149 王宮での暮らし6
皆が宮殿の中に足を踏み入れた途端、精霊たちがポンポンっと出現して、一斉に階段の手すりへと飛んでいく。
「わー! ひさしぶりー!」
「やっぱり、このてざわり!」
「数百年のときをへて、さらに、みがきがかってる!」
「やっぱ、このすべりだい、さいこうー!」
ルカの精霊ルー、ミランダの精霊ミー、ロベルトの精霊ロー、ビアンカの精霊ビーが階段の手すりを滑って遊びだすと、ブラウリオの精霊リーが「これが、伝説の、すべりだい……!」と感動しているようだ。
(ふふ。皆、忘れていなかったみたいね)
当時、この手すりを気に入った四人はいつもこれで遊んでいたが、まさかそれが伝説として語られていたほどとは、ちょっと面白い。
「あいつら、ここにきたことあんの?」
ルカが不思議そうにモニカに尋ねてきた。ほかの皆も同じ疑問を抱いているようだ。
「皆様にはまだお話していませんでしたね。ルー、ミー、ロー、ビーは、かつての私と一緒に魔獣王を倒した仲間でして、四属性の精霊王なんです」
「マジかよ……あのルーが火属性の精霊王……?」
「ミーが精霊王だなんて、私の精霊にぴったりの称号ですわね」
「ローはああ見えて博識なのが、納得できました」
「精霊王とかよくわからないが、ビーはいいやつだ」
精霊王と契約していた事実を知っても、四人はわりといつもどおりだ。それだけ精霊との絆も深まっているように見える。
もともと精霊王たちはあのような雰囲気なので、とても親しみやすいということも大きそうだ。
精霊は人間が大好きで、遊び好きで、社交的。そういうものだと思っていたが、例外も一応はありそう。
モニカはカリストに視線を向ける。
「あの……。カリストの精霊さんは、皆様と一緒に遊ばないのですか? もう呪いも消えましたし、自由に行動できますよね?」
カリストの精霊はこれまで、呪いのせいで目が見えないカリストの代わりに、目としての役割を果たしてきた。
呪いが解ければ自由に行動すると思っていたが、いまだに姿を見せていないことが、少し気になっていた。
精霊はもともと、主人以外には用事がなければ姿を見せないものではあるが、リーがモニカのサインを欲しがったように、女神には興味を示すと思っていた。
「一応、俺の目の中からは出てきたんだが……」
カリストは歯切れが悪そうに説明してから、自身の胸ポケットの中を覗き込む。すると、黒い髪の毛の精霊がちょこっと頭を出して呟いた。
「女神さま、きらい」
そしてすぐに頭を引っ込める。
「え………………?」
驚きのあまりモニカは表情が固まる。
カリストの精霊に嫌われているなど、考えもしていなかった。
カリストの呪いを解いたのはモニカだ。感謝されるとまではいかなくとも、自由になれたことを喜ぶかと思っていた。
「カリスト~……」
泣きそうな顔を彼に向けると、カリストは申し訳なさそうにモニカの頭をなでる。
「悪いな。モニカのせいではないよ。こいつは特殊で、暗い場所が好きなんだ。俺の目の中は呪いで暗いし風が渦巻いているような感覚で、心地よかったらしい」
「そうなんですね……」
つまり極上の居場所をモニカが奪ってしまったようだ。
理由を知っていたとしても、モニカに呪いを解かない選択肢はなかったので、こればかりは仕方ない。
「モニカ嬢。死にそうなお顔をしておりますけど、大丈夫ですの?」
「大丈夫です……」
不思議そうに首をかしげるミランダに、モニカは精神衰弱でげっそりとしつつも答えた。
今はミランダにバケットサンドの作り方を教えるために、二人で厨房にきた。リアナとビアンカも誘ってみたが、リアナはすでに作り方を知っているので遠慮し、ビアンカは料理が苦手らしい。
「精霊の発言なんて気まぐれですもの、いちいち気にしないほうがよろしいですわ」
「そうなんですけど、これから一緒に住む間柄ですし、できればなかよくしたいです……」
カリストの両親――特に母親については、カリストの気持ちを尊重することにしたけれど、カリストが信頼している精霊とは良好な関係を保ちたい。
「精霊は単純ですから、お菓子で釣ってみるのはいかがです?」
(お菓子……。喜んでくれるかな?)
精霊は単純に見えても、実はしっかりと考えをもっている。
簡単には許してもらえないかもしれないけれど、こちらの誠意は少しでも伝わるかもしれない。
それに、嫌われてもがんばるのが乙女ゲームだ。
今日はカリストの精霊を攻略するつもりでがんばってみよう。
「居場所を奪ってしまったお詫びに、作ってみることにしますね。アドバイスありがとうございますミランダ嬢」





