104 事件の結末4
人間が準備もせずに地面を掘れる深さなど、たかが知れている。さほど苦労することなく証拠は姿を現した。
「こんな埋め方をするなんて……」
精霊の怒りにより骨だけの状態となったイサークの部下は、無造作に原型が崩され、一か所にまとめられた状態で埋められていた。まるでゴミでも埋めるかのように。
前世では火葬が一般的だったモニカでも、これはひどいと感じる。土葬をおこなっているこの国の者たちならなおさら、そう感じるだろう。
「こいつも馬鹿だよな……。イサークなんか信じて。俺と同じだ……」
ルカは沈んだ様子で呟く。
この部下は、モニカたちがハイキングから戻った数日後に突然、騎士団を辞めたのだという。
故郷へ戻るという理由で、退団届けだけを残して消えた。イサークは困ったように皆へ説明した。
部下は自らを過大評価しすぎる部分があり、日頃から騎士団では厄介者扱いされていた。そんな部下を引き受けたイサークを皆は、人格者だと称賛していたほど。
だからこそ誰も、イサークを疑わなかった。
(ゲームのルカ様と同じだわ)
ルカの父親が襲撃された際に、イサークによってルカは濡れ衣を着せられた。イサークが捏造した証拠を、誰も疑わなかったのだ。
イサークは常に真面目で優秀であり、素行が悪いルカと比べると、正当性が明らかのように見えたから。
「ルカ様と同じではないです。ルカ様はイサークのこんな計画に乗ったりしないでしょう?」
ルカは、扱いやすいようでいて、自分の信念は絶対に曲げないタイプ。だからこそイサークは、ルカを利用しきれずに陥れる選択をしたのだ。
イサークが絡むとルカは落ち込みがちだ。心配しながら見つめていると、彼はモニカの手を取り、自らの頬にすり寄せる。
「俺……。この事件は、モニカの支えがないと耐えられそうにない」
潤んだ瞳で、捨てられた子猫のように「にゃぁ」と鳴きそうな雰囲気。
(ルカ様、なんかこれ、スチルみたいですよ……?)
こんな可愛いルカを見るのは、子どものころ以来だ。保存したい。この尊い一瞬をどこかに保存しておけたら良いのに。
「モニカの同情心を煽るな」
カリストがモニカの腕を掴み、引っ込められたことでモニカは我に返る。
(今のはまったく同情していませんでした……)
申し訳なく思いながらルカを改めて見ると、彼はイタズラが不発してつまらないような表情をしている。
本当に同情されたくての行動だったようだ。そんなことをしてしまう推しも可愛い。
「ここを起点にして、周囲に遺留品がないかもう一度調べてくれ」
ブラウリオは騎士団にそう指示した。以前にくまなく捜索したようなので、遺留品が見つかる可能性は少ないが、今は騎士団を遠ざける必要がある。ここからはモニカの出番だから。
遺骨の前にモニカたちだけ残ると、周りから見えないように皆で骨を囲んだ。
「おーい。女神さまがきたよー! 出ておいで―!」
ルーは骨に向かってそう呼びかける。精霊は基本的に主人の前にしか姿を現さない。主人が骨になってしまってもそれは変わらない。
ましてやモニカたちとは初対面。精霊王の呼びかけだとしても姿を現す可能性は低そうだが――。
骨に宿っていた精霊は「女神さま!」と叫びながら姿を現した。
さすがは女神効果。珍しいものを見たいという欲求は、人間も精霊も共通だ。
ルーと同じく赤い容姿の精霊ということは火属性のようだ。
「初めまして、火属性の精霊さん。私はモニカと申します。女神ではなくモニカと呼んでくださると嬉しいです」
「モニカ……」
そう呟いた火属性の精霊は、瞳を潤ませながらモニカの指に抱きついてくる。
「うぇ~ん。ご主人さまがぁ~。ご主人さまがあいつにそそのかされて、わっちを裏切ったのぉ~」
あの事件から一年以上すぎたが、精霊はいまだに契約者から裏切られたことに悲しんでいたようだ。
もっと早くにこの事実に気がついていれば、この精霊を寂しい場所で悲しませずにすんだ。
精霊と契約者は、契約者の死後も関係が維持される。そのため葬儀の際には、契約を解除して精霊を聖木の森に返す儀式をしなければならず。
それをできずにいると、この精霊のように聖木の森にも帰れず。骨に宿ったままで、契約者の死を悲しみ続けることになる。
精霊から直接的に聞いた事情も、イサークの精霊から聞いた話とおおむね同じだった。
「精霊さんの契約を解除して、聖木の森へお返ししたいと思っています」
「本当……? でもわっち、ご主人さまを置いていけない……」
裏切られてもずっと悲しんでいた精霊は、契約者のことを心から好いていたようだ。
「精霊さんの契約者さんも、ちゃんとお墓に埋葬します。それから、精霊さんの無念も晴らしませんか?」
「無念……?」
「私たちはイサークの罪を裁判で明らかにしたいと考えています。精霊さんが証言してくだされば、必ずイサークに罰を与えられます」
泣き顔が明るく変化する精霊へ、モニカはもうひとつ事実を突きつけねばならない。
「その代わり。事件を明らかにすると、契約者さんも罪に問われます。実際に魔獣を召喚したのは契約者さんなので。契約者さんは罪人として埋葬されるでしょう。証人を拒否することも可能ですが、申し訳ありません……。私たちはほかの方法を探してでも、イサークの罪を明らかにするつもりです」
今日ここへ来たのは、裁判で証人になるお願いと、契約者が罪人になる事実を知らせるためだ。
証人にはなってもらいたいが、精霊が証言することで主人の罪が確定してしまう。その事実を隠したまま証人にはさせられない。
「わっち、証人になる! ご主人さまは悪いことしたんだからしょうがないもん……。それに、ご主人さまはわっちから罰を受けたのに、あいつはのうのうと生きてるなんて許せない!」
精霊はイサークの心臓にも傷をつけた。それほどイサークに対しての恨みが強い。
契約者への想いが残っていることが気がかりだったが、決断してくれたことにモニカはほっとする。
これで証拠はそろった。後は裁判でイサークの罪を明らかにするだけだが。
(リアマ卿は大人しく罪を認めるかしら……)
そして、裁判当日。




