49 これから1
「そっ……それより、お二人にご相談したいことがあるのですが」
翌日。レナセール伯爵家へ、ルカ、リアナ、ブラウリオ、ロベルトがお見舞いにやってきた。
昨日は途中で倒れてしまったので、モニカはその後のことは知らないが、浄化魔法を使った件に関してはカリストが口留めしたのだとか。
「皆様。わざわざお見舞いにきてくださり感謝申し上げます。このような姿で申し訳ございません」
ベッドの上で座ったままのモニカは、まずは謝罪から入った。
なにせカリストが「数日は安静にする必要がある」と両親に懇切丁寧に説明をしてくれたおかげで、ベッドから出ることは許されなかったのだ。
ちなみに体調不良の理由は、魔獣との遭遇にショックを受けたせいで、極限まで体力を消耗してしまったことになっている。
浄化魔法までぶっ放した身としては、居たたまれないほどか弱い設定ではあるが、実際に今はまだ元気に動き回れるほどの力は戻っていない。
今は深窓のご令嬢よろしく、過保護に看病されるしかない状況だ。
「気にしないで、モニカちゃん。それより、あの……、体調はどう?」
リアナは接し方に困っている様子ながらも、モニカを心配する姿を見せている。他の三人からも、同様の雰囲気が伝わってくる。
「おかげさまで、昨日よりは回復いたしましたわ……」
気まずいのはモニカも同じだ。
女神であることを秘密にするための対策は、昨日のうちにカリストとルーに相談して決めてある。それでも皆が今日まで抱えてきた気持ちを考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「そっか……。私が不甲斐無いせいで、モニカちゃんに負担をかけてごめんね……」
リアナは自信喪失しているような暗い顔を、さらにうつむかせている。
(だから嫌だったのに……)
リアナにこんな顔はさせたくなかった。ヒロインにはいつも幸せに満ちた環境でいてほしかった。
ゲームを開けばいつも推しや攻略対象がいて、皆でわちゃわちゃ楽しかったように。
「リアナちゃん、違うんで――」
モニカがそう言いかけた時、ルカが「あーあ」とめんどくさそうな声を上げた。
「辛気くせー話すんなよリアナ。計画を台無しにする気かよ」
「あっ、ごめん。私ったらつい……」
(計画って何かしら……?)
首をかしげたモニカの横に、ルカがドサッと腰を下ろした。ベッドが揺れて「わぁっ」と驚くモニカへ、ルカはいつものように肩を組んでくる。
「モニカ、あの魔法すげーじゃん!」
そしてルカは、まるで太陽のような明るくて頼もしい笑みを浮かべてくる。
「ルカ様……」
「おかげで、俺は命拾いしたぜ。あんがとなっ!」
重苦しかった空気が一気に、草原にいるかのような澄んだ気分に変えられた。
(ルカ様に感謝されるなんて思ってもみなかったわ……)
モニカ自身、女神だと信じていなかったとはいえ、秘密にしていたことに対して、文句の一つも言われてもおかしくはないのに。
モニカがどのようなゲーム設定下にいても、ルカはいつも最大限に寄り添ってくれる。そのことにどれほど救われたか。
「僕もあの時は、負傷した部分が辛かったので、モニカ嬢には大変感謝しております」
「私も二人が心配で集中できなくて、浄化魔法が解けちゃったの。皆を助けてくれてありがとう、モニカちゃん!」
「皆様……」
(リアナちゃんの地位を脅かす存在かもしれないのに、二人にまで感謝されるなんて)
予想外の反応に困惑しつつも、モニカはブラウリオに視線を向けた。彼はこの中で最もリアナの周りに対して厳しい人だ。
目が合ったブラウリオは、わずかに笑みを返してきた。
「それで、皆で考えたんだけど。リアナとモニカ嬢を軸に、俺とルカとロベルトの三人で守護者になったらどうかなって」
カリスト先生にもお願いできたら最高なんだけど。とブラウリオは、モニカに期待しているような視線を向ける。
カリストを慕っている同士のように思われてそうなので、カリストを呼べる人材という認識なのだろうか。
ゲームの内容が大幅に変わるかもしれないというのに、皆は意外に前向きだ。モニカはそれが不思議でならない。
「あの……、皆様は私に対してご不満はないのですか?」
「なぜ? 聖女が二人いた時代は今までないけれど、国にとっては喜ばしいことだろう?」
(あっ……。皆は私のことを、聖女だと思っているのね……)
浄化魔法を見ただけでは、女神か聖女かの区別などつくはずがない。リアナと同等の存在だからこそ、こうして歩み寄ってくれているのだ。
「私もそうなってくれると心強いの。モニカちゃんも聖女なのよね?」
リアナに期待を込めた笑みを向けられ、やはりモニカはこのまま流されるわけにはいかないと自分を戒めた。
これ以上は、リアナを悲しませたくない。大好きだったゲームをめちゃくちゃにしたくない。
モニカは心の中で、ルーに声をかけた。
『ルー。やっぱり魔法は今日、使うわ』
昨日、カリストとルーにこの件に関して相談したところ、ルーが『記憶改ざん魔法』を使えると教えてくれた。
その魔法を使って、モニカではなくカリストが魔獣にとどめを刺したことにする予定だ。
ただ、魔法を使うとまたモニカの身体に負担がかかるので、すっかり回復してから使うようにとカリストに約束させられたが……。
皆の気持ちを考えたら、モニカが浄化魔法を使った記憶は早く消したほうが、無駄に悩ませずに済む。
『おいらはいいけど、記憶改ざん魔法は何度も使えないよ。全員、集まっていないみたいだけど?』
あの場面を見ていたのは、この場にいる皆の他にカリストがいる。そのことを言っているようだ。
『この場にいる人たちだけで大丈夫よ』
『ふ~ん? それじゃ、おいらが教えた呪文を唱えて!』
モニカは皆を見回してから「申し訳ございません」と頭を下げた。
皆の提案は嬉しいが、やはり女神と聖女の共存には無理がある。
「モニカちゃん……?」
困惑するリアナに、モニカは精一杯の笑顔を向けながら呪文を唱えた。
「 気のせいですわ 」
それから三週間後。王宮にて、聖女の初討伐の成功を祝う舞踏会が開かれた。
討伐隊として、リアナ、ブラウリオ、ルカ、ロベルトが国王から表彰を受けることとなった。
「先生、見てくださいっ。ルカ様の正装がかっこよすぎませんか? わあ、片膝をついて表彰を受けておりますわ。騎士様みたいでかっこいい」
「あいつはフエゴ騎士団の騎士だろう」
推しの晴れ姿に大はしゃぎのモニカに対して、カリストは最もな指摘をした。
「違うんです。物語に出てくる騎士様みたいにルカ様はかっこいいんです」
「正装して片膝つけば良いのか? それなら今の俺でもできるな」
バサッとマントをひるがえしたカリストは、モニカの前で片膝をついたかと思えば、モニカの手を取り、手の甲にキスを落とした。
「どうだ? 女神様」
「…………っ!」
攻略対象は何をしても様になることを、彼は自覚するべきだ。モニカは顔を真っ赤にさせながら手を引っ込めた。
「せっ先生、悪ふざけが過ぎます……。そんなことをなさるなら、皆様と一緒に表彰を受けたらよろしかったのに」
「俺は何もしていないからな」
モニカの反応を見て満足した様子のカリストは、立ち上がりながらそう述べた。
最近はたびたび『女神』をネタにしては、モニカをからかってくる。困った教師だ。
(国王陛下の表彰を断るなんて、大丈夫なのかしら……)





