い未来へと導けるよう手は貸したいし、時には友情のようなものが芽生える相手もいる。だが基本的には、学生が輝く姿を遠くから眺めるだけで満足なんだ」
「先生にとっては、学生が推しなんですね」
「モニカの言葉を借りれば、そうなるな」
カリストは、推しの概念を理解してくれたようだ。そんな彼が女神としての活動をサポートしてくれるなら、モニカの推し活はますますはかどりそうだ。
「だが、俺のことは推しと思うなよ」
「先生を応援してはいけないのですか……?」
「その気持ちは嬉しいが、モニカには遠くから見つめられるよりも、近くでわがままを言われていたほうが楽しいからな」
初めはモニカのお願いを面倒そうに聞いていた彼から、このような言葉を聞くようになるとは。モニカは思わず、くすくすと笑い出した。
「それでは、私のわがままを聞いてくださいますか?」
「今度は何だ?」
「いつかリアナちゃんが聖女として揺るぎない地位を得たら、その時は先生に私の守護者になっていただきたいんです」
このゲームは学園卒業でハッピーエンドを迎える。その頃にはリアナは四属性の守護者を得て一人前の聖女となる。その守護者の一人にはきっとルカもいるはずだ。
なによりリアナが、ヒロインとしてハッピーエンドを迎えることが大切となる。モニカの周りの者にとっても、国にとっても。
それさえやり過ごすことができれば、モニカもゲームに囚われることなく自由に生きたい。
「俺がモニカの守護者に?」
「その……。先生とは卒業後もお会いしたいですし、私の存在についてもご相談する必要があるかもしれませんし……。もちろん、先生さえよろしければなのですが。卒業生の面倒まで見るのがご面倒でしたら、断わっていただいて構いませんし……」
モニカは緊張してしどろもどろになる。
(誰のためでもない、自分だけの希望を口にすることが、こんなに言いにくいことだったなんて……)
今までの人生で、自分だけの望みを口にしたことがないわけではない。けれどモニカの希望はいつも忘れられてしまうので、自分の希望を叶えられるのはいつでも自分だけだった。
しかしカリストは違う。モニカとの約束は必ず実行してくれる人だ。そんな彼に、誰の得にもならない自分だけの望みを口にするのは緊張するし、迷惑にならないか心配になる。
自分には過分な希望を述べてしまったのではないかと、心配しながらカリストの背中を見つめていると、モニカに振り返ったカリストは優しい笑みを浮かべていた。
「やっと、自分の希望を言えたな」
カリストは良くできましたとばかりに、モニカの頭をなでる。
「……ご迷惑ではありませんか?」
「いいや。初めに守護者を提案したのは俺だ。モニカの決心がつくまで、いつまでも待っているよ」
「ありがとうございます。……嬉しいです」
モニカはほっと胸をなでおろした。
(この先もずっと、先生とは縁が切れないのね)
そう思うだけで、心がほんわか温かくなる。カリストという存在がここまで自分にとって重要になっていたとはモニカ自身、気がついていなかった。
どんな時でもモニカを見てくれて、優しいだけではなく、時には厳しいことも言ってくれる人。
モニカにとっては貴重な存在だ。
そんな彼とこれからも一緒に居られる幸せを、モニカはカリストの背中を見ながら噛みしめた。
表彰式を終えたルカは、真っ先にモニカを見つけて大きく手を振った。
「モニカ! 見ててくれたか?」
「はいっ! とても素敵でしたわルカ様! 皆様もお疲れ様です」
次話で、第一章終了となります




