25 ルカの勉強2
「幻滅など、しておりませんわ。今朝の宿題には本当に驚きましたもの。あの宿題はどうなさったのですか?」
「……あれは、執事に教えてもらいながら解いた」
ルカが誰かに頼んでまで、宿題をしていたとは。ゲームの中ですら、それほど熱心に勉強するルカは描写されていなかった。
「すごいですわ! ルカ様はやる気になれば数学もできるんです」
「でも、難しくて徹夜したんだぜ……かっこ悪すぎ」
徹夜するほどのやる気は一体、どこから出てきたのだろうか。とにかく、ルカは本気になれば物凄く頑張れる子だ。
「完璧に解けるまで努力したルカ様は、とても素敵ですわ! 誰しも初めはうまく行かないものです。ルカ様はそれを、努力で乗り越えられる能力をお持ちですわ。剣術もそうです。初めは大変そうでしたのに、今では騎士団長様とも互角に渡り合えるではありませんか。全ては、ルカ様の努力の賜です!」
思わず推しについて熱弁してしまい恥ずかしいモニカだが、ルカは「そうか……?」と少し気持ちが回復したようだ。
「はいっ。学園生活は始まったばかりですもの。まだまだ挽回の余地はありますわ」
「そう……だな」
ルカはやる気が戻ってきたようだ。金色の瞳にわずかな希望の光が伺える。
モニカは、勉強会を提案するなら今だと判断した。
「ですからこれからは一緒に、宿題や予習をしませんか? 勉強も二人でしたらきっと楽しいと思いますよ」
なんならリアナも呼べば、二人の信頼度もさらに上がって一石二鳥だ。モニカは新たな作戦を練りつつ、ルカに微笑みかける。
しかしルカは、笑顔になりかけていた顔を一気に曇らせた。
「やだ」
「えっ……。どうしてですか?」
「それって、俺が一方的に教わるだけじゃねーか」
「初めのうちはそうなってしまいますが……」
「俺は、そんなのやらねー」
「そんな……。私が一緒ではお嫌ですか?」
幼馴染として、揺るぎない信頼関係を得ていると思っていたのに。
ルカはモニカの手を振りほどいてから、バケットサンドを鷲掴みにして立ち上がる。
「これ以上、恥の上塗りはしたくねーんだよっ」
そして、ポケットからなにやら取り出したルカは、モニカに向けてぽーんと投げてから、この場を逃げるように去って行った。
受け取ったモニカは、ぽかんとしながら手のひらにあるキャンディを見つめる。
(……どんな時でも、バケットサンドとお礼のログボは忘れないのね)
「それは、『男のプライド』だろうな」
翌日の放課後。モニカは、昨日のカリストへのお礼としてバケットサンドを作り、彼の研究室を訪れていた。
ついでに、バケットサンドを頬張るカリストにルカの相談をしてみたところ、そんな答えが返ってきた。
「男のプライド……ですか?」
「昨日の授業を見た限りでは、あいつはモニカの世話を焼きたいんじゃないか? それなのに勉強の世話をされたんじゃ、あいつのプライドが傷つくんだろ」
確かにルカも「恥」とか「いいところを見せたかった」と言っていた。
「ですがルカ様には、早急に勉強を頑張ってもらわなければ、定期試験に響くんです。私のお節介のせいで、ルカ様は勉強ができると思われしまっていて……。これ以上ルカ様に、恥を掻かせられません」
クラスで恥を掻くことを考えたら、モニカの提案を受け入れてくれてもよいだろうに。
彼は頑なに、モニカに対して恥を掻きたくない様子。幼馴染なら気にする必要もないと思うが。
それがカリストの言う『男のプライド』なのだろうが、やはりモニカとしては納得いかない。
「先生。何か良い案はありませんか?」
「そうだな……。教師だとあまり使えない策だが、褒美を用意するのが手っ取り早い。それと、モニカ以外の誰かを教師役にしたらいいんじゃないか?」
「なるほど……」
ご褒美は用意できそうだが、教師役を引き受けてくれる者はいるだろうか。モニカはじっとカリストを見つめた。
「……いや、俺はやらないぞ」
「そんなぁ……。刺繍は教えてくれましたよね?」
「それは、モニカが懸命に頼み込んできたからだ。あいつに頼まれてもいない教師役を、わざわざ引き受けるつもりはない」
(先生の言うことはもっともよね……。かといって、ルカ様に「先生にお願いしにいきましょう」と誘っても、乗ってくれるとは思えないわ……)
やはり、友達同士で勉強会を開くのが無難な気がする。
「わかりました……。リアナちゃんたちにお願いしてみようと思います」
元からリアナは誘うつもりだったし、彼女に頼んでブラウリオとロベルトにも参加してもらえば、ルカも参加しやすいかもしれない。
そう考えていると、急にカリストがモニカの頭をなでてきた。モニカはきょとんっとしながら彼を見つめる。
「先生……?」
「あれから、モニカの環境が随分と変わったようだ。良かったな」
今までのモニカなら、困った時に友達に頼ることができなかった。カリストはそのことを言っているようだ。





